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井上靖の絶版本『星と祭』が地元有志の手で復刊!湖北が舞台の物語。

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【美の滋賀trip!2019#07】

『氷壁』『しろばんば』などの作品で知られる文豪・井上靖。
じつは何度も滋賀県に通っており、
湖北を舞台にした小説も執筆しています。

1971年から連載された小説『星と祭』は、滋賀県長浜市が舞台。
琵琶湖で娘を亡くした悲しみに暮れていた主人公が、
湖北で大切に守られてきた十一面観音さまを巡る旅を経て、
その死を受け入れていく物語です。

しかしこの『星と祭』は長らく絶版状態でした。
そこで立ち上がったのが、2018年に長浜市で有志が結成した
「『星と祭』復刊プロジェクト実行委員会」。

湖北を舞台とした小説を自分たちの町から復刊したい、
そんな思いで始まったこのプロジェクトは、
復刊を待望するファンを増やしていきます。

そして2019年10月20日、委員会発足から約1年半を経て、
ついに『星と祭』が復刊しました!

今回はこのプロジェクトの活動と、
2020年1月に東京で開催が予定されているイベントをご紹介します。

愛する人を失った弔いに向き合う心情を描いた『星と祭』

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(写真提供:『星と祭』復刊プロジェクト実行委員会)

井上靖の小説『星と祭』は、1971年から1972年までの1年間、
朝日新聞で連載されました。

主人公である架山は、17歳の娘を突然失います。
原因は、大学生の青年と一緒に琵琶湖で乗っていたボートが転覆したこと。

2人は水没したまま発見されず、架山は遺体のあがらない死を
受け入れようにも受け入れられない日々を過ごします。

この事故の後、湖を避けながら亡き娘と対話する日々を過ごした架山は、
7年を経て琵琶湖を訪ねることにしました。
そこで再会したのが、娘とともに亡くなった青年の父親・大三浦です。

琵琶湖の観音を拝むために近江に通う大三浦は、
地元で守られてきた十一面観音さまに手を合わせることで、
息子の死を受け止めようと努めてきました。

出会った当初は大三浦に不信感を抱き、大三浦の弔い方にも
同調しなかった架山。

しかし彼に誘われて近江の十一面観音さまを巡り、
人々の信仰に触れる過程で、架山は娘の死と向き合い始めるのです。

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長浜市木之本町大見の医王寺にて

井上靖は『星と祭』の執筆前から執筆を終えた後も
定期的に長浜へ足を運び、地元の人々との関係を大切にしてきました。
人を呼んで湖北の地を案内することもあったそうです。

『星と祭』では「愛する者の弔い方」だけでなく、
井上が足を運んで実際に目で見て触れてきた湖北の地に
根付く信仰を伝えています。

十一の佛面を頭に戴いた観音さまは、鎮護国家とか、
佛法守護とかいったものとは関係なく、
専ら地方の庶民の生活の中にはいり込んで、素朴で、
切実な庶民の信仰の対象になっていたのである。
(『美しきものとの出会い』より)

『星と祭』の素朴で美しい信仰の描写をきっかけに、
それまで秘仏状態だった湖北の観音さまが
全国的に知られるようになりました。

さらに観音さまに手を合わせたいとたくさんの人々が
湖北の地を訪れるようになり、今に続く観音ブームや聖地巡礼の
先駆けのような存在となったのです。

『星と祭』の復刊を地元・湖北から実現したい!

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(写真提供:『星と祭』復刊プロジェクト実行委員会)

この湖北にとって大切な小説を、自分たちの手で
自分たちの町から復刊したい。

湖北を訪れる人に『星と祭』を届け、湖北ともう一歩近づく
手がかりにしてほしい。

そして自分たちの地域で受け継がれてきた信仰と
あらためて向き合って、地元をもっと好きになるきっかけにしたい。

そんな思いを持った有志が集まり、打ち合わせを始めたのが2018年5月。
翌月には「『星と祭』復刊プロジェクト実行委員会」を発足しました。

図書館司書やブックコーディネーター、地域の出版社、デザイナーなどの
7名のメンバーがそれぞれ自分のできることを持ち寄り、
次第に復刊が現実味を帯びていきます。

実行委員会が設定した目標は、2019年秋までに300冊の発刊。
そのために『星と祭』に登場するお堂を巡り、
「勧進」の形式で資金を調達することにしました。

湖北に暮らし、湖北を愛するメンバーだからこそ実現できる復刊を目指した
プロジェクトがスタートしたのです。

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『星と祭』に登場する長浜市木之本町大見の医王寺

実行委員会は2018年12月のキックオフ記念講演を皮切りに、
湖北のお堂、そして東京や静岡の井上靖文学館で
勧進イベントを開催しました。

支援は長浜市内にとどまらず、滋賀県外や関東からもイベントに
参加する人もいたほどの注目ぶり。
『星と祭』のファンだけでなく、このプロジェクトによって『星と祭』や
湖北を知った支援者もいたそうです。

結果、2019年秋には当初の目標だった300冊を上回り、
合計約590口の協力を得て無事に復刊することができました。

インターネットでのクラウドファンディングが普及している今、
あえて小説の舞台で勧進イベントを開催し、
実行委員と支援者とが顔の見える関係を築いたこのプロジェクト。

たくさんの人に育てられていくその過程は、
まさに地元生まれの復刊プロジェクトだからこそ
実現できたのかもしれません。

「観音まつり」の日に、ついに復刊!

