【トークセッション「人とやまの関わり 祈りと恵み」】
滋賀県の面積の半分を占めているのは「山」。
たしかに滋賀の地図を思い浮かべてみれば
真ん中にびわ湖があり、その周囲に人が暮らし
びわ湖と人を包み込んでいるのは雄大な山々です。
「自然信仰」や「木地師」などさまざまな目線から
人と山の関わりを紐解き、山の魅力を考える
トークセッション『祈りと恵み』をご紹介します。
登壇者は、滋賀の民俗学を研究されている渡部圭一さんと
東近江市が発祥とも言われる木地師の調査研究を続ける筒井正さん。
そして、司会進行をしがトコの林が務めました。
動画の全編は記事の最後よりご覧いただけます。
本記事ではトークセッションから一部抜粋してご紹介します。
山や田んぼにも神様が。自然信仰が盛んな滋賀の風土
最初のテーマは「自然神信仰」について。
滋賀の民俗学を研究してきた渡部さんは
「滋賀県というと、湖と人の関わりってのが重要なトピックですが、『自然神信仰』も大変盛んなところで。例えば、『山の神』行事というのが県の無形民俗文化財に指定されていて、そういう点も大変面白いなと思っております」と話します。
自然神信仰とは、自然環境の中に神様や仏様がいると考える信仰のあり方で、
滋賀で暮らしていると知らずに目にしてることもあるのだとか。
例えば、田んぼの真ん中に立っている1本の木。
見たことありませんか?
「田んぼの真ん中にぽつんと木が1本立っている。周りに石積みなどが作られたり、簡単な鳥居みたいなものが設けられたり。こういうのを『野神』と言います。耕地や田畑の神様で、地元では野神さんの行事というのが今でも受け継がれてたりしますね」。
野神と一対のものとして存在するのが「山の神」。
東近江市今堀では、集落の外れの木立に御神木があり、お正月には写真のように御幣を差して、豊作や山の安全を祈願するそうです。
「山に住む神を竜と考える地域も多かったんですね。竜というのは天候を司る神、雨を司る神。この竜に祈ることによって、雨が降らない時になんとか降らしてほしいと祈願する行事も盛んでした。
近江の竜王信仰って言って、竜が山に住んでいると考えて、そこに祈願をするのは、滋賀の特徴と言っていいと思います」。
山は同時に川の源流でもあり、
色々な意味で人の暮らしを司る領域だったのでしょう。
その山を崇め、お願い事をするのは、自然な心理かもしれません。
9歳まで暮らした山の中での生活とは?
筒井さんは、幼い頃は電気もガスも水道も通っていない
深い山の中の集落で暮らしていたそう。
「いわゆる生活の場所は森の中だし。働く場所も森の中。まさに森の中で生まれ育って、ずっと一緒に過ごした、そんなところに私は生まれ育ったんですよね。必要なもののかなりの部分はこの山の中で手に入れるわけですね」。
「親父には、今日は山の神様のお祭りの日だから山の中には入っちゃいけないと言われていて。それぐらいやっぱり山の神様に対する畏れというのは、強くあったんだろうなと。それは感謝する気持ちの表れだと思うんですよね」
山の神の日以外は、山に入り杣道を作り、
カヤ(ススキ)を集めて屋根を葺き、
村にある大きなトチノキを神木として崇める。
そうやって常に山の恵みを享受しながら暮らしていたと話します。
「ちゃんと山の恵みを村のみんなが公平に使えるように。神様に対しては畏れの気持ちも表しながらね、ずっと暮らしてきたという、そんな記憶が残ってますね」。
山と生きた「木地師」の興味深い活動
また筒井さんは、山と密接に関わって生活してきた
「木地師」の調査研究もされています。
木地師とは、トチ・ブナ・ケヤキなどを伐採し
轆轤(ロクロ)と呼ばれる特殊な工具を使って
お椀やお盆などの木地を作る職人のことです。
東近江が「木地師発祥の地」と言われていることに関しては
「これはあくまでも伝承ですね。まだ、はっきりと解明されてないので今後も研究を続けていかなきゃいけないんですけども。ただ、私の母の在所の蛭谷(ひるたに)とか、隣の君ヶ畑(きみがはた)集落に行きますと、そこには氏子狩帳(うじこかりちょう)とか氏子駈帳(うじこかけちょう)というものが残っていて、県の文化財にも指定されています」。
狩帳や駈帳は、全国の木地師の住所や名前を書かれた戸籍簿のようなもの。
これを頼りに全国に散らばった木地師のもとを訪ね歩き
神社の氏子料などを徴収してまわっていたのだとか。
蛭谷や君ヶ畑が、全国の木地師にとって特別な場所であったことが伺えます。
「日本全国の自治体史を調査してるんですけど、面白いことに村の成り立ちの部分に木地師が開いたとされる集落が多いんですよ。そう考えると、木地師の果たした役割というのはすごく大きかったんじゃないかと。木地師を伝統文化として、きちんと研究し評価すべきではないのかなと思ってます」。
知ることで山がより身近に
トークセッションの最後には
「昔の人がもっていた山に対する愛着のようなものですね。そういう関わりが様々にあったということをまず知るところから始めれば、まず山の見え方も変わってくるんじゃないかと思うんですね」と渡部さん。
たしかに歴史的背景や文化を知ることで、
普段見にしていた山もまた違って見えるかもしれません。
興味のある方はトークセッション全編をご覧ください。
Youtubeリンク 【滋賀の山岳信仰】祈りと恵みトークセッション
森林資源のもつ多様な価値に気づき、自然と共生する幸せで健康な暮らしを実現しよう!
滋賀県の面積の1/2は山です。
山を知り、山の魅力に気づくことは、滋賀での暮らしをより豊かにしてくれます。
滋賀県が推進する「やまの健康」普及啓発では、木材をはじめとする
林産物、水、景観や空間、CO2吸収量クレジットなど、
森林資源の持つ多様な価値を、事業活動の中で活用することによって、
県民が自然と共生する健康で幸せな暮らし(FATHER FOREST Life)
を実現することを目指しています。