カルチャー

大地とともに生きる姿に触れるアートプロジェクト『Symbiosis(シンビオシス)』

【滋賀近美アートスポットプロジェクト Vol.02】

森の中に突如現れる、巨大なシルエット。
風に揺れ、自然とともに佇む様子は、
まさに大地とともに生きてきた人たちのよう。

若手アーティストたちによる新作が展示された
滋賀県立近代美術館による出張企画展
『Symbiosis(シンビオシス)』が、高島市安曇川町で開催されています。

『この土地に生きる』/井上唯

企画展の会場は、高島市安曇川町にある泰山寺(たいさんじ)地区。
ここは戦後の食糧難の時代に入植され、
開拓者たちによって切り拓かれてきた土地です。

泰山寺

今回のメイン会場がこちら。
「田中邸長屋」と呼ばれる建物。

しかし、会場に到着して、真っ先に目に入って来たのは、
長屋に隣接する森の中にある作品でした。

この土地に生きる

いくつもの人像が並びます。
取材に訪れたこの日は、朝からの雨でしたが、
その雨が、雫が、降り注ぐスギ木立ちの中で、
幻想的な雰囲気を作り出しています。

緑の中に浮かぶシルエット。

その存在は、少しの怖さも感じるものの、
一方で優しく包んでくれるようでもあります。

この土地に生きる

一体だけでなく、何体もの姿を眺めていると、
もう、この森の住人のようにも見えてきます。
木の下を、人像の脇を歩くだけで、
不思議な気持ちになれますよ。

唯さん

この作品を作られたのは、
滋賀県高島市在住のアーティスト・井上唯さん。

今にも動き出しそうな人をかたどったこの作品は
自然と共生しながら、
土地に根を張って生きる人を表現しているそうです。

根をはって生きる人

作品名は『この土地に生きる』。

この森も、開拓者たちによって植林されたそうです。
開拓者たちは、一つひとつ、木を植えながら、
この大地を切り拓き、暮らしを作っていったんでしょうね。
そんな物語を考えると、一人ひとりの人像も、
いろいろな表情に見えてくる気がします。

ちなみに、この取材の日は雨だったため、
作品からは、しっとりとした、幻想的な印象を受けていました。

でも、晴れの日にはまた、また違った印象になるようです。

こちらが、別の日、晴れの撮影した一枚。
どうですか?
晴天のもとで見る姿は、力強く畑を耕すお父さんのよう!

屋外に展示されたアート作品。
天気によって、気候によって、
様々な受け取り方を楽しめそうです!

『大地』/石黒健一

今回の企画展には、3人の若手アーティストが、
作品を出展しています。

次にご紹介するのが、彫刻家の石黒健一さん。
石黒さんは、泰山寺で暮らす田中さんのストーリーを作品にしました。

メイン会場

作品が展示されているのが、
企画展のメイン会場でもある「田中邸長屋」。

そう、石黒さんは、この長屋の持ち主でもあり、
開拓者でもあった、田中さんを表現されてるのです。

かつては納屋

「田中邸長屋」は、最初は旧・朽木村にありました。
亜炭鉱で炭坑夫が寝泊りをする飯場として使われたあと、
泰山寺に移築され、開拓者・田中さんの居となります。

鍬を手に、荒地を農地に変えていく。
その綿綿と流れる長い年月から生まれる存在感が、
建物自体からも感じられます。

大地

こちらは石黒健一さんの作品『大地』。
空間そのものを使って表現する
インスタレーションによる作品です。

中央に展示された壺は田中さんが昔から使っていたもの。お茶などを入れて保管されていたとか。
上に置いてある石は石黒さんが阿弥陀山に登った時に採掘場の跡地からとってきたものだそうです。

田中さんが実際に使われていた麦わら帽子や、農機具など。
奥には、石黒さんが阿弥陀山に登った時の山の自然や、硯を作ったり、
田中さんに書を開いてもらっている過程、田中さんの暮らしの様子などをまとめた動画が。

高島硯

これは、鍬の形をした高島硯(たかしますずり)。
石黒さんが、この企画展のために作られました。
この硯で墨をすり、田中さんに『大地』という作品名を
書いてもらったのだそう。

