【美の滋賀trip!#03/ながらの座・座】
約370年前に建造され、三井寺の坊舎として使われていた建物や古庭園を舞台に、
クラシック音楽、尺八とクラリネットのデュオ、ダンスワークショップなど、
一般のホールでは実現しにくい実験的なコンサートや交流イベントに
積極的に取り組む『ながらの座・座』。
その質の高いユニークな企画は多方面から高く評価されています。
「座・座」とは何か。どんな場所なのか。なにを目指しているのか?
その実態を探るべく、代表の橋本敏子さんにお話を伺いました。
人が集まる生きた文化財『ながらの座・座』
『ながらの座・座』は大津駅から徒歩15分、長等公園に隣接する閑静な住宅地にあります。
座・座の活動を代表の橋本さんは次のように話します。
橋本:2011年から始まったこの活動は、文化財を保存するだけでなく、
その環境・空間・歴史の魅力を生かし、
この環境が持つ多様な魅力を多くの方々に知っていただき、あるいは発見することで
生まれる唯一無二の新たな世界が生まれる場として、育ってほしいと思っています。
橋本:「なんやようわからん」とよく言われますが、
何回も来てもらううちに「わからない」が「おもしろいねぇ」のつぶやきに変わってくる。
そんなとき、座・座をやっていてよかったと心から思います。
かつてこの建物は三井寺の関連施設として、
アーティスト・イン・レジデンス的な機能をもっていたそう。
そんな歴史は知らずに始まった座・座の活動でしたが、
実は歴史は繰り返していたんですね。
橋本:私設のスペースをこのような目的のために
維持管理・運営するのは実はとてもたいへん。
でも、私設であるがゆえに「これだ」と思う演奏者や、音楽家をお招きできるし、
演奏者みずからここで演奏したいと言ってくださることも。
そういった方々に支えられ、公立のホールでは不可能な
さまざまなプログラムを実現できたのは、幸せなことです。
橋本:このお庭は、滋賀県の文化財・名勝として指定を受けているもので、
池や橋、浮島で神仙蓬莱の世界を現している大変珍しい庭園なんですよ。
この場所に込められた思い
『ながらの座・座』の由来は、三井寺の正式名称である
『長等山園城寺(ながらさんおんじょうじ)』から。
橋本:いろんな人達がこの場所で出会って重なって、
そこでまた何かが起こる。
座・座という名前には、そういう場所にしたいという思いを込めました。
橋本:私はもともと、大阪を拠点に都市計画系の仕事をしていました。
自分の事務所を持って30年たった時、
人生のラストステージをどう過ごすか考えました。
それで、この場所に帰ろうと思ったんです。
いざ帰ってきて、この場所を活かして何かできないかと
考えていた時に、東日本大震災が起こりました。
その時に感じたんです。
どんなに大切にしているものでも、一瞬でなくなってしまう。
ものも、建物も、自然も。
大切なものはちゃんと残しておかないと、
簡単に壊されてしまう。
その跡には全く違うものが建てられてしまうことが多々起こっています。
だからこそ、自分が大切だと思うものを守りながら、
ここがどんな場所で、どんな価値があるのか。
それを知ってもらえるような活動をしようと決意しました。
これまでに、50回を超えるイベントを開催!
『ながらの座・座』では、2011年から今まで、50回を超えるコンサートや
ワークショップを開催してきました。
記念すべき第一回目は、
古庭園・大人ライブ Vol.1『バッハとラヴェルを聴く』。
それから今に至るまで、ここでしか聞けないイベント、
6年がかりで全16曲を演奏するベートーベンの「弦楽四重奏曲」にも取り組みました。
声明(しょうみょう)や雅楽、落語も行いました。
橋本:その他にも、足元の大津のことを実はあまり知らないことに気がつき、
『Deep大津 Unknown 大津』と題した連続セミナーなども行いました。
「札所」の歴史や「大津絵」の由来、
ちょっと目を向ければこのまちは本当に歴史の宝庫。
それらが、日常的の生活空間のなかに今も生きているから魅力があるんですね。
唯一無二の体験の場
最近の座・座のプログラムで評判になったものをいくつかご紹介します。
座・座ではクラシックのコンサートが開かれることが一番多いのですが、
『庭と音楽』と題した、吉田誠のクラリネット・ソロ・コンサートが大きな話題となりました。
なかでも、世界的に高い評価を受けている作曲家の藤倉大氏が
座・座の庭をテーマに「Turtle Totem」を作曲し、初お披露目を座・座で行いました。
昨年、同じシリーズで行った『風の息、呼吸する音』では
座・座の環境のなかでこそ生きる
クラリネットと尺八の音の競演がありました。
橋本:いずれも、座・座という環境に魅せられ、演奏者と観客がひとつになって、
新たなトライヤルを楽しむ、まさに「唯一無二」を全身で受け止め楽しむ場となりました。
それを可能にしているのは、定員50名弱の小規模な会場であること。
それに併せて、庭と一体になったステージ性、
さまざまな生き物が棲息している池やそよぐ風など、季節の移ろいが感じられる環境。
この絶妙な空間が、コンサートホールでは味わえない空気を醸しだします。
琵琶湖を身体で感じるためのワークショップも!
