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【滋賀区】首都圏の中にある滋賀の絶景 〜写真家 別所隆弘が捉えたレンズ越しの世界〜

【滋賀区を旅する#006】

撮影日の10月下旬、冬桜が花開く。
ここは彦根藩井伊家ゆかりの街、
東京都千代田区にある「紀尾井町」。
夜にそびえる高層ビルと冬桜の風景は、
例えるなら東京にある彦根城か。

滋賀を拠点に全国で活躍する風景写真家、別所隆弘さんが
首都圏にある滋賀に触れられる場所
「滋賀区」を巡り撮影した写真の数々をご紹介していきます。
記事の後半では、別所さんによる撮影ポイントの解説も!
首都圏で目にした滋賀の風景を見つめ、
何を切り取ろうとしたのでしょうか?

首都圏に、琵琶湖と竹生島をみる


東京都台東区、上野公園の敷地内。
周囲約2kmの天然の池「不忍池」は、
じつは”琵琶湖”に見立てていると言われています。

不忍池「弁天堂」は”見立て”という思想のもと江戸初期に建立されました。
不忍池を琵琶湖に見立て、池の小さな島を竹生島に見立て、
さらに、島を大きく造成し、竹生島の「宝厳寺」に見立てたお堂を建立しました。

夜になると、ライトアップされ幻想的な輝きに。
日中とはまた違う表情を見せる弁天堂です。

参道には屋台が並び、街の明かりの中で
活気のある空気が流れています。

不忍池
住所:東京都台東区上野公園5-20

彦根藩井伊家ゆかりの「紀尾井町」

紀伊徳川家・尾張徳川家・彦根井伊家の
三家の頭文字をとって名付けられた「紀尾井町」。
高層ビルのふもとに冬桜が咲き、
まるで井伊家ゆかりの”彦根城”を思い起こさせるような光景です。

赤坂プリンスホテル跡地にそびえる「東京ガーデンテラス」や、
彦根藩井伊家中屋敷の名残を日本庭園にみせる
「ホテルニューオータニ」をはじめ、由緒ある歴史の佇まいが、
その美しく整った街並みに同居しています。

紀尾井町
住所:東京都千代田区紀尾井町

近江商人が発展を支えた日本橋

東京の日本橋は、じつは近江商人が発展を支えたと言っても
過言ではない、滋賀にゆかりのあるスポット。

風格のある店舗を構える老舗デパート「髙島屋」は、
日本橋のランドマークとしてもお馴染みですが、
滋賀県の「高島」に由来する名前の通り、
近江商人を起源とするデパートです。

江戸時代、東海道や中山道をはじめ
五街道の起点となった「日本橋」。

橋の真上には首都高速が走り日本橋と交差する。
なんともいえぬ独特の構造になっています。

日本橋の下に流れるのは日本橋川。
かつての江戸の町は様々な物資が海や川を渡ってもたらされました。
その流通を担っていたのは、産物を持ち込んだ近江商人。
日本橋を中心とした江戸のまちづくりに大きく貢献しました。

日本橋1丁目に店舗を構える「日本橋西川」は、
近江商人が開業した老舗寝具店。
日本橋の地で、400年来の歴史を誇ります。

日本橋
住所:東京都中央区日本橋

比叡山の日吉大社ゆかりの「山王日枝神社」

滋賀の日吉大社を総本社とする神社。
約800年前に建てられたと言われています。

日枝神社に祀られているのは、
山の神様「大山咋神(おおやまくいのかみ)」。
比叡山の神様です。

周囲は赤坂のビル群が広がる場所とは思えない、
都会の真ん中にある「山王日枝神社」。
三角形の破風(屋根)が乗った形をした特徴的な鳥居は、
神と仏 どちらも信仰する『山王信仰』の象徴。
別名「合掌鳥居」「破風鳥居」とも言うそうです。

山王日枝神社
住所:東京都千代田区永田町2丁目10-5

写真家 別所隆弘さんによる解説


ここからは、写真を撮影したご本人に登場いただき、
首都圏にある滋賀に触れられる場所「滋賀区」の風景について撮影ポイントをお聞きしました。
パソコンの画面に写真を映しながら、その時のことを改めて。
ファインダー越しに何を見て、何を感じシャッターを押したのでしょうか? 振り返ります。

