観光

びわ博のマニアックすぎる学芸員さんに会いに行ってみました!

【しがトコPR:博物館であそべる!#04】

滋賀に行くなら一度は立ち寄りたいとウワサの「びわ博」こと琵琶湖博物館。
ここ数年で館内がリニューアルされて、
もともと「個性的!」と話題だった展示によりいっそう磨きがかかりました。
そんなマイワールド全開の展示を作っているのが、びわ博で働く学芸員の皆さん。
今回は、特に「マニアックすぎる!」と話題の3名をご紹介します!

化石から古代の森を読み解く“花粉マスター”

トップバッターは、森や植物がご専門という林竜馬さん。
リニューアルでは「樹冠トレイル」を担当されたそうで、
コースを巡りながらお話をうかがいました。

――樹冠トレイルはどのあたりがすごいんでしょう?

林:じつは、縄文時代や弥生時代の原生林を再現しています。

――そんな昔の木ですか!どうやってわかるんですか?

林:ひとつは、神社の裏なんかにある森です。
そういう所の木は切られずに残っていることが多いので、
原生的な状態で残っていると仮定して参考にしました。
もうひとつは、化石です。

――あぁ、木の破片とか、種とかの…

林:いえ、花粉の化石です。

林さん笑顔

――そんなのあるんですか!?

林:あります。ただし、大きさは50分の1ミリぐらい。
琵琶湖の底に鉄パイプを突き刺して、泥を取ってくるんです。
例えばこの辺だったら、3メートルぐらい掘ると縄文時代に溜まった泥が取れます。
泥の中の花粉を調べていくと、かつて琵琶湖の周りにどんな森があったかがわかります。

植物看板

――すでにマニアック!

林:今もスギ花粉が大量に飛んでるじゃないですか。
だいたいワンシーズンで1平方センチメートルあたり1万個ぐらいのスギ花粉が溜まります。

――そんなにですか!?

林:琵琶湖の泥を1グラム取ってくると、その中に10万個ぐらいの花粉があります。
花粉は植物が子孫を残すための大事な器官なので、
外側の膜が「スポロポレニン」というすごく頑丈な有機物でできているんです。

――スポロポ・・レニ・・・ン?

林:スポロポレニンです。それが酸とかアルカリでも全然溶けない。
水が溜まっている場所であれば、何万年、何十万年と残ります。

林:泥の中から花粉の化石を取り出して顕微鏡でちまちま数えると、
当時どんな木が多く生えていたかがわかるので
それを元にして、森を再現しています。

――花粉症の人はムズムズしそうな研究ですね…

林:なにを隠そう、私も花粉症なんですけど(笑)
C展示室に僕が監修した「1万倍のスギ花粉」があるのでぜひ見て行ってください。
本当のスギ花粉をちゃんと見たことがありますか?ないですよね?
よく皆さんが想像されるトゲトゲがついた丸い物体、あれは大間違いです!
ということで、真実のスギ花粉の姿を伝えたくて作りました。

スギ花粉
これが林さんが監修した「1万倍のスギ花粉」。真実のスギ花粉の姿

林:休みの日でも、珍しい花を見つけると採集したりします。
愛でるというか、こう、「花粉を取りたい!」って。
剪定ばさみと封筒はたいてい持ち歩いていますね。

花粉症と戦いながら、花粉へのあふれる愛に生きる林さん。
樹冠トレイルの森は、季節ごとにいろいろな花や実をつけながら
どんどん密度を増しているそうで、これからの成長も楽しみです。

道具への愛が止まらない!“漁具マスター”

渡部さん登場

続いては、地域の民俗学がご専門という渡部圭一さん。
近々始まる特別展の準備中とのことで、「エビタツベどこにある〜?」
と言いながら颯爽と現れた渡部さんに案内されて別室へ。

渡部さん案内

片手に4つほど、カゴみたいものをぶら下げながら歩く渡部さん。
たぶん、これがエビタツベ?

エビタツベ山

渡部:はい、これが「エビタツベ」です。

――随分たくさんありますね。何をする道具なんですか?

渡部:名前からしてなんだか不吉な感じがしますが、要はエビをとる道具です。

――ええ?不吉な感じですか?

渡部:これは沖島という琵琶湖にある島からいただいてきた道具で、
大正時代頃から使われていたことがわかっています。

――あ…はい。

プラタツベ

――あれ?プラスチックのもありますね。

渡部:昭和50年代から急速にプラスチック製が普及して、今も使われています。
こっちにあるのは、昔のエビタツベ。
ちなみに何でできていると思います?

