カルチャー

びわ湖がある働き方とは?「チェアリング」の発案者・アサダワタルさんの仕事観

【しがトコインタビュー:滋賀ならではの働き方】

街の喧騒も、ネオンもない。ここは、人の気配とは離れた場所。
壮大なびわ湖と向き合うように椅子をおけば、
ノートパソコンひとつで仕事だってできる!

場所を選ばない働き方が浸透する今だからこそ、
日本一の湖。びわ湖が目の前にある、
滋賀県の価値が見直されているのかも。

はたらく原動力は、創造的な時間の中にある。

そんなスタイルを2012年からいち早く実践していた人がいました。
文化活動家のアサダワタルさんです。

アサダワタルさん

アサダワタル(あさだ わたる)
大阪府出身。文化活動家、アーティスト、文筆家。
音楽などの「表現」を軸に、まちづくり、教育、障がい者福祉などさまざまな分野で活動。
自宅をゆるやかに他者に開くムーブメント「住み開き」の提唱者としても知られる。
品川区立障害児者総合支援施設アートディレクター、
東京大学大学院、京都精華大学非常勤講師。
https://www.kotoami.org

現在は東京を拠点に、表現を軸としたさまざまな
活動を行っているアサダさんですが、
びわ湖のそばで仕事をするため出身地である大阪から滋賀に移住、
約5年間暮らしていたことがありました。

お気に入りの椅子を持って外でゆっくり過ごすという、
いま巷で話題の「チェアリング」のアイデアも、
じつはアサダさんが生みの親。

チェアリングが生まれた日のこと


参照:椅子さえあればどこでも酒場「チェアリング」とは!? |デイリーポータルZ

椅子さえあれば、広々とした野外でゆっくり過ごせるという
気軽さが、コロナ禍をきっかけに
さまざまなメディアでも注目を集めています。

そんな「チェアリング」のアイデアが生まれたのは、
当時、暮らしていた滋賀でのちょっとした出来事がきっかけだったと話すアサダさん。

「最初はね、こんな椅子を持ってびわ湖の近くを歩いてたんですよ」

オンラインの取材中におもむろに立ち上がり、
椅子を画面に掲げるアサダさん。
想像していたアウトドアっぽい椅子とはまったく違う!
自宅で使うみたいな、可愛らしい姿がそこにはありました。

「2012年に滋賀に移住し、
その一年後に長女が生まれまして、
住む所と、仕事する場所をわけてたんです。

ある日、仕事場と自宅の椅子を交換するために、
椅子を持って外を歩いてたんです。
運ぶ途中で疲れたから椅子に座ってみたら、
ちょうどびわ湖が見える場所で、風が気持ち良くて」。

そして、座ったときの、非日常感がとても新鮮だったと話すアサダさん。

「急に視線が低くなって、風景の見え方もぜんぜんちがう。
低い場所でしか聞こえない音や風景がそこにはあって。
時の流れもゆっくり流れるみたいで。
路上に椅子をおくだけで自分の意識も変わるんですよ。
“日常”の延長線上にいながらも、視線を変えるだけで
“非日常”へとスライドするみたいな感じで」。

アサダさんがびわ湖の見える場所に暮らしはじめた理由、
そこには日常と非日常がキーワードとしてありました。

びわ湖を感じながら仕事できる環境を求めて

「びわ湖の近くの、浮いた感じの空気というか。
あの空気を吸いながら日常にしたかったんです。
僕にとってびわ湖は非日常でした。
もともと大阪で堺のニュータウンに生まれて、
水辺にあんまり縁がなかったんですよ」。

2012年、滋賀に移住した理由をそう話すアサダさん。
水辺は非日常そのもの。だから、大阪では淀川が見える場所を選んで暮らし、
もっと大きな水辺を求めて日本一の湖のそばへと移住したのだそう。
ただ、びわ湖のそばで仕事をするといっても、
静かすぎる環境だと逆に仕事ははかどらない。

びわ湖岸で楽しそうに歩く観光客の笑い声、
観光船を待つ人の旅への高揚感。
特にびわ湖岸の中でも浜大津は観光客も多いスポット。

ここは平日の昼間であっても、小さな祝祭性が溢れている。(アサダワタル著『表現のたね』より抜粋)

アサダさんは自身の著書『表現のたね』の中で、
びわ湖のそばで暮らす魅力についても語っています。

「よくやってたのは、びわ湖ホールの前のベンチです。
あの辺はランニングしてる人も多いんですが、
パソコン広げて仕事してましたよ。
びわ湖と向かい合うようにベンチがあってね、
お昼はご飯を買ってびわ湖を見ながら食べてて。
そこでパンをトンビに奪われて。うわ持ってかれた!って。
僕ね、懲りずに3回ぐらい奪われてるんですよ。
3回目になると、もう持ってけ持ってけって感じで(笑)」。

びわ湖を眺めることは、仕事前の準備体操?!

