カルチャー

ゴミ捨て場から世界をひっくり返す!アート集団『山中suplex』が目指すもの

集合写真

【滋賀をみんなの美術館に】

峠道を進んだ山奥に、突然、現れるアートのための共同スタジオ。
DIYで改築されたスタジオはまるで大人の秘密基地。
しかも日々アートが生み出されるその場所は、元々ゴミ捨て場だった?!

滋賀と京都の間に佇む見捨てられた場所から、アートで世界を引っくり返すべく活動する共同スタジオ『山中suplex(やまなかすーぷれっくす)』を取材してきました!

ムキムキの門番があらわれた!

古くから、滋賀と京都を結んできた峠道「山中越え(やまなかごえ)」。
「比叡山ドライブウェイ」の入口や比叡平の住宅地などもある道中に、現代アートの舞台で活動する作家たちが集うスタジオがあります。

脇道を進み、人気のない場所へと入ってきた私たちの前に突如現れたのは……

ムキムキの彫刻?!

ムキムキ

じつはこちらは、共同スタジオ「山中suplex」に所属している彫刻家・小笠原周(おがさわらしゅう)さんの作品。

ムキムキ基地

このムキムキの彫刻が門番のように立っているのが、アーティストたちが作品づくりを行う半屋外作業スペースです。
所属するアーティストのほとんどが彫刻や陶芸といった立体作品を制作していて、石彫を手がける小笠原さんのスペースは石を削った粉で一面まっ白!

石彫

小笠原さんのお隣は、同じく彫刻家の若林亮さんのスペース。
若林さんは鉄を使った作品を中心に制作されていて、中は溶接工場かガレージのようです!

若林さん

山中suplexに在籍中のメンバーは現在14名。
作業場にもそれぞれ作家の個性が出ていて、この空間自体が現代アートの展示作品に思えてきます。

と思っていたら、なんと実際にこのスタジオそのものが展示会場になったこともあるのだとか!

2020年に開催されたそのイベントは「ドライブイン展覧会」。

コロナ禍で外出自粛や三密回避が求められていた時期に催された企画で、来場者は自家用車に乗ったまま敷地内を移動し、FMラジオを自分でチューニングしながら、屋外に展示された彫刻や映像作品を鑑賞することができました。

DIY

自動車で芸術鑑賞なんて自由すぎる……!

山奥かつ広々とした立地だからこそ実現できた企画といえますが、なぜ山中suplexはここにスタジオを建てられたのでしょうか?

そもそもここには元々何があったのでしょうか?

京都の寺社を支えた採石場、そしてゴミ捨て場だった歴史

「産業廃棄物が捨てられていたんですよ」
そう話すのは、山中suplex設立時のメンバーの一人であり美術家の小宮太郎さんです。

小宮さん

山中suplexは、京都の芸大出身者など7人のアーティストが集まって2014年に設立されました。

彫刻や陶芸、金属加工といった立体物を作るアーティストの作業では、絵画と違って加工音や粉じんなどが発生するため、京都市内といった住宅街で作業場を確保するのは困難な状況でした。

そうして作業場を求めて見つけたのが、現在の大津市山中町にある白川石の採石場跡でした。

白川石

白川石とは寺社仏閣に用いられる白川砂の原料で、災害防除と景観保全の点などで採石が禁止されてからは、この場所は建築業者に利用され、長年にわたって粗大ごみや瓦礫といった産業廃棄物が捨てられ続けていたそうです。

いわば”ゴミ捨て場”であった場所ですが、むしろアーティストたちにとっては好条件。
人里から離れながらも京都や大津にも近いということもあり、この場所を借り受けて共同スタジオ「山中suplex」が誕生しました。

ゴミ捨て場に建つ大人の秘密基地

当時の業者に使われていたままに廃屋などが残っているものの、訪れた当初は敷地内に水道すら引かれておらず、まず最初の作業は大量に残された資材やゴミを片づけることだったといいます。

先ほど紹介した作業スペースも元からあったのはコンクリートの壁とはがれかけた屋根くらいで、半ば朽ち果てた場所だったそうです。

「アーティストが制作をしやすい環境をつくりたい」

そんな思いから制作に必要な空間や設備は全部自分たちで手作りし、改築を重ねていきました。

屋外

その見た目もできた経緯も、まさに大人の秘密基地!

子ども時代に憧れた世界に立っていると思うとワクワクするところですが、肝心の居心地について尋ねてみると「夏は暑くて冬も寒く、雨漏りしないところはない」とのことでした。

モノをつくるって、大変です……!

窯

また敷地内には手作りの窯が置かれていたり、完全屋内の作業スペースがあったりなど、アーティスト同士で道具やスペースをシェアしたり、締切が近いアーティストの作品づくりを手伝ったりすることもあるそうです。

そうしたシェアは、ハード面や技術面に限らないと小宮さんは話します。

屋内作業場

「僕よりも10歳以上若いアーティストも入ってきています。僕のこれまでの経験から伝えられることもあれば、逆に教えてもらえる情報もある。最近行われたイベントでは、ワークショップを通して、アーティストと参加者が思想や考え方をシェアしていました。場所だけでなく、知識も経験もシェアできる。一人じゃできなかったことも、集団になってできるようになったり、拡がりを持ちはじめました」。

集合写真

こうした同じ場所に集って活動するアーティスト集団のことを、近年では「アートコレクティブ」と呼称され注目を集めているそうですが、小宮さんは何も特別なことではないと語ります。

「助け合ったり、シェアしたりって、生きていくうえで必要なことだし、みんな自覚せずに自然にやっていると思います」。

ゴミ捨て場から世界をひっくり返していく

土

敷地内には砕けた白川石が堆積していますが、その下にはじつはまだまだ大量の産業廃棄物が眠っていて、こうしたゴミの問題は全国においても都市に近い山間部では珍しくないのだそうです。

京都の寺社仏閣を支えた白川砂が採れた山中町の歴史や、何気なく通り過ぎていた”土”について地元の人達と交流しながら一緒に考えたい。

そんな企画を実行に移すべく、2023年には国際共同調査・シンポジウム「みんなで土をラーンする!」をスタジオで開催し、その一環として始められたのが畑作りです。

作物が育つ要素のなかった敷地内で土を育てることから始め、そこに果実や日野菜などの野菜を植え、日々成長を見守り続けています。

畑

ドライブイン展覧会に続き、ユニークな作品や企画を発信し続ける山中suplex。

取材の最後に、ずっと気になっていた名前の由来について尋ねてみました。

「suplexはプロレス技の『ジャーマン・スープレックス』から来ています。何もないゴミ捨て場から世界の状況をひっくり返す、という意味を込めてみんなで決めました」。

滋賀と京都の狭間の捨てられた場所。
そこでは今日もアーティストたちが世界をひっくり返すべく、作品を生み出し続けています!

滋賀から世界へ!より豊かなアートシーンを目指して

クラウドファンディング

山中suplexは、さらに活動の場を広げるため、クラウドファンディング実施中です。

クラウドファンディングページはこちら

記事を書いた人
結城弘/滋賀県出身。小説家・ライター。滋賀が舞台として登場する小説『二十世紀電氣目録』『モボモガ』を執筆。趣味は旅行、レトロ建築巡り、ご当地マグネット集め、地酒。noteにて旅ブログなどを更新中。各SNS⇒ X(旧Twitter) Instagram

『山中suplex』の詳細

住所
滋賀県大津市山中町91
問い合わせ先
yamanaka.suplex@gmail.com
公式サイト
http://yamanakasuplex.com

提供:滋賀県 「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクト http://bino-shiga.net/

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