【しが文化交流プロジェクト/醒井木彫美術館】
湧き水が流れ、涼やかな風が吹き抜ける米原市・醒井。
地蔵川の清流や梅花藻で知られるこの街に、
江戸時代から受け継がれてきた「木彫」の歴史があることをご存知でしょうか?
職人たちが技を競い合い、
数々の名作を生み出してきた地域の誇り。
その思いを受け継ぐ「醒井木彫美術館」で、
新たな交流拠点を生みだそうと奮闘する人たちに出会いました。
木彫の街・醒井
中山道の宿場町として昔ながらの風情を残す路地を進むと、
モダンで穏やかな佇まいの建物が現れます。
ここが「醒井木彫美術館」です。
一歩足を踏み入れて、思わず目を奪われたのが入り口の扉。
扉一面に、天女がお出迎えです。
「美術館がオープンした24年前に、地元の職人さん20人がひとつずつ制作して持ち寄ってくださった作品です。よくみると、表情が全部違うんですよ」。
そう言って迎えてくれたのは、安田美代子(やすだ みよこ)さん。
この美術館で企画運営を担当しています。
館内には、この地域の職人たちが手がけた作品がずらり!
___なんだかどれも優しい表情で、心が洗われるようですね。
「それぞれの職人の生活やスタイルが出ますよね。仏壇や仏教のものがメインになりますので、どこか神聖な感じがします」と安田さん。
まさに伝統と技術の厚みを感じさせる空間です。
JR醒ヶ井駅から山側へ3kmほど入った集落「上丹生(かみにゅう)」は、
江戸時代から社寺彫刻や彦根仏壇、浜仏壇の手仕事を受け継いできた職人たちの街。
湖北周辺は浄土真宗の門徒が多く、仏壇彫刻の需要が高かったそう。
その技術の高さは全国に知れ渡り、
滋賀県外からも多くの注文が舞い込んだといいます。
こちらは、大阪・岸和田のだんじり祭のために作られたという勇ましい彫刻。
「職人さんというのは基本、注文を受けてお寺や神社、仏壇などに納めるのが仕事なので、こうして個人作品として手元に残ることは珍しいんです。ここに展示できているのはどれも貴重なものばかりですね」。
他にも、奈良・春日大社の国宝彫刻を復元した職人や、
京都・祇園祭の山鉾(やまほこ)に飾られる龍像を手掛けた職人。
さらには、東京の日本橋三越の正面に飾られた有名な天女像も、上丹生から4〜5人の職人が手伝いに行って作られたんだとか!
自分の名前は表に出なくても、日本の名だたる手仕事を陰で支えてきた職人たち。
その誇りが、この街の伝統を支えてきました。
職人技からアートへ
中でも、展示作品の多くを占めるのが、
明治から昭和にかけて活躍した森大造(もり たいぞう)氏の作品。
地元・上丹生で生まれ、職人の世界から飛び出して
“アーティスト”としてその名を馳せた人物です。
代々の木彫一家で育った森氏は、上京後、
築地の仏壇店に住み込みで働きながら東京美術学校(現・東京芸大)を卒業。
日本で最も権威のある展覧会の一つ、日本美術展覧会の前身の「帝展」などで活躍しました。
1階のメインスペースには、
そんな森氏の貴重な遺作群が展示されています。
木彫にとどまらず、アーティストとして挑戦を続けた森氏の生涯に触れる空間。
「これらの優しい表情は大造先生にしか出せないものだなと思います。お会いしたことはないですが、作品から優しいお人柄が伝わってきます」と安田さん。
単なる「注文品」にとどまらず、自らの感性を美しく削り出した森氏の作品は、醒井の木彫文化を「アート」へと高めた証なんですね。
両親から受け継いだ美術館
じつは、2002年にこの美術館をオープンさせたのは安田さんのご両親。
醒井で町工場を営んでいた父が、すべて自費で建設したのだそう!
「知らないうちに作ってたんです。最初は驚きましたよね。父も母も直接木彫に関わっていたわけではないですが、職人の数が減っている中で、両親なりに、地元の文化を守ろうと職人さんたちの思いを背負ったのかなって」。
ご両親も高齢になり、コロナ禍で一時休館。
その後、「閉めたままではもったいない」と兄弟で相談して再開を決めました。
現在は、安田さんが中心となって運営し、展示の入れ替えも自らが担当しています。
東西のアートが交差する「現代の交流拠点」へ
ご両親が残した「美術館」を受け継いだ安田さんのアプローチは、
単なる歴史の保存にとどまりません。
2階に展示されていた木彫を1階に移し、2階をオープンな企画展スペースへと開放。
今年だけですでに7回もの企画展を実施し、
全国のアーティストが集まる新たな交流拠点となっています。
このスペースで企画展を手掛けた、
上丹生出身の木彫作家・上田栄一(うえだ えいいち)さんです。
「関東の作家仲間を呼んでコラボ展を企画しました。地方と関東の作家が交流することで刺激になるし、良いコミュニケーションの場になるので本当に貴重な拠点です。一度来ると、すぐにみんなこの地域のファンになってくれて、また来たい!と言ってくれますよ」。
伝統を継承しつつも、いろんなアートに触れながら変わっていくことを恐れずにいたい、と教えてくれた上田さん。
醒井の木彫文化は今、次世代の作家たちによって、新たなステージへと着実に歩み始めています。
受け継がれる歴史、そして新しい未来へ
現在、安田さんは
住まいのある大阪から毎週片道2時間かけて地元の醒井に通っています。
「やっぱりこの土地の景観が好きなんですよね。琵琶湖から伊吹山までダイナミックに繋がっている景色を見るとすごくホッとしますし、醒井の街並みも本当にきれいです」。
地元を離れても、安田さんにとってこの街が誇りであることに変わりはありません。
「美術館というのはあくまで『箱』です。私たちがずっと抱え込む必要はなくて、建物がある限り、使える間に若い人や作家さんたちに自由に使ってもらって、地域の交流拠点としてバトンを繋いでいければいいなと思っています」。
職人たちが受け継いできた歴史、
そして現代のアートが交差する『醒井木彫美術館』。
清流の音に耳を澄ませながら、この場所で紡がれるストーリーに触れてみませんか?
(取材・文 福田玲子 / 写真・辻田新也)
施設概要
- 住所
- 滋賀県米原市醒井95
- 開館期間
- 4月~11月初旬(※12月~3月は冬季休館)土・日・祝日のみ開館
- 開館時間
- 10:00~16:00
- 入館料
- 大人 300円 / 中高生 200円 / 小学生以下 無料
- アクセス
- JR「醒ヶ井駅」より徒歩約8〜10分
- 問い合わせ
- 0749-54-0842
- 公式Instagram
- https://www.instagram.com/samegai2021/
※この記事は、滋賀県の「地域資源活用交流創出事業に係るレガシー創出事業」の一貫で、『しがトコ』が企画・取材を担当し制作しました。 http://bino-shiga.net/





































