カルチャー

山の中に「響き」が生まれる。山中suplexが始めた、土地と音のつながり

【しが文化交流プロジェクト/みんなで響きをラーンする!】

滋賀県大津市、山中町。
京都へと抜ける峠道の一角に、アーティストたちの共同スタジオがあります。

ここで2025年の夏、「響き」をテーマにしたイベントが行われました。

盆踊りや踊り念仏のこと。
山の倒木を叩いて音を鳴らすこと。
土地に根づく歌を、自分の言葉でつくること。

インドネシアと日本、アーティストと地域の人たちが一緒になって、「音」や「声」を通じてこの土地と向き合った5日間。
「山中suplex(やまなかすーぷれっくす)」が手がけた『みんなで響きをラーンする!』。
その中身を、のぞいてみましょう。

山中suplexが「ラーンする」

山中suplexは、2014年に京都の芸大出身者など、7人のアーティストが集まって設立した共同スタジオ。
元々は産業廃棄物が捨てられていた採石場跡を、自分たちの手で改築してきました。

ゴミ捨て場から世界をひっくり返す!アート集団『山中suplex』が目指すもの

2024年から彼らが始めたのが「みんなで◯◯をラーンする」シリーズ。
一方的に教えるのではなく、地域や参加者と一緒に、学び合うことを大切にした取り組みです。

今年は、盆踊りなど祭りの季節にあわせて、「響き」をテーマに設定。
土地に根づく音や声、民俗芸能を手がかりに、インドネシアから2組のアーティストを迎え、関西で活動する4人のリサーチコラボレーターとともに、5つのプログラムが行われました。

「もう民俗芸能なんて要らないよね?」佐藤健大郎×武田力

最初に行われたのは、思わず身構えてしまうタイトルのトークイベントでした。

佐藤健大郎×武田力トークイベント

大津市比叡平で盆踊りの復活に取り組むダンサーの佐藤健大郎さんと、高島市朽木で踊り念仏の継承を続ける演出家の武田力さん。
今回が初対面の二人が、それぞれの実践を語り合いました。

トークといっても、かなりパフォーマティブ。
武田さんは、踊り念仏をその場で実演。
佐藤さんも、盆踊りを踊ってみせる。
身体を動かしながら、言葉を重ねていく時間でした。

ダンサーの佐藤健大郎さん

佐藤さんが語る盆踊りは、「開かれた踊り」。
型から外れてもいい。それぞれの個性が、そのまま許容される。

一方、武田さんの踊り念仏は、あえて「限られた人しか踊れない」。
閉じているからこそ、強いコミュニティが生まれるのだと言います。

参加者とのコミュニケーション

「民俗芸能を税金で復活させる意味って、どこにあるの?」

そんな核心をつく問いも、率直に交わされました。

普段のトークイベントでは、あまり口にされないテーマ。
けれど二人のやりとりを聞いていると、民俗芸能が「続いてきた理由」も、「続けている理由」も、確かにそこにある。
そう感じさせられる時間でした。

五感を「楽譜」にして合奏する

続いて行われたプログラムは、山の中でのワークショップ。
インドネシア・スラバヤから来た二人のアーティスト、ヘルミ・ハルディアン、アンジェラ・スナリヨと一緒に、まず、山中suplexの周辺を歩きます。

ブックレット

匂いを嗅いで、足元の感触を確かめて、耳を澄ませて。
感じたことを小さなブックレットに記録していく。
そうして、自分だけの「五感の楽譜」を作っていく。

プログラムの後半では、その楽譜を、実際に自分たちで演奏します。
光や色に反応して音が鳴るシンセサイザーを自分たちでつくっていく。

専門的な機材や技術ではなく、ローテックな仕組みをつかい、バイオアートやメディアアートを、オープンソースとしてひらく試み。

シンセサイザー

最後は、それぞれがつくった「五感の楽譜」を手に、みんなで合奏。
音楽の経験がなくても、楽譜が読めなくてもかまわない。
自分の感覚が、そのまま音になっていく。

山の中で拾い集めた感覚が、重なり合い、ひとつの響きになる。
そんな不思議な体験が生まれていました。

山の木を叩いて、山に響きを返す

次に行われたのは、山中suplexの敷地そのものを使ったワークショップ。

木を叩く

まず手を入れたのは、敷地内に倒れていた木でした。
チェーンソーで切り出し、丸太を叩いてみる。
どんな音がするだろう?

参加者と一緒に音を確かめながら、どんな形にするかを話し合っていきます。

面白かったのは、ハンマーの発想です。
叩く道具が大きいほど、響きも大きくなる。
だったら、この丸太と同じ木から、ハンマーをつくったらどうだろう。

ハンマーづくり

そうして、丸太を叩くためのハンマーを、みんなで自作しました。

最後は、山に囲まれた砂防ダムへ。
丸太を叩くと、音が木霊となって、山に返っていきます。

山にあった木を切り、音具をつくり、音を鳴らし、それを山に返す。
そんな循環を、身体で味わう時間でした。

土地の記憶から「マイソング」をつくる|山田春江

4つ目は、山中町に残る盆踊りのリサーチから始まったプログラム。

印象的だったのは、この町には今も「歌い手」がいること。
多くの地域で録音された音源が使われるなか、ここでは、生の声で歌い継いでいるのです。

ワークショップでは、そのリサーチを共有したあと、参加者それぞれが自分の記憶をたどっていきます。

子守唄の記憶。
自分のルーツにある音や言葉。

それらを紡ぎ、民謡のリズムにのせて、自分だけの「マイソング」をつくっていきました。

伝統をそのまま再現するのではなく、「もし今、民謡が生まれるとしたら」。
そんな問いを、体験として確かめる時間でした。

土の楽器で、みんなで合奏する|テディ・ヌルマント

最後のプログラムは、インドネシア・ジャティワンギ村から来たアーティストによる、響きをめぐる実験です。

土の楽器づくり

地域の土で楽器をつくり、参加者と一緒に演奏する。
今回は、信楽の土で焼かないオカリナをつくり、山中suplexの周辺で見つけた植木鉢を打楽器に見立てて、みんなで合奏しました。

テディ・ヌルマントさん

演奏に使うのは「山中スコア」。テディさんがつくった図形楽譜です。

丸だったら1回叩く、三角だったら3回。Dの形だったら2回。
楽譜が読めなくても、直感的に音を重ねていける。

楽器の演奏

みんなで図形を見ながら、土地の素材でつくった楽器を鳴らす。
その響きが、山中suplexに広がっていきました。

土地と音は、つながっている

山中町から参加した人もいました。友達を連れてきてくれた人も。
リサーチを通じて、盆踊りの歌い手とつながることもできました。

その土地で大切にされてきたものと、外からやってきたアーティストが出会う。
組み合わせることで、新しい響きが生まれたり、広がりができたりする。
それはアートやカルチャーの新しいかたちかもしれないし、次の「滋賀らしさ」が生まれる場所なのかもしれません。

山の中に響きが生まれる。
それは、土地と音と人がつながっていく、始まりの音なのでした。

(文:しがトコ編集部/写真:tomohiro yamatsuki)

『みんなで響きをラーンする!』の詳細

期間
2025年8月13日(水)〜9月6日(土)
公式サイト
https://www.yamanakasuplex.com/news/learning-resonance-together
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