カルチャー

うつわはアートなのか?“民藝”が恋した『信楽焼』

【信楽焼と民藝/滋賀県立陶芸の森 特別展「民藝から関係へ」】

ふと手に取ったお気に入りのうつわ。
「なんか、いいな」と思うその感覚、“民藝”の入り口かもしれません。
芸術品だけじゃない、暮らしの日用品に価値を見出そうとする民藝の考え方は、今から約100年前に始まりました。

でもじつはそのずっと前から、美しい日用品を生産してきた信楽は、民藝の憧れの地でした。
道具とアートのあいだにある、信楽焼の奥深い魅力に触れてきました。

毎日使ううつわの中に“美”がある?

陶芸の森 陶芸館

今年は民藝という言葉が生まれてから100年の節目の年。
それを記念して、滋賀県立陶芸の森では特別展『民藝から関係へーコミュニティデザインの視点からー』が開催されています。

特別展 展示

そもそも民藝とは、高級な芸術品ではなく、名もない職人が手がけた、ふつうの暮らしの中の道具たちにこそ「本物の美」がある——
そんな思いから、1920年代に思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)を中心に始まった運動です。

というと難しそうに感じますが、お気に入りの器でごはんを食べると、なんだか気分がいい。いつもの料理がちょっとおいしく見える。そんな経験も民藝のひとつ。そう考えると身近に感じませんか?

民藝の本質が信楽があった

信楽焼のはじまりはおよそ800年前。すり鉢や壺など、暮らしの中で使われる“やきもの”を作る産地として発展してきました。
特別展 火鉢

大正7年から昭和20年にかけては火鉢の一大産地に。最盛期には、全国に流通する火鉢の9割が信楽製だったとか。
火鉢の次は植木鉢やタイルまで——。
時代のニーズに合わせて、つねに新しいものづくりに挑戦してきました。

信楽焼「青簾焼酎瓶」

そんな産地・信楽では日常の道具を作っていても、自然と“美”が宿っていました。
だからこそ、信楽焼は民藝という言葉が生まれるずっと前から、その精神を体現していたとも言えるのです。

河井寛次郎の作品

そのことにいち早く気づいたのが、のちに民藝運動を支える陶芸家・河井寬次郎。
20代半ばで信楽を訪れた彼は、飾らないけれど力強く、美しさをたたえた器に出会い、強く心を動かされました。
「こんな美しさが、ふつうの暮らしの中にあったなんて——」その驚きが、彼の「暮らしが仕事」という信念を深めていったのです。

無名の職人が生んだ美しさを、もう一度

特別展に展示されている作品の中に、新しいカタチの民藝がありました。

サイネンショー

その名も「サイネンショー」。不要になった陶器を穴窯で再焼成し、新たな価値を生むプロジェクトで、これを手がけているが、陶芸の森館長の松井利夫さんです。

陶芸の森館長の松井利夫さん

「最初はね、東日本大震災のあと、信楽の作家と被災地に食品を送るプロジェクトをしたんです。その後いろんなことがあって全国から使わなくなった器が僕のところに集まることになって。それらをもう一度焼き直してみよう、ってことから始まったんです。それが思いのほか面白いものができて。焼き直すことで、器に新しい表情が生まれてきたんです」。

サイネンショーの作品

集まった器を組み合わせたり、釉薬をかけて焼き直したり。
誰かが使ったものが、もう一度“うつわ”として命を吹き返す——
そんな偶然の美しさが「サイネンショー」の魅力です。

今回の展示のために信楽の家庭に眠っていた陶器も、サイネンショーされました。

サイネンショー作品

「展示してると、誰の作品ですか?って聞かれるんですけどね。これは“誰の”って言えないんですよ。釉薬掛けや窯詰めから窯焚きまで、毎回いろんな人達が参加し、みんあで一体の“窯焚き虫”になっていますから、焼き上がった作品は誰が作ったとか、誰のものかということは意味がないんですね。ただ『みんなが作った』。ものが個人の世界を超えることができることでいいと思っているんです」。

作者が特定できないもの、用途が定かでないもの。
けれど、そこに心を動かす“美”があるなら、それはもうアートなのかもしれません。

サイネンショーの作品は、まさに“いまの民藝”です。

アートって特別じゃなく、身近にあるもの

特別展の様子

信楽の地とともに進化していく陶芸。「太陽の塔」を手掛けた芸術家・岡本太郎や、スウェーデンの陶芸家・リサ・ラーソンらも、信楽で制作活動を行ってきました。
今後も多様な価値観で新たなものづくりが続けられていきます。

リサ・ラーソンの作品

信楽焼って、たぬきだけじゃなかった!
知れば知るほど面白い、信楽焼。
身近にあったアートの産地、信楽へ出かけてみませんか?

(文・福本明子/写真・東田七星)

『陶芸の森35周年記念 特別展「民藝から関係へ-コミュニティデザインの視点から-』の詳細

会期
2025年7月19日(土)~9月28日(日)
住所
滋賀県甲賀市信楽町勅旨2188-7
開館時間
9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日
毎週月曜日 ※7/21、8/11、9/15は開館し、翌日休館
電話番号
0748-83-0909
公式サイト
https://www.sccp.jp/exhibitions/20132/

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