カルチャー

【後編】石に隠された物語とは? -鉱物採集で半世紀の福井龍幸さんにお話を聞きました-

【滋賀の鉱物:後編】

前編では『滋賀の山は水晶の宝庫?!
として、鉱山や鉱物・奇石について、
『近江の平成雲根志』 (琵琶湖博物館ブックレット5)を出版された
福井龍幸さんにさまざまなお話を伺いました。
今回は、その続編。石にまつわる物語についてのインタビューです。

1 奇妙な石に隠された物語り


福井さんの自宅には、いたるところに石のコレクションが無造作に

しがトコ 亀口:この辺に置いてある石はなんですか?

福井:これは「奇石(きせき)」っていわれる石。
奇妙な奇の奇石という意味なんですが。

しがトコ 亀口:普通の石とはちょっと違う?

福井:はい。昔の人は、けっこう面白い石の形を見つけ出してますよ。

しがトコ 亀口:いつ頃の時代なんでしょう。

福井:江戸時代です。「奇石大尽(きせきだいじん)」として
知られるほど有名だった人が滋賀にいたんですよ。

しがトコ 亀口:そんな人が?!

福井:はい。木内石亭という博物学者なんですが、滋賀県の大津市坂本で生まれて、1808年までの生涯を草津市で過ごしています。

しがトコ 亀口:そうなんですね。

福井:彼が石の専門書『雲根志』を書き、奇石や化石、石器などを紹介しています。

しがトコ 亀口:日本初の奇石の専門書ですか。

福井:ちなみに、これは木内石亭について紹介した本で「昭和雲根志」なんですが。


益富寿之助・著の「昭和雲根志」

しがトコ 亀口:「雲根志を知らずして石を語るなかれ」。
この本の帯びが良いですね!熱がこもってます。

福井:著者の益富寿之助先生は、
京都に「益富地学会館」を創立した人で。
平成5年にお亡くなりになったんですが、私もよくお世話になりました。

しがトコ 亀口:調べてみると「益富地学会館」は
鉱物、化石、岩石研究のメッカとして有名な施設とありますね。

福井:石や地学に興味がある人はぜひ行ってみてください。
そこの創立者の益富先生が、著書『昭和雲根志』の中で、
滋賀の余呉湖に残る、哀しい物語と石について書かれています。

しがトコ 亀口:哀しい石?

福井:はい。「蛇眼石(じゃのめいし)」と言う石で、
私も何度か余呉湖に探しに行ったんですが、結局みつけることができませんでした。

しがトコ 亀口:そもそも蛇眼石は、どんな石なんですか?

福井:放散虫なんかの死骸が海底に堆積してできた岩石です。

しがトコ 亀口:その石にまつわる哀しい物語ですか。

2 余呉湖の「蛇の目玉石」伝説

福井:はい。ひとりの女の子が生まれたんですが、
7、8歳頃から肌に蛇のような模様が現れて…。

しがトコ 亀口:蛇のような。

福井:それで親に捨てられらてしまったんです。
かわいそうに思った下女の方が助けて秘密に育てられた。
でも、親からも疎まれるような姿で生きているのは仕方がないと。

しがトコ 亀口:哀しいですね。

福井:「私は蛇になって、琵琶湖で皆さんの雨を降らすために頑張りたい」と
余呉湖に身を投じたんです。そこから話は、どんどん続いていきます。

しがトコ 亀口:余呉湖に行くと、「菊石姫と蛇の目玉石」として、
実際に「蛇の目玉石」 が祀ってありますね。

★関連記事 菊石姫伝説|余呉湖観光情報

福井:本当に、石にはいろんな物語があります。
ただ、明治時代になると、西洋からの科学的な知識が入ってくるので
この江戸時代的な石の捉え方とは、まったく違います。

しがトコ 亀口:明治時代はどんな捉え方だったんでしょう?

福井:昔から西洋では錬金術が盛んやったので、ただの鉛のような金属から
金をいかに作るか?という研究をしていました。

しがトコ 亀口:錬金術ですか。
例えばそれは、無から価値を生み出すようなことを?

福井:簡単にいえば、熱したり、冷ましたり、
ほかのものと混ぜて、それ自体を変えようとすることですね。
変えて、金を作ろうという。

しがトコ 亀口:その辺りの科学的な知識が明治初期に
日本へ入ってきたと。

福井:はい。そうですね。

しがトコ 亀口:一方で江戸時代の石に対する捉え方は?