また、2019年からは毎年秋に
「身・水・湖」というタイトルで、3回シリーズのワークショップを開催しています。
暮らしの身近にありながら、当たり前すぎて
なかなか気づいていなかった水や琵琶湖をテーマに、
単純に知識としておもしろがるだけでなく、
「身体で感じて、表現につなげたい」と
ジャワ舞踏家の佐久間新さんと一緒に行ってきたイベントです。
橋本:佐久間さんは、舞踏家といってもただ踊るだけではなく、
人間と自然との関係を深く理解して、
それを身体で表現する活動をされています。
昨年のイベントは、ペットボトルの水、体内の水、池の水など
小さな水を意識して身体で感じた後に、
水辺や琵琶湖に行って大きな水の存在に触れるという実験的な内容。
橋本:西野水道という昔使われていた排水用の岩穴を歩いてみて
水の気持ちになったり、水辺で佐久間さんが
トンビと交信しているのを一緒になってやってみたり。
そこで得た感覚をヒントにダンスや音楽を創作しました。
ダンスの創作というと、振り付けを作るの?
と思われるかもしれませんが、
ベースにあるのは、体を動かすこと。
橋本:何気ない生活の所作もダンスといえるんじゃないか、
実際に自分の身体を使って、
まわりの環境とどうコンタクトをとるか。
いろんな手法を使ってやってみるという感じです。
2020年は「身・水・湖ーひろがる波紋」がテーマ
二回目になる2020年は、
引き続き、2019年の参加者の方々にも加わってもらい
企画から一緒に考えたのだそう。
“連歌”という和歌の様式をテーマに、
「座・座式」と称する言葉で新たな創作を行いました。
1、2回目は琵琶湖周辺を散策して
拾い集めた言葉から、五・七・五・七・七の連歌を作り、
それに節をつけて音楽に展開。
3回目は参加者で竹生島や今津港に行き、
1、2回目に作った歌や音楽に合わせた踊りを創作しました。
「わかりにくさ」の中にこそ光るもの
『ながらの座・座』のイベントは、いっけん不思議で
わかりにくいものばかり。
でも、その中にこそ光るものがあるのかもしれません。
橋本:珍しいことをやると『わからない』と
敬遠されることもありますが、
何をもってわからないなんだろう、と思います。
逆に『わかりやすい』というのは、
聞いたことがあること、よくありそうなことでしょうか?
それなら、わかりにくいと言われる方が良いと感じます。
イベントを精力的に行っている橋本さんですが、
その根底には、いつもこんな思いがありました。
橋本:今まで会ったことのないものと出会うことで
これまでとは違う世界の見方や感じ方が生まれます。
それが、文化的な場を作る一番の魅力でしょう。
2019年より行われているワークショップは、いわゆる“子ども向け”ではないもの。
しかし、親子で参加する姿もあると言います。
橋本:小学生の子どもから私と同世代の大人まで、
いろんな環境から集まってきた人達が
一緒になって声を出して歌ったり、
体を動かしたりして楽しんでいる。
そんなことが起こる場って、なかなか無いでしょう?
今年のワークショップを振り返るトークライブも開催!
2021年1月23日(土)には、今年の総括として
トークライブも開催されます。
YouTubeでも配信されますので、気になる方は公式サイトをご確認ください。
また水をテーマにしたワークショップは、2021年も開催予定です。
毎年、少しずつ変化し続ける内容、
今年はいったいどんな不思議と出会えるのでしょうか。
目の前にある景色、暮らし、自然。
いつも当たり前に感じていることも、
少し見方を変えたり、掛け合わせたりするだけで
世界が違って見えるかもしれません。
そんなきっかけを探しに、ながらの座・座を
訪れてみてはいかがでしょう。
「ながらの座・座」を地図でみる
JR東海道本線「大津駅」より徒歩15分
→大きい地図で見る
「ながらの座・座」のデータ
- 住所
- 〒520-0035 滋賀県大津市小関町3-10
(→地図) - 電話番号
- 077-522-2926
- 公式サイト
- https://nagara-zaza.net
※「美の滋賀trip!」は『しがトコ』が企画・取材を担当し制作しています。この記事は、滋賀県公式のポータルサイト『美の滋賀trip!』でも公開されています。