カルチャー

テーマは『アラウンド・ザ・レイク』。滋賀の絶景を撮影し続ける別所隆弘さんと話してきました。

新企画「しがトコKorekara」がスタートします!滋賀の“これから”を予感させる、「しがトコ」がいま注目する人物に実際に会いに行ってお話してくる対談企画。滋賀の“オモシロイ”のあれこれを伺います。

【しがトコ Korekara #01】

滋賀の風景を独特の感性で切り取るフォトグラファーの別所隆弘さん。

国内のフォトコンテストのみならず、
2017年には「世界最高峰のフォトコンテスト」といわれる、
ナショナルジオグラフィックの
『Nature photographer of the year 2017』
Aerials部門で、なんと世界2位に選出されました!

メタセコイア並木(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

今や滋賀を、そして日本を飛び出して活躍されている別所さんと、
滋賀に魅せられ、「しがトコ」編集長として
「自慢したくなる滋賀」を発信し続ける亀口美穂。
二人の対談が、大津駅のカフェ『ザ・カレンダー』にて行われました。

別所隆弘さんの感性はどこで育まれ、どこで磨かれたのか?
彼がファインダーを通して見ている滋賀は、
どんな輝きを持ち、どこへ向かっているのか?

あの有名な写真の撮影秘話も聞きながら、
滋賀の過去・現在・未来についてとことん語り合いました。

1 京都と滋賀のあいだで

01別所さんとしがトコの関係は?

別所:「しがトコ」さんとのご縁はいつからでしたかね?あ!パルコの時ですよね。
2013年にパルコでイベントをされてる時に見に行ったんです。素晴らしかったです。

亀口:ありがとうございます。
2013年というと、“飛び出し坊や”で大津パルコをジャックしたイベント
『飛び出し坊やも夏休み』を企画してたときですね。

あのイベントは、滋賀のカルチャーを大津パルコから
発信しよう!っていう意図で、パルコ館内を“飛び出し坊や”だらけにしてました(笑)
「しがトコ」開設したのが2012年なので、1年足らずですね。

別所:イベントの前からも「しがトコ」のコトは知ってましたよ。
でも、「しがトコ」ってパルコでイベントできるくらいすごいんや、って思いました。

亀口:いやいや、そう言って頂けると。。ありがとうございます。

別所:僕、映画が好きで近所だったので、よく大津パルコには通ってたんですよ。
その時、イベントを見に行ったんだと思います。たぶん。

亀口:おうちは、近くなんですか?

別所:すぐそこです。だから、大津駅前のこのあたりは、ウルトラ地元ですね(笑)
僕、高校が膳所高校やったんで、チャリで毎日通っていました。

亀口:そうなんですか!なぜか勝手ながら、京都のイメージがあって、京都育ちなのかと思ってました。

02京都のイメージがあるものの滋賀出身の別所隆弘さん

別所:よく言われます(笑)。母が京都出身なので、親戚はほぼ京都ですが、僕は滋賀育ちです。
ただ、子供の頃は、週末は京都に遊びに行ってましたし、
その後も京都に住んでた時期もありました。
だから、やっぱり写真を撮るときにも、自然と京都っぽくなってしまいますね。
いとこが嵐山のあの有名な竹林の近くに住んでいたので、そこが僕の原風景です。

京都の竹林(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

亀口:わー、すごい。別所さんらしい雰囲気ありますね。
どのくらい京都におられたんですか?

別所:僕は人生の4分の1を京都で過ごしています。
それも、多感な時期って言ったらいいのかな。23歳くらいから33歳位まで。
その京都生活の最後の年にカメラを買ったんです。それから滋賀に戻って来ました。

亀口:カメラを買った理由ってあるんですか?

別所:理由はこれといって無いんですが・・・
よくあるじゃないですか。一眼レフを自慢されて悔しくて、
自分も買ったけど、しょぼい写真しか撮れなかったっていう(笑)

亀口:あー、あるあるですね(笑)
その時は何を撮ってたんですか?

別所:風景を撮ってました。
でも、当時はSNSもないし、今みたいにInstagramに毎日どこかの絶景が
アップされてるなんてことも全然なかった。
だからきれいに写真を撮りたいっていう
動機がなかったんですよね。
適当にスナップなんかを撮ってるうちに飽きてしまって、
カメラは押し入れにほったらかしになりました。
そうですね、2年間ぐらい何も撮っていなかったかな。

2 原点になった一枚の写真

08別所隆弘さんの原点

亀口:カメラを再開することになったきっかけは?

