カルチャー

【前編】滋賀の山は水晶の宝庫?!-鉱物採集で半世紀の福井龍幸さんにお話を聞きました-

【滋賀の鉱物:前編】

滋賀といえば「琵琶湖」だけ?
いいえみなさん「山」のこと、忘れてませんか?
じつは、琵琶湖の面積は滋賀県のたった“6分の1”。
森林の面積は滋賀県の半分を占めているのに
「琵琶湖」が滋賀を覆い尽くしているイメージ、ありますよね?
だけど琵琶湖のことはちょっと脇に置いておいて、
山に気持ちを向けてみるのはいかがでしょう。
登る山、走る山、遊ぶ山といろいろありますが、
ここでは“鉱物”という切り口でご紹介します。
昨年、鉱山や鉱物・奇石についての本を出版された
福井龍幸さんに登場していただき
滋賀の「山」と「石」についてあれこれとお話を伺いました。
インタビューの様子は、前編・後編の2回にわけてお送りします。
聞き手は、しがトコの亀口がつとめます。

1 滋賀の山は、水晶の宝庫?!

福井
鉱物を採集し続けて半世紀!という鉱物研究者の福井龍幸さんに、山の魅力、鉱物の魅力についてお話を伺いました。

しがトコ 亀口:今日はどうぞよろしくお願いします。

福井:はい、お願いします。

しがトコ 亀口:福井さんが書かれた『近江の平成雲根志 (琵琶湖博物館ブックレット) 』という本を読みまして。とても面白かったです。

福井:そうですか。ありがとうございます。

しがトコ 亀口:滋賀の鉱物や、鉱山。奇妙な石にまつわる物語り。
どれも興味ぶかく、引き込まれてしまいました。今日はぜひそのあたりについて
お話ができたらと思っています。

福井:はい。よろしくお願いします。

しがトコ 亀口:さっそくですが福井さんが鉱物採集に興味を持ったのはいつ頃ですか?

福井:私は生まれは京都なんですが、
小学校のときに、京都に双ヶ丘(ならびがおか)という山があって、そこで水晶を掘ったのが最初かな。

しがトコ 亀口:滋賀はいつ頃に?

福井:仕事の関係で滋賀県に来ましたので、それからもうずっとですね。

鉱物の資料で溢れかえる福井さんのご自宅にて

福井:その後に、化石のほうに興味が移って。
車が運転できる年齢になると、遠くにいけるので鉱山に夢中になってね。

しがトコ 亀口:化石というお話が出ましたが、
滋賀県の伊吹山は化石の宝庫ですよね?

福井:伊吹山は、石灰岩ですからね。

しがトコ 亀口:薬草の山としても有名ですよね。

福井:はいはい、よくご存知ですね。

しがトコ 亀口:じつは、化石の山だとは知らなくて。
鉱物採集が趣味の知人が、SNSで紹介してたのを見て
「化石があるんだ!」と驚いたぐらいで。

滋賀県最高峰の伊吹山(1,377m)は化石の山。
足元に転がる白っぽい石を手に取るとフズリナやウミユリの姿が表面に浮かんでいるものも。
太古の時代にここが海だったということを想像するとスケールのでかさにふらふらする。
伊吹山

参照:Instagram |しゃかいか!-加藤洋

福井:伊吹山は、3億年ぐらい前の海底火山の噴火でできた山ですからね。

しがトコ 亀口:頂上に行けば、3億年前の上を歩くことができるんですね!

福井:はい。伊吹山もそうですが、
滋賀の山は鉱物の種類もけっこう多いですし、よく採れますよ。

しがトコ 亀口:種類もけっこうあるんですね。

福井:そうそう、私が採ってきた鉱物、ご覧になりますか?
えーと、どこだったかな。
「鉱物、ぜひ見てください!」と、勢いよく立ち上がる福井さん

福井:これなんて、小さいけど本当に綺麗ですよ。

しがトコ 亀口:わぁ、水晶ですね!本当に美しいです。
これを山で見つけたら、興奮しますよね(笑)。

福井:水晶は、ものすごく滋賀県は多いです。

しがトコ 亀口:そうなんですか!