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ゴールである復刊日として設定されたのは、2019年10月20日。
この前日の19日に長浜市内で実行委員会主催の
復刊セレモニーが開催されました。

支援者をご招待したセレモニーの場で、プロジェクト立ち上げから
約一年半を経て完成した復刊本もついにお披露目!

オリジナル装丁の初版本を、実行委員が執筆した公式ガイドブックとともに
お一人おひとりにお渡ししました。

今回のセレモニーは、第1部で『星と祭』にまつわる講演会、
第2部で実行委員会による報告会の2部構成。復刊にご協力くださった
井上靖のご子息とそのご家族にもお越しいただきました。

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会の冒頭でご挨拶くださった井上修一氏

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第1部では、写真家・駒澤琛道氏と
高月観音の里歴史民俗資料館学芸員・佐々木悦也氏が対談。

「一佛一会」をテーマに、駒澤氏の写真集
『仏像巡礼 湖北の名宝を訪ねて 駒澤琛道写真集』に
まつわるお話をうかがいました。

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駒澤氏は41のお寺やお堂を訪れ、湖北の仏像を撮影。

写真集の出版にあたって序文を湖北の仏像との関わりが深い
井上靖に依頼したところ、面識のない駒澤氏からの依頼を
快諾してもらえたエピソードが印象的でした。

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佐々木氏に地域の方との連絡を取り次いでもらい、
時に仏像の撮影を何度も断れられながら、

それでも湖北に何度も足を運んだ駒澤氏。
地元の人々と関わる過程で、『星と祭』の描写と変わらない信仰の
あり方に心を打たれたと言います。

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会場に展示された、駒澤氏による湖北の仏像の写真

観音さまを守る人々に支えられながら出版できたこの写真集は、
自身にとって最も心に残る作品の一つだそうです。

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第2部は、実行委員会が出版に至るまでの活動報告をしながら、
支援者の方々で懇親会。

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井上靖のご子息やそのご家族、そして地域の「世話方」と呼ばれる
観音さまの守り手の方々にもご参加いただき、
湖北や観音さまにまつわるお話で盛り上がりました。

そして翌日10月20日。
この日は長浜市内の北部エリアでお堂を一斉にご開帳する
「観音の里ふるさとまつり」、通称「観音まつり」が開催され、
同時に『星と祭』復刊本の発売がスタート。

観音まつりのために全国各地から集まった仏像ファンの方々に
手に取っていただくことができました。

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「観音の里ふるさとまつり」でご開帳されたお堂に、
井上靖ご子息のみなさまとともに実行委員会メンバーも足を運び、
世話方の方々に感謝を込めて復刊をご報告。

自分たちの地元が登場する『星と祭』を大切に読み継いできた
地元の方々も、今回の復刊を喜んでいらっしゃいました。

無事に出版された『星と祭』復刊本は、発売からまもなく重版出来。
たくさんの人が『星と祭』を手に取り、
井上靖が描いた湖北の祈りの世界を味わっていることでしょう。

復刊本を手にした読者のみなさんが、湖北や観音さまとの
素敵なご縁で結ばれますように!

今後のイベント情報

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2020年1月18日に、東京で復刊記念イベントの開催が決定しました!
関東圏にお住まいの方はこの機会にぜひ『星と祭』の世界に触れてみませんか?

『星と祭』と湖北の観音信仰の今昔

開催日時:2020年1月18日(土)11:00〜・14:00〜(2回は共に同じ内容)
場所:びわ湖長浜KANNON HOUSE(東京都台東区上野2丁目14-27 上野の森ファーストビル1F)
内容:『星と祭』復刊までの軌跡の報告、『星と祭』に描かれた湖北の観音信仰と現在の観音信仰について紹介
※講演終了後、イベントでしか手に入らない特装版『星と祭』と観音ガール書き下ろしのガイドブックの販売があります
参加費:無料
申し込み:不要
主催:『星と祭』復刊プロジェクト

購入方法について

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予約者限定特装版の『星と祭』と、ガイドブック

『星と祭』復刊本、そして『星と祭』に登場する13ヵ寺の公式ガイドブックの
購入方法は復刊プロジェクトの公式サイトで案内があります。
全国書店での取り寄せ、Amazon・楽天でも購入できます。

購入方法について
http://hoshitomatsuri-fukkan.com/archives/256

(写真・文:菊池百合子)

※「美の滋賀trip!」は『しがトコ』が企画・取材を担当し制作しています。この記事は、滋賀県公式のポータルサイト『美の滋賀trip!』でも公開されています。

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