【関西大回り乗車/滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、奈良県、三重県】
切符はたったの150円。
ただし改札から一度も出ずに、同じ駅も二度通らずに。
「滋賀を飛び出して、関西まるごと巡って琵琶湖一周とかどうですか?」
これはそんな好奇心を不用意に口にした結果、
〇所要時間「15時間19分」
〇総移動距離「約570㎞」(※新大阪~東京:約552㎞)
〇乗り換え回数「15回」
という途方もないルートで2府5県を股にかけ、琵琶湖一周に挑んだ旅の記録です。
JRの「大回り乗車」とは

JRを使った旅の楽しみ方で「大回り乗車」というのをご存じでしょうか?
JRの切符のルールには「『大都市近郊区間』内であれば、どんなに遠回りしても出発駅から到着駅までの最短の運賃で計算する」という特例があります。
・途中下車して改札を出ない
・同じ経路は1度しか通らない
・大都市近郊区間内に限る
・切符の有効期限は一日
以上のことさえ守れば、長距離の鉄道旅をお得に楽しめるのが「大回り乗車」です!
※詳細や特例の範囲はJR西日本の「きっぷのルール」をご確認ください。

なので「守山駅」から一駅隣の「栗東駅」までの切符を買い、逆方向に向かう電車でぐるっと巡れば、たったの150円で琵琶湖一周旅が楽しめるんです!
以前しがトコでも、先輩ライターが「大回り乗車」で琵琶湖一周にチャレンジしたことがありました。
■関連記事「140円で琵琶湖一周!「大回り乗車」に挑戦したら滋賀の広さが身に沁みた」
何をするのでもなく、どこに向かうのでもなく、ただ電車に揺られ、車窓を流れる景色をのんびりと眺めながら旅をする。
自転車で琵琶湖を一周する「ビワイチ」というアクティビティがありますが、まさにこれは鉄道版「ビワイチ」!
私自身旅が趣味なこともあり、記事を読み終えた頃にはすっかり鉄道版「ビワイチ」に魅了されていました。
そして先日。
編集長とふとこの記事の話題になり、私は兼ねてより考えていたことを何気なく口にしました。
「今度は滋賀を飛び出して、関西まるごと巡って琵琶湖一周とかどうですか?ほら、こんな感じで」

もちろん冗談で言ったことです。
実行するとなると、丸一日電車に乗ることになりかねませんからね!
そんな私に、編集長は「面白いね!」と笑いながら言いました。
「で、いつ記事にしてくれるの?」
あの時の編集長の笑みは忘れられません。
関西まるごとビワイチ計画
とにかく企画が通ってしまった以上、実行するしかありません。
計画したルートは以下の通りです。

距離を稼ぐなら他県の駅から出発したほうがいいですが、今回の企画は「滋賀を飛び出して、琵琶湖を一周すること」
スタートは滋賀県内の駅にしようと、しがトコ編集部の最寄り駅である守山駅に決めました。
ゴールは隣の栗東駅です。
まずは守山駅から北上し、琵琶湖を反時計回りに巡って和歌山まで南下。
そこから奈良などを経由して栗東駅に帰ってくるルートです。
「やるなら関西を巡れるだけ巡れるルートでいこう!」と、途中でショートカットも設けていません。
列車の時刻を調べ、一日の内に目的地に着けることも確認し、あとは実行に移すだけとなりました。
初手、琵琶湖大回り
そしていよいよ旅立ちの日がやってきました!

まずは計画通り、琵琶湖をぐるりと巡って山科駅に向かいます。

守山駅の券売機で切符を購入。
150円という額ですが、途中でなくしてしまったら一巻の終わりです…!
指先でつまむ切符に命運を託していると思うとなんだか心細くなってきました。

6時1分。
そんな不安を吹っ飛ばすかのように、始発電車が勢いよくやってきました!

関西まるごと琵琶湖を一周する、壮大な「ビワイチ」の始まりです!

守山駅を出たら次は野洲駅です。
駅に着く前に、右手には”近江富士”こと「三上山」が現れました。
ところでこの「野洲」という名前。
関西のJRユーザー、特に神戸線や京都線をご利用の方なら聞き覚えがありませんか?
そう、電車の行先表示でよく見かけるあの「野洲」です!
野洲駅の近くには「野洲派出所」という車両基地があり、京阪神の朝の通勤ラッシュに備えた電車がずらりと出番を待っていました。

電車は琵琶湖の東に敷かれた「琵琶湖線」の線路をぐんぐん北上していきます。
“琵琶湖”線らしくレイクビュースポットをご紹介したいところですが、じつは今回のルートでは琵琶湖線内で湖が見える区間を通らないんです…!
その代わりにほら、見てください!
彦根駅に近づく頃には、ゆるキャラ「ひこにゃん」で有名な国宝・彦根城が……

あぁ、電線が!
撮影ミスに落ち込む暇もなく、琵琶湖線の終点・米原駅に到着。
北陸本線の電車に乗り換え、滋賀県最北端の駅・近江塩津駅を目指します。

米原駅を出発後しばらくして、ようやく琵琶湖が見えてきました!
(琵琶湖線ではなく北陸本線ですが…)
さらにそのまま北上を続けていると、だんだんと景色の向こうから高架線路が近づいてきました。
近江塩津駅で合流する「湖西線」です!