蛇の目石の写真
益富寿之助・著の「昭和雲根志」で紹介された木内石亭が発見した「蛇の目石」の写真

福井:江戸時代に『雲根志』を書いた木内石亭は、
「奇石(きせき)」と名付けて、奇妙な形の石を発見してコレクションしたり、
石にまるわる様々な物語を語ってきました。

しがトコ 亀口:奇石として、見た目の面白さも楽しんでいたんですね。

福井:形の面白さとか、空を飛ぶ石とか、重さの変わる石とか。
江戸時代には、いろんな「奇石(きせき)」がありました。

しがトコ 亀口:なんだか、平和な感じがします(笑)。

福井:そうですね(笑)。今でいえば、科学的じゃないと
批判されることもありますが、当時の人が自然に抱いた畏敬の念や、石への思い入れが素直に感じ取れて、
私は、石を楽しむものとして、すごく面白いと感じてます。

福井:今はもうすたれてしまったけれど、
昔は「水石(すいせき)」というのがありました。

しがトコ 亀口:水石、はい。

福井:いろんな自然を石で見立てて、盆に置いてね。
石でひとつの世界を作るんです。昔は有名な石がいっぱいあったんですけどね。
今は誰もする人がいなくて寂しいんですが。

しがトコ 亀口:「水石」は面白いですね。
小さい子どもって、いろんな場所で石を拾ってきますよね?公園とか、道ばたに転がってる石とか。
でも、拾った石は、元の場所に戻したほうがいいとも思うんですよね。

庭にある小さな石の美術館
数々の石が展示されている福井さん宅のちいさな美術館

福井:難しいところやね、それ。
ただ戻してしまうと、誰も目に付かれへんから。

しがトコ 亀口:確かに。ただの石ころですね。

福井:展示会みたいな場所でたくさんの人の目にふれて
「滋賀にこんな石があったのか!」となるかもしれないし。
まぁ、どっちがいいのかなという部分もありますけどね。

しがトコ 亀口:うーん。そうですよね。

福井:やっぱりちょっとでも石のことを分かってる人が
きちんと見てあげることが大事ですね。

3 鉱石は大雨のあとに現れる

しがトコ 亀口:鉱石を採るには、山の奥に行かないとダメなんですか?

福井:基本的には、新鮮な石が見られる所がいいですね。
たぶん昔の人もそうだと思うんですが、
川から流れてきた石を見て、上流に登って行ったんじゃないかと思うんですよ。

しがトコ 亀口:川に沿って?

福井:今みたいに科学的な探査はできないでしょ?
だから、流れてきた下流の石を見て、銅があるとか、マンガンがあるとか判断して、
川沿いに上がって行かれたと思います。

しがトコ 亀口:なるほど。でも、山の中に入って
すぐに鉱石は見つかれないですよね?やっぱり1日がかりになりますよね。

福井:あとは運ですね。

しがトコ 亀口:運ですか。

水晶コレクション
両手に水晶を持ってみましたが、緊張しました

福井:回数もやっぱり必要かな。
トパーズとか緑柱石の宝石類なんかは、
どわっと出るときがあるんですが。
山が崩れたりするような大雨の時とか。

しがトコ 亀口:雨の時ですか!

福井:それも大雨。上の表層が全部落ちたときにね。
宝石類は、比重が重いんですよ。だから下に沈んでる。
そこで、表層が大雨でがさっと流れて。
そのときに行ったら、もう、びっくりするほど採れるという。

しがトコ 亀口:でも大雨だったら、結構危険ですよね。

福井:行くのは大雨が止んだ後ですよ。
それでたくさん見つけてる人もいはります。

しがトコ 亀口:大雨が降った後は、ちょっと出掛けていこうかという。

福井:そうそう、好きな人はね。化石もそうですし。

しがトコ 亀口:そうなんですね。

福井:化石も土砂の砂利とか、全部流されるんでね。
大雨にときに。私の知ってる化石のほうの人は、
鹿の下顎の骨を見つけはりましたよ、水口で。

しがトコ 亀口:水口で?

福井:ええ。水口の野洲川のところで。

しがトコ 亀口:好きな方は、やっぱライフワーク的にそうやって探されてるんですね。

福井:そうそう。もう頻繁やで。
だから大雨降った後の日は、朝4時ぐらいから起きてね。
やっぱり人間じゃとても及ばない力で、ガッと表層が流れていくので、
私たちにとったらチャンスではあるんです。

しがトコ 亀口:行かれるときは、おひとりですか?

福井:ひとりが多いですね。時々は、誰かと一緒に行くこともありますけど。

しがトコ 亀口:取り合いになります?