福井:花崗岩っていう、さっき言ったように
長石と雲母と石英でできてるような石なんですけど、それがたくさんあるんですね。

しがトコ 亀口:花崗岩がたくさんある、はい。

福井:水晶は、花崗岩地帯から多く採れるんです。

しがトコ 亀口:それは、どのあたりですか?

福井:滋賀県の場合は大津市南部の田上山の周辺にあるのと
比良山の辺りから高島市付近、湖南市岩根付近に広がっていて。

しがトコ 亀口:すごい規模ですね。

福井:湖南市の岩根の辺りもそうですよ。

しがトコ 亀口:そうなんですか!

福井:はい、滋賀県の一番北では長浜市の西浅井町山門にも、また大きな花崗岩地帯があって。

しがトコ 亀口:そこも水晶が採れる?

福井:はい、立派な水晶が出ます。

しがトコ 亀口:それは滋賀県の独特の地形なんですか?

福井:いや、独特といよりも中生代に、そこは火山活動が盛んやったんです。

しがトコ 亀口:火山活動の跡地ですか。

福井:はい。花崗岩は、火成岩というマグマがゆっくり冷えて固まって粒が大きくなった石。

しがトコ 亀口:はい。

福井:だからそこら辺が昔、中生代にものすごく火山活動があって、
上の堆積岩が全部風化でなくなった後に、花崗岩地帯があちこちに出てると思います。

しがトコ 亀口:なるほど。

福井:水晶は田上山が有名ですが、
西浅井の山門とか湖南市の岩根も江戸時代からよく知られています。

しがトコ 亀口:そうなんですか。

福井:信楽なども花崗岩地帯ですがここには、田上山のように大きな晶洞は少ないですね。

晶洞1
独特の輝きを放つ水晶を目の前にして、思わず「きれい!」と声が出る

福井:これが晶洞なんですけどね。
真ん中あたりが、ぽこっと窪んでるでしょ。

しがトコ 亀口:すごいですね!

福井:これは外国のですけどね。

しがトコ 亀口:きれいですね〜。

福井:晶洞の中で、大きい水晶が成長するんですよ。
だから晶洞が多い花崗岩地帯で探すと、大きな水晶が見つかることになります。

しがトコ 亀口:水晶は、晶洞の中で育つんですか。

福井:ええ。田上山に中沢晶洞というのがあって、そこも有名ですよ。

しがトコ 亀口:中沢晶洞?

福井:1974年に中沢和雄さんという方が、
見つけられた晶洞です。その中から8キロぐらいのトパーズが出たんですよ。

しがトコ 亀口:8キロ!?

福井:おっきな晶洞があれば、
中にできる水晶も、8キロぐらいのごっついのができるんです。

しがトコ 亀口:大きい晶洞っていうのは、人が入れるような?

福井:入れる、入れる。

しがトコ 亀口:ええ?巨大な洞窟みたいな?

福井:そうそう。大人が5、6人は入れるぐらいの広さ。

しがトコ 亀口:晶洞は、手のひらぐらいの小さいものから
人が入れる洞窟みたいな、巨大なものまであるんですか!

福井:中沢晶洞は、国内最大規模の大晶洞なんです。

しがトコ 亀口:すごい。

2 電気を持つ水晶から絵の具の石まで

福井:他にも田上ではいろんな水晶が出ますよ。
これは「電気石」という鉱物を含む水晶なんですが。
電気石
それにしても、こんな綺麗な水晶が自然に産まれるなんて不思議

福井:中に、シャープペンシルの芯みたいなのが入ってるでしょ?

しがトコ 亀口:あ、黒い線みたいなのが入ってますね。

福井:これが、電気石入りの水晶。
田上の、ほんの一部のところしか出ないんですよ。

しがトコ 亀口:電気石はどんな鉱物なんですか?

福井:電気を持つんです。摩擦とか熱を与えると、
正と負の電極ができるいうことです。

鉄電気石
この真っ黒な棒状のものが鉄電気石。なんだか迫力があります

福井:これは鉄電気石。ショールといわれる種類です。
もっときれいな色のもあるんですけど。

しがトコ 亀口:わぁ、すごい!

福井:リチウムなんかを含むと、
この黒い部分が、がピンクになったり緑になったりするんですよ。

しがトコ 亀口:色が変わるんですか?

