【滋賀をみんなの美術館に】
織田信長が建てた歴史ある大きなお寺の
本堂や楼門、鐘楼まで
ところ狭しとアート作品がずらり!
「え、こんなところまで使って大丈夫?」と
心配になるほど、お寺という舞台を惜しげもなく使い
独創性あふれた空間が広がる
『浄厳院(じょうごんいん)現代美術展』。
出展作家は国内外から総勢37名。
この秋、必見の現代美術展の模様をレポートします!
信長ゆかりの寺院で開催される美術展
会場の「金勝山浄厳院」は、
滋賀県近江八幡市安土町にある、
450年の歴史を持つ名刹です。
天正5年(1577年)に織田信長が創建した浄土宗のお寺で、
浄土宗と日蓮宗との間で「安土宗論」が行われたことでも有名です。
この境内で毎年開かれる
『浄厳院現代美術展』は今年で5回目。
寺院で開催される美術展としては、
国内最大級の規模を誇ります。
境内に足を踏み入れて、
まっさきに目に飛び込んできたのは、
本堂の賽銭箱すぐ裏に設置された大型の立体作品。
滝直さんの「Coexisting with the Ulgy」です。
作品にピッタリの場所を惜しげなく提供する
寺院の懐の大きさもこの美術展の見どころ!
こちらでは畳の一部を外して、
和室に枯山水が出現!
西村のんきさんの「時代 era」です。
(※写真は作品の一部)
屏風に似た形の絵画作品とあわせて
庫裏の大広間全体を使った
インスタレーション(空間展示)となっています。
本堂も庫裏も、
楼門も除夜の鐘を撞く「鐘楼」も…。
境内すみずみまで、全部が展示会場。
作品そのものの見応えに加え、
「浄厳院」のこの空間があってこその展示になっています。
海外アーテイストが滞在して作品を制作
今年の『浄厳院現代美術展』には海外から、
7名のアーティストが参加しました。
そのうち5名は、この安土の地に、
滞在して作品制作をする、
「アーティスト イン レジデンス」に参加。
この地で生まれた作品は、
異文化が混ざり合い、
興味深い展開を見せています。
レジデンスは今年3年目。
3年連続して参加しているウクライナ出身の画家
マリア・ルイーザ・フィラトワさんは
楼門から見える外の田園風景をシンプルなキューブで表現。
「ここが第二のわが家のようになじんで、
この風景が特別な意味を持つようになりました。
昨年よりも自由に描けるようになった」と話します。
こちらは、サーカスで世界的に有名な
シルク・ドゥ・ソレイユの元俳優で、
ミクストメディア作家のニコ・バイシャスさん。
表現したいことにあわせて、
最適な表現手法を選ぶのがミクストメディアの手法なんだそう。
ニコさんが、耳の不自由な家族との
会話で使う“手”も作品になります。
寺院の中に書かれた“漢字”が、
“手”と同じように形に意味を
持っていることに驚いたと言います。
「“手”の作品は、単純に何かの形を
表しているというだけに留まりません。
スピリチュアルや、自然やカオスとつながる。
もっと深い意味が込められているんです」
と語るニコさん。
漢字に慣れ親しんだ日本だからこそ、
意味を持つ“形”と、そこに繋がる世界の関係が
より見えやすいように感じました。
ドイツ出身の映画監督・
トーマス・シュロットマンさんの作品は、
「空き屋さん」と名付けられています。
日本で興味をひかれたのが“空き屋”。
家を建てた大工や家族と、その歴史への思慕を
映像やフリップブックで表現しています。
100年以上前に奈良県で建築され、
滋賀に移築された古民家を映した映像では、
擬人化された「空き屋さん」が、その家の歴史を
トーマスさんとの会話で明かしていきます。
トーマスさんは全国の空き屋を視野に、
プロジェクトを長く続けるつもりだと言います。
「空き屋に敬意を示し、空の家に含まれる
価値を見出していきたい」と意気込みます。
テーマは「era」(時代)
毎年テーマを変えて開かれる『浄厳院現代美術展』。
5年目となる今年のテーマは「era 時代」です。
鈴木マヤ子さんの作品「血脈」は、
赤と黒の強い色彩が特徴的。
マトリョーシカに彩色した作品は、
「大きい人形から、次々と人形が出て来ることから、
繁栄を意味する民芸品という言い伝えもあります。
戦争という辛い現実がある中、
平穏な時代が続くことへの祈りを込めました」と。
「勅使門」に飾られたのは、
雀蜂子さんの点描画「Embaliming」。
雀さんとしては初めての野外展示。
「Embaliming」とは、葬儀などで
ご遺体をきれいに保存する方法を意味する言葉です。
「それを、あえて風とか雨とかにさらして、
どう変化していくのかが見てみたい。
最終的に線だけ、点だけ、あるいは
青いにじみだけが残る…そんな終わり方が
理想だったりはしますね」。
変化していく中で、何が変わらないのか、
根源的なものをさぐる探究にも思えます。
仏像がいつの時代かに盗難に遭い、
もぬけの空になっていた「観音堂」に
自分の作品を置いたのは松山淳さん。
「続 立体曼荼羅のまち」と題した作品。
よく見ると、露出度の高い十一面観音や水着姿の仏像が…。
「バチが当たりそう?