大地

田中さんによる『大地』。

石黒健一

「ここは、そのままでもう完成形で、付け足すものは何もないと思ったんです」

そう話してくださったのが、この空間を作り出した、
アーティストの石黒健一さん。
神奈川県出身で、今は大津市に拠点をおいて活動しています。

石黒さんは今回のプロジェクトがきっかけで、
この長屋の持ち主である田中さんに出会い、
共に山を歩き、話を聞き、その声に耳を傾け、
山の空気を感じ、木々に触れる日々を過ごしたそうです。

そのなかで、この土地の持つ時間の重みと人の営みに魅かれ、
この作品で、それを表現したと話してくれました。

石黒さんが作った空間にいると長い時間の中のたった一瞬、
その一刹那に自分が生きているのだと感じられるような気持ちになれます。

『Transit』/藤永覚耶

最後にご紹介するのが、今回唯一の滋賀県出身アーティスト
藤永覚耶さんの作品。

藤永さんの作品

これ、何かわかりますか?

最初、お皿に絵が描かれてるのかな?と思ってました。
いいえ、違うんです。

これは、3センチほどの厚さの白樺の木に、シルクスクリーンという技法で
染料を流し込み、反対側に染料が滲み出ることで表現された作品。

木に直接、絵を描くのではなく、
木が水分を吸う原理を活かして、染料を流し込み、
その結果、絵が描かれる。

そんな手法で、思った絵が描けるんですか??
と思ってましたが、やっぱりそれは難しいそうです。

でも、思い通りにいかないのが、自然であり、アート。
そこには、共通点がある。

この土地で開拓者たちが対峙した自然も、
その自然を活かした作品作りも、
なかなか、思い通りには進みません。

鶏の絵

ちなみに、この絵は何か分かりますか?

ヒントは、会場内の地面にあった、この模様。

鶏の足跡

ニワトリの足跡?

藤永さんはこれを見て、
作品の着想を得たのだそうです。
そう言われると、たしかに、ニワトリの顔が見えてきます!!

いろいろなカタチで、土地とアートが融合していく。
やっぱりそれが、この企画展の醍醐味かもしれません。

シルクスクリーン

会場には、この白樺の木が染料を吸い、
作品としてできあがるまでの過程を、
早回しで紹介された動画も、投影されてます。

モデルハウス

今回の企画展は、太山寺エリアにサブ会場もあり、
そこでも、この藤永さんの作品が展示されてます。

藤永さん

藤永覚耶さんは、この土地に出会った時、
自然とともに生きてきた人々に思いを馳せたと言います。

「自然を相手にするということは自分の思い通りにはならないということ。
それは、作品づくりにも通じるのではないか」

「自然のものを使って作品を作るとどうしても思い通りにはいかない。
でも、そこが面白さでもあります」

藤永さんは、泰山寺という土地が持っている歴史と、
自分の作品にはリンクするものがあると話してくれました。

自然の中で生きるアート。自然の中で楽しむアート

このアートプロジェクトを企画し、実施まで手掛けたのが、
滋賀県立近代美術館の学芸員・荒井保洋さん。

荒井保洋さん

この企画展の名称『Symbiosis(シンビオシス)』というのは
生物学用語で“一箇所に複数多種の生物が一緒に生きること”
という意味の言葉だそうです。

直訳すると「共生」ということになりますが、
そこから連想されるような生易しいものではなく、
自然界では「食うか食われるか」の世界。

この、泰山寺エリアというシビアな自然の中で
大地を耕しながら生きてきた人々の暮らしと、
『Symbiosis』という言葉を重ね合わせてみると、
また、違った世界が見えてくるような気がします。

3人の作家

そのキーワードを体現するかのように、
この土地から着想を得て、新しい作品を生み出した3人のアーティストたち。

3人とも、滋賀ゆかりの方ですが、
それぞれ違ったアプローチで、
滋賀らしい魅力を表現されてるようにも見えました。

この企画展、『滋賀近美アートスポットプロジェクト』は、
滋賀の土地の歴史や自然、そこに暮らす人々から
インスパイアーされた若手作家に、
新しい作品を生み出してもらおうという試み。

昨年に続き、今年が2度目の開催だったようですが、
滋賀らしさも感じられる、ステキな企画展です。
来年度にも、「Vol.3」が予定されてるそうですよ。

自分がアートの真ん中に!