琵琶湖の東西の線路が合流する近江塩津駅に到着すると、洞窟のような通路を通って、先ほど窓から見えた湖西線に乗り換え。

今度は琵琶湖の西を通って一気に南下していきます!
時刻は7時半を過ぎた頃。
駅を出発してすぐ、奥琵琶湖の神秘的な朝の風景がちらりと見えました。

そして近江高島駅を過ぎる頃には、その琵琶湖がどーんと車窓いっぱいに広がります!

神秘的な奥琵琶湖や、ダイナミックな湖西からの風景。
こうして電車で巡ると琵琶湖のいろんな顔が見られて面白いですね!

さっきは右手に見えた三上山が、今度は左手に現れました。
その光景に「琵琶湖をぐるっと回ってきたんだなぁ」と実感。

約3時間で琵琶湖を“ほぼ”一周し、電車は京都府の山科駅に到着しました。
琵琶湖を完全に一周するべく、今度はさらに3時間かけて和歌山へと向かいます!

……あれ?
出発前は「150円で関西のあちこちを巡れるぞー!」とウキウキしながら計画を立てていたのですが…。
ひょっとして私は、とんでもない旅を始めてしまったのでは?
気分はまるで将棋の駒
山科駅からは新快速に乗り換え、一気に尼崎駅を目指します。
よく利用する路線なので、見慣れた景色の連続に少しほっとします。

ちなみに私が大阪方面に向かう時は、進行方向左側の座席に座るのが最近のお気に入り。
島本駅を過ぎる頃に現れる建設中の新名神高速道路が、神殿みたいでワクワクするんですよね。

順調に大阪駅も過ぎ、兵庫県の尼崎駅に到着。
「東海道線」、「福知山線」、「JR東西線」が乗り入れるため、それぞれの路線に対応した色の駅名標がずらりとホームに並びます!

ここからは「JR東西線」に乗り換え京橋駅に行き、「大阪環状線」で天王寺駅へ。
天王寺駅から「紀州路快速」に乗って和歌山まで南下する予定です。

JR東西線のホームで待っていると木津行の電車がやってきました。
今回は途中の京橋駅で降りますが、終点の木津駅にはこの後の行程で立ち寄る予定です!
だいたい今から7時間後くらいに!
…あまり先のことは考えないようにして電車に乗りました。

電車は地下へと潜り、「東西線」の名の通り大阪市内を西から東へぶったぎるように疾走していきます。
京橋駅に着くなり次は大阪環状線に乗り換えです。

ひぃぃ、せわしない!
まるで気分は将棋の飛車か角。
関西という盤上を縦横斜めに飛び回ります。
しかしこのせわしなさこそが「大回り乗車」の醍醐味なのかもしれませんね!

天王寺駅に着くと乗り換えまで余裕があったので、構内をちょっと探検。
ヨーロッパの駅のような雰囲気にしばし見惚れていました…!
探検後、和歌山行の「紀州路快速」に乗車。
『あべのハルカス』に別れを告げながら大阪市を離れます。

途中の日根野駅では、それまで道中を共にしていた関西空港行の「関空快速」との切り離しが行われました。

ちなみに関西空港駅は行き止まり駅。
うっかり関空快速側の車両に乗り、空港に行ったら「詰み」になってしまうのでご注意です…!

12時7分。
守山駅を出発してから約6時間。
ついに和歌山駅にやってきました!
え?
これで旅もいよいよ折り返し?
何を言っているんですか。
これからまだあと9時間くらい電車に乗るんですよ…。

到達記念に切符と駅名標を一緒に撮影。
金額とここまでの距離とのギャップがありすぎて、何だか後ろめたいことをしている気分になってきました。
恐怖!ホームの中に改札が?!

今から和歌山線と万葉まほろば線経由で奈良駅に向かうのですが、ここから先は約3時間の各駅停車による長旅です!
ひとまず駅構内の売店でパンと飲み物を買ってお昼ごはん。
しっかり休憩をとってから和歌山線のホームに向かいました!

「…ホームに改札があるんですけど?!」
立ちふさがった自動改札機に行く手を阻まれました。
こちらは「中間改札」と呼ばれるもので、無人駅が多い和歌山線での不正乗車対策のために導入されたそうです。
そんなことはつゆ知らず、予想外の事態に私はすっかり気が動転。
(守山駅から150円の切符とか、絶対改札通らないよね…?!)
試しに切符を突っ込んでみる?
それともここでまさかの切符を清算??
あれこれ悩んでいるうちにふと、改札機に備え付けられた「呼び出しインターホン」の存在に気づきました。

試しにインターホンを押し、応対してくれたオペレーターさんに「大都市近郊区間で大回り乗車をしている」旨を説明しました。
「うまく伝わらなかったらどうしよう…」とびくびくしていた私でしたが、手慣れた様子のオペレーターさんの指示に従い、切符を所定の場所に置きました。

「はい、こちらで切符を確認できました。改札を開けますね」
無事通れました…!
よかったー!