別所:滋賀に帰ってきたときにニコンのD800を買ったことです。

亀口:そのカメラが別所さんの運命を変えたんですね。

別所:そう。これは画素数が3630万画素なんです。
世界がガラッと変わる画期的なカメラやったんです。
それを勢いでボーナスはたいて買っちゃったんですよねぇ。
「これはなんかわからんけど、すごいのにちがいない」と思って。

買ったカメラってすぐ試したくなりますよね?
それで、出かけた帰り道で、湖西道路が渋滞してた時、
「坂本あたりで降りて山の方に行ってみようかなぁ」とふと思ったんですよ。

比叡山の夢見が丘に行って。しょぼい三脚出して撮影しようとしたら、
琵琶湖が真ん中にあって、その周りに大津の夜景でがあって。なんてきれいなんだ!と。

04風景に訴えかけられた別所隆弘さん

亀口:その風景が別所さんに「写真を撮ってよ!」と訴えてきたわけですね。

別所:ほんとに!
バルブ撮影で15秒撮ったら、きらめくような夜景で……。
拡大すると3630万画素やから、大津パルコが映ってるんですよ。
「今までのカメラと全然違う!」と衝撃を受けました。
「よし!明日から写真を撮ろう」ってそこで決意しました。

亀口:なるほど!

別所:あ、そういえば僕、高校の時、授業サボってよく琵琶湖のほとりでギター弾いてたんですよ。

亀口:琵琶湖でギターですか!別所少年、高校生の頃から素敵ですね(笑)

別所:琵琶湖には、人の思いを揺さぶる力がありますよね。
そんなことも思い出しました。

亀口:なんだかわかります。わたしは琵琶湖を眺めていると、詩を書きたくなるんですよね。
仕事がらいつもは説明的な原稿を書いてるんですけど、
琵琶湖を見てると、この風景にぴったりの「言葉を生み出したい」って。

高校生の別所少年さんはギターを手にしていたけど、
それが今は、カメラに変わったんですね。

別所:「僕のルーツは滋賀だ」っていう思いがあふれて来たんですよね。
その時、同時に「琵琶湖の花火をここから撮ったら、絶対きれいやわ」とも強く思って。
だから、あの花火の写真はここから撮ったんです。

亀口:この写真ですね。

別所さんの原点になったびわ湖大花火大会の写真(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

別所:お見せするのは恥ずかしくて気が引けるんですが、これが僕の原点です。
ここからスタートして滋賀を撮り始めました。それが、2012年くらいかな。

亀口:あ、そうなんですか!
「しがトコ」を立ち上げたのも2012年でした。なんだか縁を感じてしまいます。

3 アラウンド・ザ・レイク

05アラウンド・ザ・レイク

亀口:以前に少しお話させてもらった際、
別所さんの写真のテーマは『アラウンド・ザ・レイク』だと伺いましたが、
それは今も変わらずですか?

別所:真面目に写真を撮り始めるようになった当初は、今でいうところの
“インスタ映え”を目指していろんなところで撮ってたんです。そうすると、自分の写真が
ばらけるんですよね。つまり、京都の写真も、滋賀の写真も、その他の写真もあって統一感がない。
何か1つ自分を貫くテーマが要るんじゃないかと。

亀口:それで、『アラウンド・ザ・レイク』のテーマが生まれるわけですね。

琵琶湖大橋(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

別所:自分のアイデンティティーを作ったのは、授業をサボってギターを弾いていた
琵琶湖のほとりだなって。だから、最初『バイ・ザ・レイク』に決めかけたんです。
でも、そうするとほとりだけだから撮影する範囲が限定されるし、自分の首を絞める。

亀口:たしかに(笑)

別所:『アラウンド・ザ・レイク』だったら、琵琶湖の北も含めることができますよね。
長浜とか高島とか。つまり、迷ったときに戻って来られるような大テーマを
設定しておいたほうがいいと考えたんですよね。
2013年から2014年位の時に初めての共同展示会に出展したんですが、
その時に『アラウンド・ザ・レイク』って言うテーマでやりました。
それからずっと『アラウンド・ザ・レイク』です。

06どんな写真を撮っていたんですか?

亀口:そのころはどんな写真を撮っていたんですか。

別所:まず、最初に琵琶湖大橋を撮るのにハマりました。
飽きもせず、同じような写真ばっかり撮ってたんですよ。
湖面を真っ平らに撮るのが好きだったんです。滋賀と言えば琵琶湖やし。

亀口:琵琶湖大橋の次は?

別所:2番目にハマったのは白髭神社です。僕の写真のフォルダの中には
白髭ばっかり150枚ぐらいありますよ。

亀口:琵琶湖にそびえる大鳥居の存在感は神秘的ですよね。
わたしも滋賀に移住して、はじめて見た時は驚きました!
鏡のように輝く琵琶湖にどっしりと鎮座するような、なんとも言えない雰囲気で。

白髭神社は、パワースポットとしてもすごく人気がありますが、
フォトグラファーとしての白髭神社の魅力って何ですか?

別所:それは1日で表情が変わることです。特に朝ですね。
夜明け前から夜明け直後の移り変わりがものすごく激しい場所なんですよ。

目の前には琵琶湖特有の平らな湖面で、その対岸の彦根の街がうっすらとみえて、
中でも、靄がでる日がいいですよ。霧で対岸が見えなくなって、
本当に海に見えますから。すごく写真に広がりがでるんです。

07別所隆弘さんの撮影された写真

亀口:見ていても飽きないですもんね。

別所:そうなんです。あ、僕、去年か一昨年の東京カメラ部に出したメインの写真は
白髭神社の写真なんですよ。

白髭神社(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

亀口:これ、どのくらいの時間帯ですか?