土地から生まれたアート作品、
そのアート作品を通じて、また土地の素晴らしさを知る。
この企画展『Symbiosis(シンビオシス)』は、
そんな魅力が詰まった企画展。

会場の中にいると、自分がまるで
アート作品の中にいるようにも感じられました。

重なりアート

美術の楽しみ方は、もちろん人それぞれ。
一人でその空気を味わい尽くしてもいいし、
大切な人と、静かにアートと出会う一日を過ごしてもいい。

こうやって、里山と森の中で、子どもたちを走らせながら、
大地を感じてみるのも魅力的ですよ。

芸術の秋、滋賀のさまざまな環境の中で、
アートに出会ってみるのはいかがでしょうか。
あなたの感じるインスピレーションを楽しんでみてはいかがでしょうか。

【アクセス】会場は山奥です!アクセス方法は事前に確認を!

風結い

会場となる泰山寺エリアは、かなり山奥です。

公共交通機関の場合は、
JR湖西線・安曇川駅から、予約制の“乗り合いタクシー”がオススメです。

1時間に1本で、料金は300円。
乗車便の始発の30分前までに、電話での予約が必要です。
乗り合いタクシーでは「泰山寺バス停」まで行けます。
会場はバス停から歩いてすぐです。

「高島市 予約乗り合いタクシー」
料金:大人300円 小人150円
予約先:大津第一交通 0120-524-447 ※事前予約制
詳しくはこちらから

また、会場付近に、コンビニなどはありません。
飲み物などはあらかじめご用意ください。

車で行く場合は、周辺に駐車場が用意されています。
カーナビなどに住所を入力して、お越しください。
会場付近に立っている、紫色の“のぼり”が目印です。
安全運転でお越しください。

→会場をGoogle Mapで見る

【ランチ情報】しがトコでオススメの2店舗!

泰山寺エリアは、ゆったりした空気を感じられる、
とっても魅力的なところです。

このエリアにある、しがトコでもおすすめの2軒をご紹介します!

まるでここは北海道?!大自然のもと「かまど」で炊くご飯と新鮮野菜が味わえる『ソラノネ食堂』

メイン会場から歩いて10分ほどの場所にある「ソラノネ食堂」は、
かまどで炊いたご飯が味わえるカフェ。
高島の食材をふんだんに使ったランチは絶品!
かまど炊きの体験もできますよ!

まるでジブリの世界?!森の中に佇む農園レストラン『sato kitchen』でとれたて野菜の手料理を

サブ会場に隣接しているのが、「sato kitchen」。
泰山寺に移住して農業を営む若い夫婦が、
週末だけオープンするレストラン。
自分たちが作った野菜を使ったランチが大人気です!

【イベント情報】10月12日(日)には「イノシシ丸焼き」も?!

企画展『Symbiosis(シンビオシス)』の会期は、
2019年9月21日(土)~10月20日(日)の1か月間。

会期中、様々なイベントが開催されていますが、
中でも注目は10月12日(日)。

この日はメイン会場にて、井上唯さんによる
「〈木の根を起こす〉ワークショップ」が開催されます。
切り株を起こすイベント。
予約不要です!

たかしまファーマーズマーケットチラシ

また、10月12日には泰山寺エリアにて、
高島の個性的で魅力的な農家さんが集うイベント
「たかしまファーマーズマーケット」や、
旧カモ小屋を会場にしたライブイベント「たかしま音楽室」
開催されます。

中でも注目は、「たかしま音楽室」で開催される「猪の丸焼き」。
地元猟師さんが、獲れたら持ってきてくれるそうです。
(獲れなかったらゴメンなさい)
11時から、火を囲んだワークショップが開催されるそうなので、ぜひ!

いろんな楽しみ方ができる『Symbiosis(シンビオシス)』と合わせて、
楽しんでみてはいかがでしょうか。

(写真・辻村耕司 文・若林佐恵里)

「メイン会場 田中邸長屋」を地図でみる

「泰山寺バス停」のすぐ近く

滋賀県高島市安曇川町田中4915

→大きい地図で見る

「Symbiosis」の詳細情報

会期
2019年9月21日(土)~10月20日(日)
休館日
会期中無休
開館時間
10:00~17:00
場所
滋賀県高島市安曇川町田中491
→地図
料金
無料
料金
無料
お問い合わせ
滋賀県立近代美術館(平日8:30〜17:15) 077-522-2111
公式サイト
https://www.shiga-kinbi.jp/?p=23235

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