Interview

【400万年の古代湖#01】存在そのものが奇跡!?地質学研究者 里口保文さんに聞きました

400万年_01

【400万年の古代湖 #01】

日本最大の湖、琵琶湖。
実はこの琵琶湖、大きさだけじゃなく、“古さ”もすごいんです!
その実力はなんとバイカル湖、タンガニーカ湖などに次ぐ世界有数の古さ。
これだけ古いなら何か驚きのヒミツが眠っているのでは?
まだ知らない琵琶湖のすごいところを探るべく、
地質学の専門家で琵琶湖博物館で学芸員をされている
里口保文さんにお話をうかがいました。

琵琶湖はいつ生まれた?


インタビューの場所として案内されたのは、
琵琶湖博物館にある「質問コーナー」。
ずらりと席に座って、前のめりで質問するしがトコ取材班です。

――さっそくですが、琵琶湖が生まれたのはいつ頃のことなのでしょう?

里口:一般的な解釈としては、
今から400万年ぐらい前に三重県伊賀市のあたりに湖ができて、
約340万年前までそこにあった後一度途切れて、
滋賀県の今のあたりで100万年前からずっと湖を続けています。

――途切れた、というのは?

里口:はじめの湖から今の湖までには、
安定した湖がなかった時代があると考えられています。
だから400万年前に生まれたと言いつつも、
継続した湖としての今の琵琶湖は、100万年前からという意見が一般的です。
ただ、僕はそれ信じてないです。

――信じていない?

里口:はい、信じてないです。
以前、この琵琶湖博物館がある場所で行なったボーリング調査だと、
180万年前にはすでにこの辺りには湖があるんです。
大津のもう少し南にも、湖の底でできた地層があります。

――ということは…?

里口:その頃は一般には、安定して数十万年つづく
湖がなかったといわれている時代ですが、
地層の観点から見ると、当時もこの辺りには湖があるんです。
だから僕は、湖はずっと途切れずに連続してきたんじゃないかと考えています。

――それって、大発見では!?

里口:ただ、当時この場所に湖があったのはわかっても、
その規模や安定してどれくらい続いたのかが問題なんです。
ボーリング調査は点でしかないので、この場所のことしかわからない。
連続して湖があったことを証明するのが、これからの課題です。

1年で3センチ動いてるって本当?

――琵琶湖が移動してきたと言われ始めたのは、いつ頃のことなのでしょう?

里口:ここ40年ぐらいです。


『琵琶湖はいつできたー地層が伝える過去の環境ー』より引用

里口:それまでは、最大で伊賀市に届くほど広い範囲にあった湖が
だんだん小さくなっていったとか、南方でできた湖が北に広がって、
その後北の湖だけが残ったなどと考えられていました。

――今は、琵琶湖が移動してきたという説が確実なんでしょうか?

里口:そうですね、研究が進んで場所が変わってきたと考えられています。

――「琵琶湖は1年で3センチ動いている」と聞いたことがありますが、本当なんでしょうか?

里口:僕の考えからすると、間違っていると思います。

――なぜですか?

里口:琵琶湖は100万年前に南湖のあたりにあった湖が、
40万年前に北へ広がって、だんだん北の部分が東側に広がってきて、今のように広い湖になりました。
40万年前の琵琶湖は今よりもひょろっとして細長かったんですね。


『琵琶湖はいつできたー地層が伝える過去の環境ー』より引用

里口:形は細長かったけど、
少なくとも40万年間はずっとこの場所にいるんです。
だから、40万年間もこの場所にいる琵琶湖が、
今になって年間3センチ動いているということはないです(笑)

――3センチ動いてる説はどこから来たんでしょう?

里口:実は昔の本を読むと
”琵琶湖は平均したら年間3cm動いている”と書かれているものもあります。
かつて琵琶湖は600万年前に誕生したと考えられていたので、
伊賀で生まれて現在の場所まで来るのに距離と時間を考えて、
年間3センチ動いているという言い方をしたようですね。

実は、琵琶湖は奇跡の湖だった!

