【しが文化交流プロジェクト成果発表会】
アートといっても、美術館の中に収まるものだけではありません。
地域のお祭りとして、電車の中吊りで、お寺の本堂で、音楽フェスで——。
「これってアートなの?」と思わず問いかけたくなるものから、最先端のデジタルアートまで、さまざまな場所や暮らしの中にアートが息づいてるのが滋賀のアートなんです。
地域の資源を生かし、独自の表現を生み出す8団体の活動報告が行われた「しが文化交流プロジェクト成果発表会」。
そこから見えてきた、滋賀のアート現場をレポートします。
人気観光施設で出会えるアート/近江の祭り たいまつ
滋賀県の人気観光施設「ラ コリーナ近江八幡」に、毎秋、出現する力強い松明(たいまつ)のシルエット。
これは「文化遺産としての松明を次世代へ贈る会」によるもので、今年で8年目の取り組みです。

もともと近江八幡市では、春になると市内各地で200基以上の松明が奉納されます。この伝統文化を”次の世代へつなぐ”ために始まったのが、ラ コリーナでの松明展示です。
ヨシを束ね、地域の人が集まって松明を結う。
その技術に設計図はなく、すべてが口伝で受け継がれてきました。
しかも、町ごとに松明の形状も違うんです。

「後継者育成とは、自らが頑張る背中を仲間に見せることだ」と話すのは、代表の大西實さん。
学生や観光客らも巻き込みながら、みんなで大きな松明を結い上げていく。
松明を結う工程も、展示もすべてが、アートの一環です。
近江商人の町全体が美術館に/国際芸術祭BIWAKOビエンナーレ2025
同じ近江八幡を舞台に、2年に一度、国際的なアートイベントが開かれます。「BIWAKOビエンナーレ2025」は、心待ちにする人も多い芸術祭で、今回で11回目となりました。
町家やお寺、カフェなど、歴史ある建物がアート空間に変わり、まち全体がまるで美術館のようになります。

ビエンナーレの見どころは、古い町家と現代アートが違和感なく共存する空間。
古びた床や壁のすき間からこぼれる光もすべてがアートの一部のよう。

代表の中田洋子さんはこう振り返ります。
「始めた当時、メイン会場の近江八幡旧市街地にはカフェが一軒しかなかった。でもいまは、古民家を改装したお店やゲストハウスがたくさんできて、多くの人を惹きつける町に変わっています」。
アートが空き家に光をあて、まちが変わるきっかけに。
アートの力を感じずにはいられません。
長浜と安土。歴史ある2つの町で行われた国際芸術祭/AT Arts

歴史ある町を舞台にしたアートプロジェクトは、近江八幡だけではありません。
秀吉が築いた長浜の町と、信長が築いた安土の町。
その2つの地に、海外アーティストたち招き、制作をしてもらい、展示する。
そんな大掛かりなアートプロジェクトを行ってるのは「AT Arts」です。

信長ゆかりのお寺を舞台にした「浄厳院国際芸術祭」には、国内外41名の作家の作品が飾られ、歴史ある舞台が“自由”をテーマにしたアートでいっぱいになりました。

「海外アーティストたちは、滋賀の自然や文化にとても興味を持っています。そして地域の人たちも、回を重ねるごとに変わってきました。町でアーティストに会ったら気安く話しかける。そんな距離感が生まれてきたのは、10年間積み重ねてきた時間があるからこそです」と代表の西村暢喜さんは話していました。
青春路線に思い出が蘇る/青春21文字のメッセージ

歴史の町だけがアートの舞台ではありません。日常の風景の中にも、滋賀のアートはあります。
「京阪は、向かい合わせの席が青春ぽいから好き!」という沿線の女子中学生の何気ない言葉から生まれたのが「電車と青春21文字プロジェクト」。
沿線に数多くの学校がある石山坂本線は”青春路線”ということで、駅数の「21」にちなみ、「21字」の青春や電車にちなんだメッセージを2006年に募集したのが始まりでした。

今年の応募作品数は5,389件で過去最高を更新。
京阪電車だけでなく、近江鉄道や信楽高原鐵道にもメッセージが飾られ、卒業シーズンの風物詩として定着しています。
代表の福井美知子さんは発表をこの言葉で締めくくりました。「継続は文化となる」。
19年間積み重ねてきた言葉が、いま確かに文化になっています。
琵琶湖のほとりで音楽三昧/大津ジャズフェスティバル
電車の中だけでなく、湖岸にも滋賀らしいアートの場があります。

今年で17回目を迎えた「大津ジャズフェスティバル」。
なぎさ公園をメイン会場に、駅前の公園や、貸会議室、遊覧船など、街のあちこちに14もの会場が点在していて、街歩きしながら好きなステージをハシゴできる。街全体が音楽に包まれる2日間です。