福井:変わる、変わる。
電気石はものすごく色がいろいろあるんです。
例えば「ウォーターメロン」という、
真ん中が赤で外側が緑の電気石もあります。
ものすごくきれいなもんですよ、電気石はね。

しがトコ 亀口:面白いですね。

福井:これは「孔雀石(くじゃくせき)」「藍銅鉱(らんどうこう)」という鉱物なんですが。

緑青
普通の石に紛れていたら探せる自信がありません…

しがトコ 亀口:くじゃくせき??

福井:この緑の部分が「緑青」、青い所が「群青」と呼ばれ、
古くから岩絵の具として使われたんですよ。
明治の初めには、絵の具としても使われていました。

しがトコ 亀口:へえ。

福井:その他にも「緑磐(ローハ)」という鉱石はお歯黒の代用になっていたかもしれない。

しがトコ 亀口:お歯黒ですか!

福井:それとも陶器の釉薬かとか、何か色素として使われてたかもしれない。
その鉱石がどのように人間に役立ってたかを知りたいと思っています。

しがトコ 亀口:そうなると、民族学とか。
もう石の研究とは違ってきますね。

福井:ええ。それで、面白い話があるんですよ。
滋賀県湖南市に「灰山」といわれる所があり、その上部に「金山」といわれる銅山があった。
そこでは銅と一緒に硫化鉄鉱も出ていたんです。
それを原料にした緑磐(ローハ)から赤い染料が作られていたんじゃないかと。

しがトコ 亀口:赤い染料ですか?

福井:そうそう。例えば、近江八幡の名物で「赤こんにゃく」ってあるでしょ?

しがトコ 亀口:はい。赤色のこんにゃくですね。

福井:その着色剤は今は酸化鉄ですが、もし昔に、その石部の灰山で、
銅と一緒に酸化鉄が採れていたら、近江八幡の赤こんにゃくに使われてたかもしれない。

しがトコ 亀口:そんなことがあるんですか?!

福井:調べていたら、酸化鉄を出荷していたという記述を見つけたんです。

しがトコ 亀口:近江八幡に出荷してたとか?

福井:それが、何に使われたかは書いてないんです。

しがトコ 亀口:いやぁ、気になりますね。面白いです。
本当にいろんな鉱物があるんですね。


引き出しの中には無数のコレクションが

しがトコ 亀口:水晶、鉱石、鉱物といろんな呼び方がありますが、
その違いはなんでしょう?

福井:鉱物というのが一番最小単位なんです、石の。

しがトコ 亀口:最小単位、はい。

福井:その鉱物に、石英とか長石とか雲母とか名前が付いてるんです。
それが一番小さい単位で、その小さい石が集まって出来たのが、花崗岩というような岩石になるんです。

しがトコ 亀口:なるほど。

福井:それで鉱石ですが。
鉱石は、基本的に経済活動として採算の合うものやったら、
土でも粘土でも、石でも亜炭でも鉱石になると。

しがトコ 亀口:経済活動、はい。

福井:トパーズとか緑柱石も、
完全に良いものが採れたら「鉱石」と名前を付けてもおかしくない。

しがトコ 亀口:利益が得られる鉱物を、
鉱石というんですね。じゃあ、水晶というのは?

福井:石英の一つです。


見ているだけで吸い込まれそうな美しい水晶

福井:石英の、目に見えるほど大きくなった結晶の一つですね。

3 鉱山へ行くと、何かが起こる?!

しがトコ 亀口:福井さんは、一番印象に残っている山はありますか?

福井:永源寺の奥のほうに、御池鉱山があるんです。
杉峠というのがあって、三重県との境に位置するんですが。
その鉱山に行ったときに、後ろから何かついてきてたんです。

しがトコ 亀口:ええ?どういうことですか。

福井:後ろから本当に子どものような感じなんですけども。
ちょうど峠の手前だったかな。気配が、ものすごいする。でも、そっち見ても何にも見えないんです。
杉峠という峠までの間、後ろから子どもみたいな気配がずっとついてきました。


いたって普通のトーンで不思議なお話をする福井さん

福井:大昔はそこら辺に鉱山が結構あったので、
いろんなことがあって、旅人もたくさん通ってるんで。
まあこんなこともあるのやろうなぁと。

しがトコ 亀口:あるんですか。

福井:はい。そういうのがあちこちに。
鉱山へ行ったら、坑口の中から声みたいなんが聞こえてくるときもあるし。

しがトコ 亀口:そもそもでなんですけど、鉱山は、昔の採掘場ですよね?