――里口さんの本に「山に囲まれた盆地は京都にもあるけれど、そこに広い湖は存在しない」
という一節がありました。今ここに琵琶湖があるのは奇跡的なことですか?

里口:そうだと思います。
例えば、滋賀県と同じように周りが山で囲まれていて、
平野がある地域は京都にも奈良にもあります。
それだけで大きな湖ができるのなら、他にも琵琶湖のような湖があるはずです。

――確かに、あってもおかしくないですね。

里口:でも、ないんですよ。

――琵琶湖ができるには、もっと必要な条件がある?

里口:はい。まず琵琶湖から唯一流れ出ている川の「瀬田川」が、
すごく固い岩盤でできた山の間を細長く通り抜けていく形でできている。


『琵琶湖はいつできたー地層が伝える過去の環境ー』より引用

――水が流れ出しにくいということですか?

里口:そうです。排出が悪いと、水は溜まりやすい。
これが大きな湖を作る一つの要因になっているんですね。

――やっぱり、確かな理由があったんですね!
ではもし水を排出する川がもっと広かったら、今のような琵琶湖はなかったかもしれない。

里口:なかったと思います。
それともう一つ、普通は湖の中にどんどん土砂が溜まっていって、湖は埋まってしまうはずなんです。

――え!?そうなんですか?

琵琶湖西岸断層帯
『琵琶湖はいつできたー地層が伝える過去の環境ー』より引用

里口:はい。でも琵琶湖が埋まっていないのは、
西側にある「琵琶湖西岸断層帯」が動くことで、
地盤を少しずつ下げているからなんです。
土砂が溜まっても、琵琶湖が深くなっているから埋まらないんですね。

――いろんな条件が重なっているんですね…

里口:琵琶湖は40万年前に急激に広がってから、
今の場所でずっと湖を続けています。でもなぜこんなにも長い間、湖を保つことができたのか?
本当のところはわかっていません。

――キープするのも大変だと。40万年前から広い湖になったのは
どんな理由が考えられるのでしょう。

里口:今言われているのは、
その頃から西側にある断層の動きが活発化して、
地盤がどんどん沈むことで湖が安定化したんじゃないかという説です。
僕はそう思ってないですけど。

――思ってないんですか!?

里口:はい。僕は琵琶湖から流れ出す川の出口が、
出やすいところから出にくいところに変わったのが理由だと考えています。

――出ていく水が減って、湖でい続けられるようになったと。

里口:そういうことだと思っています。

――まだまだわかってないことって多いんですね。

里口:日本中、いろんなところに断層があって、
地盤を上げたり下げたりしています。だからどこに湖ができたっていいはずなんですね。
だけど、琵琶湖のように安定した湖は他にできないんです。

――それはもう、偶然の出来事なんでしょうか?

里口:そうですね。本当に、たまたまなんです。

40万年分の記憶を保管する古代湖

――里口さんが思う「琵琶湖のここがすごい!」ところ、教えてください。

里口:いろいろとすごいところはあるんですが、
地質学的な面でいうとやっぱり40万年間も安定した湖でいるところです。
40万年間分の堆積物を持っている湖って、世界中を探しても数えるほどしかないんですよ。

――堆積物からどんなことがわかるのでしょうか。


里口:琵琶湖の底には250メートルの泥が溜まっていて、
その中に40万年間の環境記録を残しているんです。
例えばこの辺りには、スギとかヒノキとか、いろんな木が生えていますよね?
その花粉が琵琶湖の底にも溜まっているんですよ。

――そのお話、前にうかがったことがあります!

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里口:植物は自分で移動できないので、
その場所の気候が自分に合えばそこに生えるという生き方をしています。
だから地層に含まれる花粉を調べれば、その時代の気候がわかります。

――そういう記録が40万年分保存されているんですね。


里口:実際、世界中のいろんな地域で同じような研究がされているんですが、
その結果を細かく組み合わせていくと、ヨーロッパ、アメリカ、日本を比べて、
どこがどれぐらい遅れて寒くなったり暖かくなったりしているかがわかります。
これは、生き物の進化などにも関係してくるんですよ。

――ちょっと遠すぎて想像できないんですが、40万年前って何がいた時代ですか?