竹タツベ

――えっと、竹…ですか?

渡部:その通り、竹です。
ツヤがあるのは、コールタールという一種の防腐剤が塗られているからです。
匂いを嗅いでみると、油臭いですよね。

渡部さん嗅ぐ
ものすごく匂いを嗅いでいる渡部さん

渡部:古いのは竹のタガがついていて、何年かすると針金に変わっているんです。
こっちは周りが竹なのに、口のところだけプラスチック。
ハイブリッドな時代もあったんですね。
こういった漁具は、時代の変化や陸上の資源とも密接に結びついているので、
そういう変化の過程も面白いんです。

ハイブリッドタツベ

渡部:さらに面白いのは、このエビタツベ、
素材が変わっても形はずっと同じなんですよ。
使い方は、中にエサを入れて、夜の間琵琶湖に沈めておく。
上の穴からエビが入ってきて出られなくなったのを、朝引き揚げてつかまえる。

エビタツベ使い方

渡部:ここでこう留まっていて、引っ張るとパッと開きます。
この仕組みも昔から変わってないんですよ。まったく一緒なんです、フフフ…

――(え!いま笑うところあったっけ?)

渡部:でもこれ、日本全国探しても琵琶湖にしかないんです。

――こんなに便利なのに?不思議ですね。
エビ以外のものがとれることもあるんですか?

渡部:見ていると、中に貝が入っていたりします。

生きもの

渡部:展示前にクリーニングするんですが、
中に生き物が入っている場合はあえてそのまま残しています。
漁師さんにいわせると、この口の部分をどれだけ開けるかが工夫のしどころで
人によって大きめにする人、小さめにする人がいるそうです。
大きくすると大物が入るけど逃げられやすい、
小さくすると逃げられにくいけど大物は入らない。戦略ですね。

――渡部さんはどうしてエビタツベに興味を持ったんですか?

形がかわいい
渡部:これ、形がかわいいじゃないですか。
カゴバッグみたいでしょ?

――おぉ…。意外な理由ですね

渡部:もちろん琵琶湖にしかないとか、一定の季節しか使わないとかいう面白さもありますけど、
たくさんある漁具のなかでも、実にかわいらしい。

――実に、はい。

渡部さんとエビタツベ
エビタツベを小脇に抱えて微笑む渡部さん

――こういう研究をされていると、普段から気になることも多そうですね。

渡部:スーパーに行っても佃煮などの素材が気になります。
ところで佃煮って、砂糖をたくさん使うじゃないですか?
でも砂糖はもともと貴重品で、一般の人が使いだしたのは戦後だといわれています。
そんな砂糖を贅沢に使って作る佃煮って、僕の見立てだと明治時代にはほとんどなかったはずです。
そう考えると、伝統だといわれている食文化の中にも
「実はこれ、怪しいんじゃないか?」と思うことが出てきます。
これから研究したいですね。

渡部さんとエビタツベ2

琵琶湖で使われる漁具の話から歴史への疑問まで、
探究心がとどまる所を知らない渡部さん。
エビタツベを含めた漁具の特別展は、
3月23日から企画展示室にて開催予定です!
渡部さんが愛してやまない漁具の世界へ。
気になるみなさんは、ぜひ足を運んでみてくださいね。

滋賀が誇る生きもの博士!“お魚マスター”

さて、これまでも十分すぎるほどマニアックな話をうかがってきましたが、
いよいよラスボスの登場です。
林さん、渡部さんにお話を聞く中で「その辺は金尾さんに任せて…」
「金尾さんはこんなもんじゃ…」と、たびたびお名前が上がった金尾滋史さん。
満を持しての登場です!

金尾さん登場

金尾:ここが当館自慢のトンネル水槽です。
琵琶湖で暮らすコイやナマズ、リニューアル後はビワマスも見られるようになりました。

トンネル水槽

――お魚には悪いですが、滋賀県民にはなんとも美味しそうな水槽ですね…

金尾:そう、それでいいんです!
水槽を見て、ぜひ「美味しそう」と言ってほしい。
それが琵琶湖に昔からある、魚と人との関係です。
この先には、僕が実際に研究している生きものがいます。
ビワコオオナマズ

金尾:ビワコオオナマズは琵琶湖の固有種で、日本で最大のナマズです。
でも卵の時は直径2ミリ、稚魚は6ミリ、それが最初の1年で約30センチまで成長します。
そこから1年に10センチずつ大きくなって、
最終的にメスは1メートルを超える大きさになります。

ビワコオオナマズ稚魚

――この小さいのが、そんなに大きく!?
卵は何個ぐらい産むんですか?