不忍池と弁天堂


「滋賀県で写真をやってると、朝焼けは白鬚神社側、夕焼けは長浜側から。
そんな感じで、琵琶湖に夕日や朝日を乗せたがるんですね。
上野の不忍池は滋賀県の琵琶湖を模してるわけですから、
この弁天堂の場所は竹生島でしょ?竹生島を夕焼けで見られるのは滋賀では長浜。
長浜側の位置関係で撮ろうと最初は思ったんです。

ただ、それだと夕日があまり入らない。若干、南側になってしまって。
位置的には甲賀市辺り。もうちょい西かな?
守山あたり・・・いや、近江八幡ぐらいから竹生島を見てる感じですね」。

「これ裏話ですけど、じつは上野駅降りたら、公園の方向が分からなくて(笑)。
地図を見たら、駅のすぐ横が不忍池みたいな感じだったのに、どこにも池ないやん!って。
しかも、どんどん夕日はなくなりつつあって、うわーと思いながら。

風景写真で大事なのは空なんで。空を中心に構成考えると、あんまり外さないというか。
だから、めちゃくちゃ曇ってる状態だと風景つらくって。
でも、この日は切れ目から夕日が出て、雲の上には青空が出てて。
いいタイミングで来たなと思いながら。次の日は雨だったんですよ」

紀尾井町


「これは紀尾井町のガーデンテラスですね。
何よりちょっと撮りにいってびっくりしたのは、
階段のとこに、これ桜なのか梅なのか、ちょっとよく分からないけど咲いてて。
紀尾井と言えば、井伊家じゃないですか。
井伊というと彦根城で。彦根城というと桜ですよね。
だから。なんとか桜入れたいなと思って頑張りました。
まあ言ってみれば東京にある彦根城かな」


「これ、ため池に船がぽんと置いてあるんですけど、
ビル、でか!みたいな感じで全然収まりきらない(笑)
東京で見る滋賀県のスポットなので、やっぱり水を使いたいと思うんです。
なので、ちょっとした水を見つけたら、頑張って写してみるけど・・・入らない。
12ミリのレンズですよ。超超広角やけど、
それでも全然収まんなくて、さすが東京だなと。
でも、この距離から滋賀県の白鬚神社を撮ったとしたら、
画面の中にちょっと写るぐらいで、ちっちゃくなるんですよ」。


「これです、これが滋賀県高島市の白鬚神社の鳥居。
滋賀県で12ミリで撮ると、空が広過ぎてこんなにちっちゃくなる。
でも、じつは湖岸から撮ってるこの距離と、さっきのビルの写真と、
距離感的には同じなんですよ。東京だともう、
そそり立つビルでバベルの塔ですよ。ばーんって出てくる」。

東京日本橋

「ここからは日本橋ですよね。これは道路の真ん中から撮りたかったので
横断歩道歩きながら連写ですよね。
ほとんど全部ぶれぶれで、高感度ノイズもきつくって。
でも数枚だけぴしっとなってるのがあって。ほっとしました(笑)。

何回も横断歩道渡りましたよ。ピー、パシャパシャ、ピー、パシャパシャ。
あいつ何やってるんやろと、きっと周りからは思われてましたね(笑)。
よく見ると、高感度ノイズ、ばりばり乗ってるでしょ。
シャッター速度が速いんですよ。200分の1ぐらいで切ってるんで。
三脚乗せて撮ったら、人はぶれるので。これ、ぴしゃっと写ってるでしょ?
それ見ると、歩きながら撮ってるとわかってもらえると思います」。


「こんな構造物は滋賀にはない。だけど、滋賀県ゆかりの日本橋。
橋の上に首都高速が走ってて交差してるんですが、実はけっこう低くて、ごっついんです。
でも、水を入れた日本橋の写真は、あんまり見ないでしょ?
個人的にはこの感じが好きなんです。滋賀県は水なので。
東京でも、やっぱり、水出そうぜ!と(笑)。うまいこと月も入って、
そのタイミングでシャッターが切れて。
ちょうど雨も上がったので、ラッキーでした」。