里口:少なくとも、現在の私たちヒトはまだいません。
我々の祖先になるホモ・サピエンスがアフリカで誕生したのが約20万年前といわれていますから
それよりもっと前の時代です。

――ヒトもいない時代のものが琵琶湖の底に…


琵琶湖博物館に展示されている「380万年前の琵琶湖」再現画

里口:琵琶湖が誕生した400万年前だと、猿人の時代ですね。
その頃は日本列島もまだありません。大陸とつながっていたので。
大阪湾も瀬戸内海ももちろんないです。そのぐらい前に琵琶湖の起源はあるということです。

――改めて琵琶湖、すごいです!

琵琶湖はいつかなくなる?

――いつか、琵琶湖がなくなることはあるのでしょうか。

里口:わかりません。でも、人間がいる間はあるでしょうね。

――何かの拍子に、もう1本外に出る川ができたりしない限り…

里口:うーん、琵琶湖の水面の高さって、標高84メートルぐらいあるんですね。

――よく、大阪城の天守閣と同じって言いますね。

里口:瀬田川が山間を抜けた京都側の標高が10メートルなので、
琵琶湖の流出口あたりの山が70メートルほどの高さを受け止めていることになります。
だから水を完全に抜くには、そこに穴を開けないといけない。
それが自然に起こるというのはちょっと考えにくいです。

里口:瀬田川の水量を調整している
洗堰(あらいぜき)をガンガン掘って水を流したらできないことはないですが、
そうすると宇治のあたりが壊滅します。

――それは、まずいです。

里口:ですよね。

――滋賀県民はよく「琵琶湖の水止めるぞ!」って言いますが…

里口:「洗堰で、水止めへんぞ!」と言われる方が京都の人にとっては怖いと思います(笑)

現在進行中、琵琶湖研究の最前線!

――里口さんがこれまで研究されてきた中で、一番の大発見って何ですか?

里口:何かなぁ。琵琶湖の生い立ちを知るには
「古琵琶湖層群」という地層が重要なんですが、
その最も古い年代を440万年前に決めた、ということですかね。

――確定されたと。その見解が今後くつがえることはないんですか?

里口:まず、ないと思います。
それまでは、琵琶湖ができたのは600万年前とか、500万年前とかいろんな説がありましたが、
これで約400万年前だと明らかになったので、論争は終わりです。

――すごい!今現在は、どんなことを研究されているのですか?

里口:今は、琵琶湖ができてからの生い立ちについて調べています。
琵琶湖の固有種がいつ分化したのかをDNAから研究している人がいて、そういう人たちと一緒に、
僕は地質的な観点から、分化するためのどんな環境が昔あったのかを研究しています

――何かわかっていることはあるんですか?

里口:僕が400万年間、湖が途切れずにあったと考えている理由のひとつが
今いる琵琶湖にいる固有種のビワコオオナマズって、起源を探ると少なくとも500万年ぐらい前まで遡れるんです。

――そんなに前なんですか!

里口:要は、他のナマズ類から分かれたのが
琵琶湖の起源よりも前だということなんですね。
400万年前の湖の地層からもビワコオオナマズに似た化石が出ていて、
少なくとも化石でもDNAの研究からもかなり古くからいたことがわかっています。

――他と隔離されて生き続けないと、固有種になれないんですよね?

里口:そうなんです。だから湖は途切れていないんじゃないかと考えています。

――なるほど。

里口:あとは、琵琶湖と他とのつながりですね。
琵琶湖の水系が、かつて海ができる前の大阪にあった湖や河川の環境と
どうつながっていたのかというのが、今一番知りたいところです。

――それがわかると、また大発見につながりそうですね!
今日はありがとうございました。

里口:こちらこそ、ありがとうございました。

(写真:鎌田遥香 文:林由佳里 企画編集:亀口美穂)

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