目の前には琵琶湖
非日常と、日常が交差する場所。
びわ湖を感じて仕事をする魅力はよくわかるものの、でも…。

非日常に溢れたこの景色の中で、
本当に仕事は、はかどるのだろうかという素朴な疑問も。

「やっぱりね、煮詰まるんですよね。ずっと同じ場所で仕事してると。
もともと僕自身、移動するという行為自体が好きで。
だから飛行機より新幹線の方が良いのは、飛行機は
飛んでる間、ずっと同じ景色になっちゃいますよね。
景色が流れていく方が実は仕事がはかどったりします」。

簡単にいえば、ちょっと環境を変えることだと話すアサダさん。
とくに、びわ湖を目の前にすると、
そこにはびわ湖と空だけの開けた視界が広がっている。
しかも周りには住宅があって、ちゃんと“日常”の暮らしが営まれている。

「びわ湖のそばで暮らしていた時のことを思い返すと、
一番多くやっていたことは、じつは読書。
どちらかと言えば“インプット”でした。
びわ湖でパソコンをひろげて原稿を書いたり、メールするよりは、
本を読むという時間がとても多かったと思います。

家だと景色が固定するけど、びわ湖の前にくれば、
今日はここのベンチに座ろう、この場所にしようとか。
びわ湖も見る場所によって景色が違うから、
読んでる内容と、目の前の景色ってセットで覚えるんですよね。

そういえばこのページ読んだ時に
あそこの景色を思い出すなあとか。音楽もそうですが、
どこかで紐づけているところはあると思います」。

ただ単純に、ゆっくりとした時間の中で余暇を楽しんでいるように見えて、
じつは、内部ではすでに次の仕事のモチベーションにつながる助走が
始まっているのかもしれません。

効率的に、生産的に、時間の無駄がないように。
仕事にはそういうことも必要だけど、
アウトプットするばかりではいつか枯渇してしまう。

時々は、目の前の風景を眺めてぼんやりしたり、
びわ湖を眺めて読書をしたりする非生産的な時間も、
大きくジャンプするには必要な一歩。

びわ湖を感じる場所に椅子を置いて、
ゆっくり過ごしたり、創造的な仕事をしたり。
これってまさに『ビワーケーション』なのかも。

・・・いや、ちょっと待ってくださいよ?
いま、普通にきれいにこの記事を書き終えようとしちゃいましたが……。
やっぱり最後に突っ込んでおきたい!

気になってるのは私だけでしょうか。

後ろに写ってるソレです、ソレ。

「これですか? 崖踊りって書いてるんですよ」と
爽やかに説明するアサダさんですが、
いやいや、どういうシチュエーションでそれを?!

崖で踊るという強烈な毛筆を凝視しつつも
書いた理由を聞いてみると・・・なんとお正月の
・・・書初め!!

アサダさんがアートディレクターとして参加している
品川区立障害児者総合支援施設で
「お正月に施設のご近所に立ち寄ると、
子どもたちが書初めをしていたから」と、
崖っぷちで踊る決意を一緒に書初めしたのだとか。

といっても、その決意は今に始まったことではなく。
表現を軸として、日常と非日常の崖っぷちに足を踏みしめ、
これまでにプロフィールに書ききれないほど
多様な活動を行ってきたアサダさん。

例えば、個人の生活の場である自宅を、
ほかの誰かに無理なく開放する『住み開き』や、
2016年には、いわき市にある福島県復興公営住宅、
下神白(しもかじろ)団地を舞台にしたコミュニティプロジェクトも始動。

音楽と対話を手掛かりに、住民がかつて住んでいたまちの記憶を、
思い出の音楽とともに語ってもらう番組「ラジオ下神白」をCDに記録し、
人から人へと伝わる、記憶の交流を支えています。

日常も非日常も、崖のふちに立つからこそ遠くまで見渡せる。
どちらの世界も軽々と行き来するような、
不思議な雰囲気をまとったアサダさんですが、
最後に、びわ湖のそばで働く魅力について、
こんなコメントをいただきました。

「椅子を置いて座る場所は、
びわ湖が目の前に広がるような
平面の場所だけじゃなくても良いと思うんです。
例えば、びわ湖を上から見るような場所で、
眼下に広がる景色を見ながら仕事や本を読んでみるとどうなるのか。
“びわ湖”というものを中心としながら、
真横から、上からと高低差をつけることができるのも
ビワーケーションの楽しみ方かもしれません」。

生産的な仕事はもちろん大事。でも、息苦しいときもありますよね?
身の回りにはいつでも人の気配がいっぱいで、
テレビにラジオ、ネットにSNSにいろんな広告の背後にホラ。

それならいっそ人の気配に囲まれて働く日常からすこし逃避行して
“大きな自然”に没頭する時間をもってみるのもおすすめです。

日本一の湖、びわ湖を目の前にすれば
ちょっとした逃避行も栄養のひとつに。

はたらく原動力は、創造的な時間の中にある。

場所を選ばない働き方が浸透する今だからこそ、
びわ湖×ワーク×バケーション『ビワーケーション』の働き方をしてみるというのは、
急激な変化に疲弊しがちないまの時代にこそ
求められているのかもしれません。

(文:亀口美穂)

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