山王日枝神社


「次の日。雨でも絵になりそうな神社へ行こうと思って。
で、行ったのが赤坂見附にある山王日枝神社です。
滋賀の日吉大社が総本山なんですが、滋賀のほうでは参道があって、
秋になると参道の紅葉がきれいなんですよ。人工物がほとんどないような道。
でも、東京では、もう人工物しかない!それがまたかっこよくて(笑)。
よくみると、鳥居の正面のビルの間に参道が続いてるんですよ。

普通、滋賀県では神社の周辺にはそれより大きな建物はないですよね。
でも、東京はむしろこれが一番ちっちゃい。この神社、結構でかいんですよ?
だけど東京のビルにはかなわない。人工的なビルの中に、
こんな伝統的な鳥居が配置されて、
違和感ありまくりの絵ですよね。これぞ東京という感じです」。


「さっきの鳥居を、しばらくパシャパシャ撮った後、入ったらすぐにこの光景ですよ。
もし太陽が照ってたら、上からサーッと、白黒のコントラストが出たかなと思いつつ」。


「この階段!雨のしっとり感で、思いっきりこけそうになりました(笑)。
ここは、最初のとはまた別の鳥居で、ちょうど昼前ぐらいの時間帯だったのかな。
人がいないと思うでしょ?それが意外と、めっちゃ来るんですよ。
雨がざんざん降ってるのに!普通の天気の日は、誰もいないのを撮ろうと思うと、
かなり難しいと思います。雨は想定してなかったんですが、
結果的にラッキーだったかもしれません。
これはこれで味があるかな?と。しっとりしたね」。

撮影を終えて

普段は、東京を撮ることはほとんどないんですが、
“首都圏で触れられる滋賀”というテーマなら撮ってみたいと思ったんです。
僕は、風景写真に関して言うと、その場に生きてる人間が、
その場所を撮るのが一番良いと思ってます。
やっぱり自分が生きた場所を撮るのが自然だろうなと。

僕だったら、せいぜいが奈良、大阪、和歌山あたりで。滋賀と京都の周りにある県。
自分の生活範囲が写真の範囲だなと思います。
だから、遠くへ撮りに行くときは、何らかのイベントの場合が多いですね。
例えば佐賀では1年に1度、バルーンフェスタがあるんですが、
それならまだ撮れる要素がある。
地元の人間だって1年に1度しか見ないとなると、
新参者、外部者が入ったところで、あとはアイデア一発で撮ることができる。

でも、風景写真は、その場に生きてる人間が、
おそらく、一番良いものを見ている。その記憶があるはずで。
それを追い求めて撮っていると思います。

だから僕は、生活範囲以外の風景写真を撮るときは、
外国に飛んじゃう場合が多いですね。
そうすると、また旅人の視点が出るんです。
でも東京は、旅人視点にならない。
どうしても仕事場所みたいになってしまう。


この「滋賀区」を通じて、首都圏を撮影してみて、
滋賀県とゆかりが深いというのを初めて知りました。
それだったら、自分で持ってる滋賀の印象なり知識を、
ちょっとだけその写真の中に盛り込めるものが撮れたらいいなと。

だから「不忍の池」では、琵琶湖の形を意識したり、
東京の風景に水を意識したり。
高層ビルの中に彦根城の桜を意識したりだとか、
そういう重ね書きするようなことができたらと思いながら撮影していました。
そのあたりを感じながら、この写真を味わってもらえたらなと思います。

(写真:別所隆弘 文:亀口美穂 取材場所協力:まち家オフィス結

プロフィール
別所隆弘(べっしょたかひろ)/滋賀県大津市在住。フォトグラファー。アメリカ文学研究者。『Nature photographer of the year 2017』Aerials部門2位。著書に『最高の一枚を写し出す写真術(インプレス)』など。”Around The Lake”をテーマとした撮影がライフワーク。
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