金尾:1回の産卵で数万個を産みます。でもその中で生き残って大きくなるのは1~2匹くらいと言われています。
詳しい生態はまだ謎が多いんです。
産卵シーンが見られるのは本当にまれで、雨上がりの夜が多いんですが、
最近は空気で「この雨の感じ、来るな」とわかるようになってきました(笑)
ピンときた夜はあちこち回って観察に行きます。

――夜に、お仕事の後にですか?

金尾さん話す

金尾:はい。気づいたら時間を忘れて琵琶湖を2周してた、なんてこともあります。
仕事の後は、気になる川や田んぼを見に行くのが日課で。
いつ何があってもいいように、僕の車には投網や採集道具がぎっしり積んであります!
こないだはキツネがすぐそばまでやって来て僕のことをじっと見るので、
思わず「なんや?」と話しかけました(笑)

――(キツネも、こんな人間珍しいと思ったんじゃ…)

金尾:こう見えて僕、イネアレルギーで。イネに触れると痒くなるんですよ。
林さんは花粉症だし。みんな研究のために戦ってるんです(笑)

――その情熱、素晴らしいです!

バイカル湖コーナー

金尾:ここはロシアにある世界一深い湖「バイカル湖」の生きものがいるコーナーです。

――あっちにアザラシがいますね!

金尾:僕はアザラシより断然「バイカルヨコエビ派」ですっ!

――(えっ、まさかのアザラシ素通り!?)

バイカルヨコエビ
金尾:見てくださいこのトゲトゲ。かっこいいじゃないですか〜。
去年運よく卵を抱えてくれたので、軽い気持ちで数え始めたら終わらなくて。
結局全部で800個近くありました。

魚滋

金尾:滋賀県には昔から琵琶湖の魚を食べてきた文化がありますよね。
だから実物の魚を見て、最後にそれを「食べる」という人との関わりをしっかり表現したかったんです。
“川魚屋魚滋”は僕も大好きでお世話になっている湖魚のお店を再現しました。

ふなずし

金尾:滋賀の名物といえば「ふなずし」!
食べるのは勇気がいる、という人にもせめて匂いで味わってほしいと思って、
アロマ専門の会社に頼み込んで「ふなずしの匂い」を作ってもらいました。
本当は店先をアユの佃煮の匂いで充満させたかったんですけど、
「ダメです!」と言われてしぶしぶ諦めました…
旬を感じてもらえるように、店頭の魚や食品サンプルは季節ごとに入れ替えます。
看板の文字も僕が書いたんですよ。

河原

――ここは川が再現されているんですね!

金尾:川に生きる魚を、季節ごとに入れ替えて間近で見てもらえるようにしています。
写真は僕が個人的に「ここだ!」と思うスポットに撮りに行きました。
僕は生きものがいる現場が好きなんです。
琵琶湖博物館の特徴は、単に魚だけではなく人と生きものの関わりを紹介しているところ。
展示の中をよく見ると、田んぼなどの人工物や食文化につながっていて、
日常にちゃん通じる面白さがあると思います。

学芸員さん達に会いに行こう!

学芸員さんたち
以上、3名の学芸員さんから聞いた濃~いお話をご紹介しましたが、
実は記事にできたのはほんの一部!
熱い想いはとどまる所を知らず、気づけばもう閉館時間…という
時を忘れるぐらい充実したひと時でした。

この記事を読んで「ぜひ本人に会って直接話を聞いてみたい!」と思った方、
なんと、会えるんです!
琵琶湖博物館内にある「大人のディスカバリールーム」には
担当の学芸員さん達が日替わりで質問に答えてくれる「質問コーナー」が完備されています。

スケジュールはこちらからご確認ください。

会いに行ける研究者でもある学芸員さん達に、
マニアックな質問をぶつけてみましょう!

(文:林由佳里 写真:しがトコ編集部)

「琵琶湖博物館」のデータ

住所
〒525-0001 滋賀県草津市下物町1091
→地図
電話番号
077-568-4811
観覧料金
・常設展示 750円(大人)/400円(高校・大学生)
・琵琶湖博物館常設展示・みずの森共通券 850円(大人)/520円(高校・大学生)
※小学生・中学生は無料
営業時間
9:30~17:00(最終入館16:30)
休館日
月曜日(月曜が祝日の場合は開館)
公式サイト
https://www.biwahaku.jp

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