福井:それはないよ(笑)。
横の人が採れて、自分は何も採れへんなんて結構あるんです。

しがトコ 亀口:そうなんですか、同じところ行っても。

福井:そうそう。

しがトコ 亀口:どっちが先に見つけたとか。

福井:いや、そんなのない。
それは運ですわ。そのときは、見つかったもんの。

しがトコ 亀口:運なんですね。

福井:隣同士でも、場所がズレただけで全くない。そんな世界です。

しがトコ 亀口:だから、鉱石と出会った感動は大きいでしょうね。

福井:ずいぶん昔になりますが、
田上山に入り始めた頃、本当に美しいトパースを発見したんです。
それが、今までで一番感動しました。

しがトコ 亀口:トパーズですか。

福井:田上山の下の川底をずっと掘り進んでたんです。
比重が重いんで、一番下の岩盤のところまで行って。
そしたら、ホールポットという


手にトパーズを持った時の感動を語る福井さん

福井:こんな穴が開いてあったんです。
その底に手を入れて、わーっと探したら、
水が浮き上がったような形でトパーズがあったんです。
水がそのトパーズの形になってるような感じ。
ビカーッと太陽の光を反射してね。もう、あのときの感動は今でも忘れませんね。

しがトコ 亀口:神秘的な出会いですね!

福井:「これ、この輝きだ!」という、
宝石のなる由縁ですね。

しがトコ 亀口:そういう出会いがあるから、
辞められないんでしょうね。

福井:そうですね。美しいものを見たり、珍しいものを見たときの感動は、ひとつありますね。
まあ、いろんな楽しみ方があると思います。

しがトコ 亀口:例えば、水晶を見つけるために
知っておきたい基本的な知識ってなんでしょう?

福井:3点ですね。
ひとつは「比重」。他の石と比べて水晶は比重が重いんです。
だから深い場所にあることが多い。

もうひとつは「条線(じょうせん)」。
水晶の面には無数の線がバーコードのようについてます。
これが天然石の証なんです。

水晶の断面
規則正しい方向性を持つ水晶の断面

最後が「劈開(へきかい)」。
水晶はトパーズように一定の方向に割れやすい「劈開(へきかい)」と呼ばれるものがないんです。
条線が成長の方向に対して直角にある。
だから水晶の断面は、美しく平らになりやすいです。

しがトコ 亀口:この記事を読んで、田上山に水晶を採りに行こうかな、
と思う人が、もしかすると出てくるかもしれないですね。

福井:ただ、もう今は、ほとんど見つからないですよ。

しがトコ 亀口:そうなんですか。

福井:だから、大雨の後とか、
まだ人の行ってない所とか。そういう場合は見つかる可能性はあるけどね。
でも水晶は他の石よりも比重が重いので
深いところじゃないと見つからないことが多い。

しがトコ 亀口:なるほど。

福井:採れるかわからないけど、
山で石を探して遊ぶ時間は、本当に楽しいですよ。
それでも行きたいという方は、ぜひ行ってみてください。

しがトコ 亀口:福井さんと石とのお付き合いは、
もう50年以上にもなるんですよね。

福井:だからもう私自身、
石に対する興味の持ち方が、初めの頃とは変わってきてます。

しがトコ 亀口:どんなふうに?

福井:最初は、美しいとか珍しい石に主眼が行ってました。
でも、徐々に人と石との関係に興味を持つようになって。

しがトコ 亀口:人と石?

石をみる福井
大事そうに石を持つ姿は、まるで我が子を抱くよう

福井:はい。どんな人がどんな気持ちでこういう石を探してたのか。
石を探す方法は?岩石や鉱石の精錬の技術は?
どんな形でやってたんだろう。そんな興味の持ち方に変わってきてます。

しがトコ 亀口:それだけ石というのが、いろんな物語を秘めているんでしょうね。

福井:石だけを純粋に研究されてる方とは、
いまはもう興味が全然違ってきましたね。

しがトコ 亀口:今日のお話を聞いて、石についての見方がだいぶ変わりました。

福井:そんないろんな見方もあるということで。

しがトコ 亀口:はい、ありがとうございました。

今回のお話は、福井龍幸さんの著書『近江の平成雲根志 ~鉱山・鉱物・奇石~』(サンライズ出版)にも詳しく紹介されています。滋賀県で産出した水晶、宝石などの鉱石や、江戸時代「奇石(きせき)」コレクターとして知られた偉人、木内石亭が記した『雲根志』の奇石。また、滋賀県に多く存在していた石部村銅山、富川銀山などの鉱山について『甲賀郡志』『滋賀県管下近江国六郡物産図説』などを元に解説しています。

参照:『近江の平成雲根志 ~鉱山・鉱物・奇石~』 著/福井龍幸(琵琶湖博物館ブックレット5)

取材・文 亀口美穂(しがトコ編集長)

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