福井:そうそう。基本的には、穴を掘って・・・それを「坑道」というのやけど、
穴を掘って行って、採ってるところが多いよね。

しがトコ 亀口:滋賀県だと長浜のほうに、土倉鉱山跡があります。
最近は廃墟とも言われてますけど、ああいう雰囲気の場所に行って、研究されるんですか?

福井:行くこともありますけど、ただ、結構危険なんですよね。

しがトコ 亀口:そうですよね。

福井:危険で狭いんです。抗口の中に水がたまっているところも多いので。
昔は、まず鉱山から石を出して、そのあとに「選鉱場」で要らない石、要る石に分け、
「ズリ」と呼ばれる所に要らない石を捨てたんです。

しがトコ 亀口:「ズリ」という場所ですか。
鉱物コレクション
床にも鉱物のコレクションがずらり

福井:選り分けられた石のうち、
要らない石が捨てられた場所なので、まだまだいろんなものが出てくるんですよ。

しがトコ 亀口:なるほど。

福井:坑口の中に入って探すよりも、
結局はそういう場所で探したほうが、
かえって安全で、見つけやすいんです。

しがトコ 亀口:その、「ズリ」は、県内に結構あるんですか?

福井:はいはい。ズリの位置まで書かれたガイドブックもあるぐらいですよ。

しがトコ 亀口:ええ!ガイドブックまであるんですか。

福井:でも、のっていない鉱山もありますよ。
簡単には見つからないです。抗口には草や木が覆い茂ってるので、
パッと見ただけじゃ分からないものもあります。

しがトコ 亀口:気づかれないままの鉱山もあるんですね。

福井:私も滋賀県産の「輝安鉱(きあんこう)」という鉱物を発見するまで
10年かかりました。

しがトコ 亀口:10年ですか!

福井:それでも幸運な方だと思います。
その鉱山については、もと彦根藩士の杉村次郎という方が
明治頃にその存在を最初に見つけたようです。

しがトコ 亀口:そこまでわかってるんですね!
杉村次郎さんとはどんな方なんですか?

福井:鉱山の専門家ですね。

しがトコ 亀口:専門家ですか。

福井:はい。東近江市の永源寺町政所に
「蓬谷(よもぎたに)鉱山」があるんですよ。そこは明治時代の政商として有名な、
五代友厚が経営してた鉱山です。

しがトコ 亀口:五代友厚が?!政所にそんな鉱山があったんですね。

福井:ええ。その五代友厚の下で副鉱長として働いた人が、
杉村次郎という、元彦根藩士でした。

しがトコ 亀口:時代的には明治期ですよね?

福井:そうです、明治の初め頃。
その杉村次郎さんは、のちに「面谷(おもだに)鉱山」という福井県の鉱山や、
滋賀県下でもいくつもの鉱脈を発見しています。
明治の初期に、ようこんだけ鉱山を調べたなぁという感じです。

しがトコ 亀口:でも、五代友厚の経営する鉱山が、
滋賀県にあったとは驚きました。

福井:五代友厚は明治時代の政商として有名でしたが、
特に鉱山経営には力を入れていたんです。

しがトコ 亀口:なるほど。

福井:ほかにも県内では、現在の甲賀市土山町で
「瀬音平子(せおとひらこ)鉱山」の開発も行っていましたが、
ここは、五代友厚の長女の養子婿である龍作が手がけていました。

しがトコ 亀口:一族で、鉱山経営をしていたんですね。

福井:はい。五代友厚の長女武子も、次女の藍子もそうでした。
一族で鉱山経営をしていたんです。
当時、五代友厚は県令や大久保利通との関係もあったので、
鉱山から採れた銀の量が正しく申告されていたのかどうか・・・。

しがトコ 亀口:ええ?!いまボソッと言いましたね(笑)。
たくさん採れたのに、少なめに申告したとか?

福井:はい。そんな可能性もあるかもしれない。

しがトコ 亀口:鉱山にまつわる裏のストーリーですね。

取材・文 亀口美穂(しがトコ編集長)

■後編記事:石に隠された物語とは? 鉱物採集で半世紀の福井龍幸さんにお話を聞きました

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