カルチャー

これが湖北の原風景。巡回展でよみがえる「畔の木」がある風景

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かつて、滋賀県の北部、湖北エリアにある長浜や米原の農村では、
この「畔の木(ハンノキ)」が並ぶ風景が、当たり前でした。

田んぼの畔(あぜ)に何本も並び、
冬になるとすっぽりと雪化粧。
そんな姿が、湖北の農村のあちこちで見られ、
その景色は、”田園美術館”とも言われるほどの美しさでもありました。

しかし、今ではもう、「ハンノキ」が並ぶ農村風景は、
見ることができません。

「ハンノキ」は、どうして無くなってしまったんでしょう?
昔は、今と違い、どんな農村風景が広がっていたのでしょう?

30年以上昔に撮影された写真をもとにした写真展、
『湖北の原風景 畔の木(ハンノキ)の詩』をご紹介します。

「ハンノキ」が彩った農村

滋賀県の北部、長浜市や米原市は雪国です。

田んぼがすっぽりと雪に覆われる冬でも、
姿を見せるのは「ハンノキ」でした。

農家が田んぼの畔(あぜ)に植えていたので、
巡回展では、「畔の木」という漢字をあてています。

昭和50年代ごろまでの田んぼの畔には、
「ハンノキ」がたくさん見られました。

水辺を好み、田んぼの近くには最適な木。

四季折々に姿を変える田んぼと「ハンノキ」は
湖北でしか見ることができない美しさでした。

農業になくてはならなかった「ハンノキ」

なぜ、田んぼの畔に木が植えられたのでしょう。
その理由は、田んぼの収穫期の秋にわかります。

農業の近代化で乾燥機が普及する以前、
収穫された稲は自然乾燥していました。

ハンノキを支えにして、横に渡した竹に、
刈り取った稲をかけていたのです。

籾(もみ)を外したあとの藁(わら)も、
ハンノキにかけられていました。

1段だけの「平掛け」は他の地域でも
見られることがありましたが、

このように高く積み上げるのは珍しく、
稲束や藁が夕陽で茜色に染まる姿は、
特別の美しさだったと言われます。

暮らしの中にあったハンノキ

農業と暮らしが今よりもっと密接だった当時、
ハンノキも人々の身近にありました。

成長の早い、ハンノキの枝を払い、
まっすぐに整えるのは農家の仕事。

農家それぞれのやり方で”散髪”された木々は、
個性豊かな姿を見せるのでした。

虫おくり

写真は、五穀豊穣を祈る行事「虫おくり」。
農業と密接にかかわる行事を
経ながら季節が巡っていきました。

姿を消したハンノキ

ハンノキは今、1本も見ることができません。

理由は、農業の近代化。
農業用水の整備とあわせて、
1971年(昭和46)に始まった圃場整備によって、
田んぼの区画整理が大規模に行われたためです。

1000年以上、同じ姿を見せていたと思われる、
ハンノキは30年ほどの整備の間に姿を消しました。

湖北の農業は安定し、大きく発展しました。
そして、ハンノキとともにあった、
湖北の暮らしも変わっていったのです。

ハンノキに魅せられた吉田一郎さん

巡回展で展示されている写真はすべて、
湖北アーカイブ研究所所長の吉田一郎さんが、
1987年までの30年間の間、撮りためたものです。

湖北一円での圃場整備の計画が決まり、
「来年にもハンノキが見ることができなくなる」
こんな思いが吉田さんを駆り立てました。

ハンノキを写真に収めるうちに、
その美しさに見惚れていったと吉田さんは言います。

「1本1本が主張するような個性を持っているんです。
ハンノキの生命力とそれをうまく利用してきた
農民の知恵を感じました」。

吉田さんが印象深い1枚があります。

「前の晩、吹雪でね。あくる朝は晴れて。
ここのハンノキなら、雪がびっしりと
こびりついているのではないかと。

撮影はちょうど、日の出の直後。
これは地元でないと撮れなかった写真です」。

吉田さんは、長く湖北の集落とかかわり、
集落の人たちとの信頼関係をもとに
生き生きとした写真を撮ってきました。

ハンノキが一瞬だけ見せる美しい姿を
収めることができたのは、
吉田さんと「ハンノキ」のつながりの深さゆえでした。

「言葉でどう言っても伝わらない、
写真でしか伝わらないものがあると思います。
こんな風景があったんだと、私は伝えたい」。

便利さとともに、少しずつ変わっていく滋賀の風景。
その変わっていく記録の中に、大事なことが見つけられるかもしれません。

巡回展『湖北の原風景 畔の木(ハンノキ)の詩』

写真展は、以下の日程で滋賀県立美術館と
長浜市内のまちづくりセンターで巡回されます。

11月23日(木)~26日(日)
滋賀県立美術館 ラボ(滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1)

11月29日(土)~12月7日(木)
長浜市・北郷里まちづくりセンター(滋賀県長浜市東上坂町976-7)

12月9日(土)~26日(火)
長浜市・湖北まちづくりセンター(滋賀県長浜市湖北町速水2745)

1月5日(金)~19日(金)
長浜市・高月まちづくりセンター(滋賀県長浜市高月町渡岸寺141-1)

ぜひ会場で、迫力ある写真をご覧ください。

また、写真は巡回展で展示しきれないものも含めて、
1冊の写真集「畔の木の詩」にもまとめれています。
詳細は下記公式サイトからご確認ください。

(写真提供:湖北アーカイブ研究所 取材・文:川島圭)

「湖北アーカイブ研究所」

公式サイト
https://kohoku-archive2.jp/

提供:滋賀県 「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクト http://bino-shiga.net/

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