メインステージを彩ったのは、甲賀市の「やまなみ工房」に所属するNANAさんのアール・ブリュット作品。
琵琶湖と空のブルーに色鮮やかな作品が映えています。
観光船ミシガンでのジャズクルーズなど、滋賀らしい取り組みも。
湖を渡る風にのって、音楽とアートが街に混じり合う、特別な時間となりました。
土地の風と記憶をダンスで表現/風展
アートは、じっと眺めるものだけではありません。身体で感じるアートもあります。
そんな風に感じさせてくれたのは、はまダンス企画の「風展」です。

木之本に残る、滋賀県最古の図書館・江北図書館がダンスの舞台に。
図書館の中で踊っているのは「コンテンポラリーダンス」。
決まった型があるわけでもなく、音楽に合わせて踊るわけでもなく、自分の置かれている環境と自分の中から生まれてくる感情を表現するダンスです。

活動に参加したダンサーの佐藤健大郎さんは「人と土地がダンスで馴染んでいくのが目指すところ」と話します。
今年ワークショップを行った甲賀市には多くのブラジル人が暮らし、彼らも町の風土をつくっています。来年度は外国の人も巻き込んだ表現を目指しているそう。
土地に暮らす人と風景が、ダンスを通じて出会い直す。
風展は、滋賀のさまざまな場所でそんな瞬間をつくり続けていくプロジェクトです。
山の中に響きが生まれる/みんなで響きをラーンする!
滋賀のアート現場は、さらに奥へ。
大津市山中町。京都へと抜ける峠道の一角に、アーティストたちの共同スタジオがあります。
その名も「山中スープレックス」。
ここで2025年の夏、「響き」をテーマにしたイベントが行われました。

盆踊りや踊り念仏のこと。
山の倒木を叩いて音を鳴らすこと。
土地に根づく歌を、自分の言葉でつくること。
それは、特定の場所でしか成立しない体験です。

インドネシアと日本、アーティストと地域の人たちが一緒になって、「音」や「声」を通じて土地と向き合いました。
山の中に、新しい響きが生まれています。
滋賀の風を、かたちにする/Abstraction:風
普段なにげなく感じてる“風”を「美」として捉え、かたちにしてみたら——。
紫洲書院が取り組む「滋賀の風を感じるメディアアート」は、そんな問いから始まりました。

琵琶湖を渡る風。比良から吹き下ろす鋭い風。夕暮れに街を包む、やわらかな風。
目に見えないけれど、確かにそこにある風土の息吹を、メディアアート作品「Abstraction: 風」として表現しました。

高校生向けワークショップでは、小さなコンピューターとLEDを使って光の仕組みをつくるところから始めました。
アートの現場で使われる光の仕組みを、高校生へ伝え、自分の手で“風の作品”をつくりあげていく。
メディアアートの一歩目が、ぐっと身近になった瞬間でした。
アートと暮らしの「エコトーン」
8団体の発表を聞き終えた3人の評価員から、印象的な言葉がありました。

オンライン参加となった朝倉由希さん(公立小松大学)は
「滋賀の資源の豊富さに感激しました。みなさんがそれぞれ地域の風土を知っているからこそ生み出せるものがあると感じます。また、ローカルでありながらグローバルな視点も持ち合わせた取り組みも多い。アートによって豊かな地域が耕されていると思わされました」と総評しました。

また、伊藤まゆみさん(京都精華大学)は、滋賀の懐の深さを指摘。
「アート、音楽、風景、伝統と、滋賀の美はくくりが大きくて、なんでもありなところが懐が深いと感じます。活動歴の長い団体も多く、みなさんの活動をみることで、滋賀の魅力が知れて、アートが滋賀全体の広報の役割にも繋がってると感じました」。

上田洋平さん(滋賀県立大学)は、「アートと暮らしのエコトーンが、滋賀に息づいている」と評しました。
エコトーンとは、生態学の用語で、異なる生態系が接する境界領域のこと。
「琵琶湖のほとりにある、ヨシ原がまさにエコトーン。水でも陸でもない、そのあわいの場所。季節によっては水が満ちて、また引いていく。完全に自然でもなく、人工でもない。ごちゃごちゃしていて、曖昧だからこそ、そこに多様な生き物が集まってくる。いま、滋賀のアートシーンはそういう場所にあるのではないでしょうか。アートとミーツする(出会う)ことで、コミュニティが生き生きしていけば、大変素晴らしいです」と話しました。
松明から音楽まで、伝統からデジタルまで。なんでもありで、懐が深い。
そして、暮らしのなかにあいまいに存在する。それが滋賀のアートシーンの面白さです。
この8団体の活動が、これからどんな風景をつくっていくのか、楽しみでなりません。