でも、なぜバチが当たるかもって思うんですかね。
あるとき、一人ひとり自分の仏像を彫るという
企画を見ていたら、できた仏像は本当に人それぞれ。
ああ、自分の中にある拠り所を形にすればいいんだ、
と気付いたんですね」。
メディアに登場するモデルやアイドルが、
表向きの笑顔の裏に、
大変さを抱えているということが、
松井さんの作品のテーマになっています。
時代が変わっていく中でも
変わらない、変えたくないもの、
時間を越えて受け継がれるものがあります。
それはきっと言葉では言い尽くせないもの。
作品を通じて、あなたの心にはなにが浮かぶでしょうか。
作品に祈りを込めて
作品に時代への祈りを込める作家もいます。
地元・安土町出身の奥田誠一さんは
幼い頃、この寺で遊んだ記憶があります。
「sealed-封-」はそんな記憶や
時間の流れを大地に編み込んだ作品です。
「お寺が創建された信長の時代、
あるいはもっと前の時代、
それから、私がここで遊んでいた頃など、
いろんな時間がこの大地には
封じ込められているように感じるんです」。
作品は、大地が大地を抑え、支え合い、
抑制し合って成り立っているように見えます。
「地震や戦争、災害がある中、
地球自体がそれを抑えていく、そうあってほしい」と。
出展作家の一人で、『浄厳院現代美術展』を主催する
「AT ARTS」代表の西村のんきさん。
美術展のテーマ「era」(時代)について、
「コロナ禍以降ちょっと変わったかなと思いますが、
世の中はずっと経済中心なんですね。
ここらでちょっと世界の情勢をアートで見てみたら、
違う世界観が広がるんじゃないか」と話します。
西村さんの作品「era 時代」は
動かない作品に太陽光が映り込み、
その場でしばらく居続けると、
時間の流れを感じられる仕組み。
「その場にじっくりと座って
時間を過ごしてほしい」と西村さん。
アートで世界を見る、そんな体験も
作品とセットで用意されています。
美術展は、回を重ねるごとに参加アーティストも増え、
会期中に行われるイベントも充実。
今年は視覚や聴覚に障がいがある方の
サポートを行う日も設定し、
もっとボーダレスな展示を、と意気込みます。
お寺自体が見どころ!
『浄厳院現代美術展』の大きな見どころの
一つは寺院そのものも巨大な芸術作品だということ。
歴史的建造物もそうですが、
本堂の「木造 阿弥陀如来 坐像」は圧巻です。
平安時代の作だと伝わる阿弥陀如来は、
普段は拝観に予約が必要ですが、
美術展の会期中は常時公開。必見です!
「時代」をテーマにした多くの作品には
祈りや人が持つ根源的な願いが
込められているように感じました。
あまりにも厳しい現実を前に
なすすべく立ちすくんでしまうとき、
私たちは何を拠り所にしたらいいのでしょう。
次の時代に何を残せるでしょう。
すぐに答えが出るものではありませんが、
浄厳院や展示作品、あるいはそこで過ごした時間が、
何かのヒントになるのではないでしょうか。
とは言え、難しく考えすぎるよりも
純粋に作品を面白がり、場所を面白がってほしいと、
アーテイストは口々に言います。
今回記事で紹介しているのは美術展のほんの一部。
ぜひ規模感も感じに出かけてみてください!
(写真:辻村耕司 取材・文:川島圭)
『AT ARTS 浄厳院現代美術展2024』イベント紹介
会期中は毎週末に、
多彩なイベントも開かれます。
詳細は公式サイトからチェックしてみてください。
11月2日(土)14:00
落語 てんご堂雅楽
座談会 吉村壱満 秋山シュン太郎
11月3日(日)14:00
舞踏・ライブ音楽
Arts PLAN DU inc. 佳勘 杜昱枋 ChristperFryman
11月4日(月・祝)14:00
演劇 語り 劇団桜座一家
11月9日(土)・10日(日)全日
裏千家お茶会
11月16日(土)14:00
中国琵琶 葉衛陽
11月17日(日)14:00
ジャズ Bumblebee
会期中の土日、祝日は11:00~ギャラリートーク
11月4日(月・祝)
視覚障がいの方 サポートデー11月10日(日)
聴覚障がいの方 サポートデー
『AT ARTS 浄厳院現代美術展2024』
- 住所
- 滋賀県近江八幡市安土町慈恩寺744
- アクセス
- JR琵琶湖線 安土駅より南西へ徒歩10分
- 開催日時
- 2024年10月26日(土) ~11月17日(日)10:00~17:00 水、木曜日定休
- チケット
- 1,500円(会期中出入り自由、各種割引あり)
- AT ARTS公式サイト
- http://nonki510nishimura.wixsite.com/website-1
- 浄厳院公式サイト
- https://www.jogonin.com/
『滋賀をみんなの美術館に』プロジェクトは「しがトコ」が企画・取材を担当し制作しています。この記事は、滋賀県公式のポータルサイト『滋賀をみんなの美術館に』でも公開されています。