ホームにはすでに和歌山線の電車が入線していました。
今までに乗ってきた電車と似たような形ですが、それぞれ微妙に顔つきやカラーリングが異なっているのが面白いですね。
改札を抜けられたことにほっとしたのか、それとも疲れが出たのか。
座席に腰を下ろした私は、発車するなりカクンと眠ってしまいました。
後半戦は怒涛の乗り換えラッシュ

目を覚ますと、景色ががらりと変わっていました。
和歌山線は単線のため、対向列車との行き違いなどで列車はたびたび途中駅で数分間停車します。
その間ホームに出て伸びをしたり、これからの行程を再チェックしたり。

途中、学校帰りの学生で混み合う区間もありましたが、思い返せばかなりのんびりした時間を過ごせた路線だったと思います。
電車はやがて奈良県へと入っていき、ようやく旅も後半戦。
…と言いたいのですが、旅はこれからが本番とばかりにゴールまでまだ8回もの乗り換えが残っています。

まずは電車を高田駅で降り、「万葉まほろば線」に乗り換え。

三輪駅を過ぎた辺りで突如姿を見せた大鳥居に慌ててカメラを向けたり、

「京終(きょうばて)」という珍しい地名の由来について考察しているうちに奈良駅に到着。

ここから「大和路線」で再び西に進み、

大阪の久宝寺駅から「おおさか東線」に乗り換えて今度は北上です。
車窓の左手には別れたはずの『あべのハルカス』が再び姿を見せました。

難読地名で有名な「放出(はなてん)駅」に着いた時点で、守山駅を出発してから約12時間が経過。
電車に乗っているだけとはいえ、頭も体もすでに限界に近づきつつあります。

そこに追い打ちをかけるように、放出駅から乗った「学研都市線」の電車では帰宅ラッシュに巻き込まれました。
疲れ果てた脳が、体が、声なき悲鳴を上げ始めます。
(せめて、せめて滋賀にたどり着きたい…!)
そうしてヘトヘトになりつつ終点の木津駅にたどり着いた頃には、すっかり夜になっていました。

関西をつなぐ、大きな輪っか
気持ちこそ折れかかってきましたが、長かった旅もいよいよラストスパートです!

まずは木津駅から隣の加茂駅に移動し、加茂駅から「関西線」の列車に乗って三重県の柘植駅を目指します。
そして柘植駅で「草津線」に乗り換えればいよいよ滋賀県です!
ゴールが見えてきました!

柘植駅に向かう車両は、この旅では初めてのディーゼル車です。
19時16分。
ディーゼル音を轟かせながら列車が加茂駅を出発しました。

ほとんど外の様子がわからないまま暗闇の中を列車は突き進み、20時10分に三重県の柘植駅に到着しました。

駅に着くと、構内のあちこちに潜んでいる伊賀忍者たちが出迎えてくれました!
「おかえりなさい」の文字が胸に沁みる…
そして入線してきた車両の行先表示には見慣れた滋賀の地名が…!

20時20分に草津行の電車が出発し、14時間ぶりに滋賀県へと舞い戻ってきました。

あと少し、あと少し…!
逸る気持ちで車内の路線図を見上げます。

終点・草津駅に着くと、いよいよ最後の乗り換えです!
琵琶湖線の野洲行の電車に乗り、隣の栗東駅へ。

発車してから数分で減速が始まり、そして…

21時21分。
ゴールの栗東駅に到着しました!!

しかしまだ最後の仕上げが残っています。
ルールに則ったとはいえ、この切符で本当に改札を抜けられるのでしょうか?

結果は……

無事に出られました!
出発から「15時間19分」
総移動距離「約570㎞」(※新大阪~東京:約552㎞)
乗り換え回数「15回」
通った府県「滋賀、京都、大阪、兵庫、和歌山、奈良、三重」
「滋賀を飛び出して琵琶湖一周」達成です!!

…と言いたいところですが、守山駅まで戻らないと「一周した」とは言えませんね。
この後さらに150円の切符を買って出発駅の守山駅に戻り、正真正銘琵琶湖一周を達成しました。
守山駅に降り立った瞬間、私は晴れやかな気分で思いました。
「今日はもう、電車に乗らなくていいんだ…」

というのは半分冗談ですが、実際に関西をぐるっと巡って琵琶湖を一周できるとわかると、「関西って大きな輪っかでつながっているんだな」と感慨深かったです。
そしてやっぱり、関西は広かった…。
大回り乗車の旅は、出発駅と到着駅の組み合わせで楽しみ方は人それぞれ!
もしチャレンジされる方は関西の大きさはもちろん、滋賀や琵琶湖のスケールを感じに来ていただけたら嬉しいです!
- 記事を書いた人
- 結城弘/滋賀県出身。小説家・ライター。滋賀が舞台として登場する小説『二十世紀電氣目録』『モボモガ』を執筆。趣味は旅行、レトロ建築巡り、ご当地マグネット集め、地酒。noteにて旅ブログなどを更新中。各SNS⇒ X(旧Twitter)/ Instagram