別所:朝ですね。光が入るのを狙っていて思った通りに撮れました。この年の1番好きな写真です。

4 運命の一枚は奇跡の一瞬をとらえた写真

亀口:別所さんの転機になった写真って、ほかにもありますか。

別所:これかなあ。これは実は大雨の日に撮ったんです。

彦根城と桜(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

亀口:え??どうして大雨の日に?

別所:僕はその頃、というか今もですが、人と違うのを撮りたいと強く思っていて……。
普通、写真を撮るならいい天気の日に撮るでしょう?でも、そうじゃない日に撮ろう!
大雨の日って誰も行かへんから、行ってみようと思ったんですよね。

それで行ってみたら、大雨がいきなりやんで、そのあとでサーッと晴れたんです。
この写真はその一瞬を映した一枚です。当時の写真コンテストの締め切り4日前位に撮ったものです。
それで賞をいただきました。実はこの写真がきっかけで
東京カメラ部さんとのお付き合いが続いてるんです。

そして、その後、この年の東京カメラ部10選に選ばれたんです。

亀口:気象状況ばかりは人間の力じゃどうにもできない。
いつ、どのタイミングでその風景と出会ったのか。
それで撮影の良し悪しも全然ちがいますよね。
お天道様を味方にできる人。それって、なんかすごいです(笑)。
別所さんはそういうエピソードが多くないですか?

別所:ワリとありますね(笑)。例えばあの余呉湖の写真も、いってみれば偶然の産物なんです。

「世界よ、これが日本のウユニだ」美しすぎる余呉湖の絶景

亀口:「これが日本のウユニだ」のタイトルで紹介した写真ですね。
ツイッターで1万リツイートを超えて話題になってましたねー。
これって狙って撮ったわけじゃないんですか?

別所:全然。あの日、長浜で市役所の人と長浜の雪の写真を撮ってたんです。
それで「あ、ここからすぐのところに余呉湖がありますよ。ついでに行きましょうか」
ということになってね。もともと余呉湖を撮りたくて行ったわけじゃなかったんです。
そしたら、二度と見られない風景に出会えてしまったというわけで。
「うわー、きれいやなあ」と湖のところまで行こうとしたら、
もう腰から胸の辺りまで雪なんですよ(笑)雪だるまになりながら撮影しました。

09滋賀のウユニ塩湖(余呉湖)

別所:装備も特に持たず、普通のジーパンでびちょびちょになりながらの撮影でした。
この撮影をしてた時、地元のおじいちゃんが散歩してたんですよ。
こんなに雪が積もってるのに。
それで「余呉湖はこういう景色よく見られるんですか」って聞いたら、
「めったにないで」と言われたんです(笑)

5 この男、晴れ男につき!

10この男、晴れ男につき!

亀口:間違いなく別所さんは、お天道様を味方にしてますね(笑)

別所:どうなんでしょうね。以前、三重県に花火の撮影で行ったとき、
雨雲レーダーで見ていたら、3分後に大雨が降るという予報で。
「花火中止かな?どうしよう?」て言ってたんですが、
結局、全然雨が降らなくて!

亀口:じゃ、雨で苦しんだ経験はないってことですか?

別所:1回だけあります。というか、雨は雨で撮れるものが多いので、
それならそれで撮っちゃおうと思うんですね。

亀口:写真って狙って時間かけて撮るもんだと思ってたんですけど……。

別所:逆に狙って行くと、ダメなんですよ。ダメは言い過ぎかもしれないけど、
やっぱり弱いんですよね。その一瞬の奇跡みたいなものが映りこまない気がするんです。

6 人が撮らないような撮り方をしたい 

メタセコイア並木(撮影:別所隆弘)
(撮影:別所隆弘)

亀口:このメタセコイヤの写真でナショナルジオグラフィックの賞を獲られたとのことで。
改めて、おめでとうございます。
撮影は、ドローンを使ってですよね?

別所:はい。

亀口:こんな風景、見たことないです。
こういうアングルで撮ろうというのは、決めておられたんですか?

別所:最近、いい風景の写真を撮ってSNSにアップすると瞬く間に広がるんですよ。
本当に瞬く間。そうすると、みた人は「またこれか。またこれか」と
思って飽きてしまうんですよね。

亀口:そうでしょうね。

別所:そうすると、同じものでも別の視点で撮らないと、何かハッとさせる写真は
撮れないんですよね。だから「メタセコイヤを撮りたい」と思っても、あの紅葉に
あのアングルというのはもう飽きられているわけです。
ならば、別の撮り方で撮ろうと考えたときに、あの絵が浮かんできたというわけです。

亀口:じゃ、撮影前からもう、
頭の中にこのイメージはあったんですか?

11 語る別所隆弘さん

別所:もちろん、そうです。僕の場合、撮りたい絵が頭にあって、
その絵を撮るために、機材を揃えていくという感覚です。
「このカメラを買ったから、何を撮ろう」というのとは順番が違うというか……。

亀口:じゃあ、その撮りたい絵は、どういうときに浮かぶのですか。

別所:たまたまです。例えば、下から空を撮ってるときに
「これ上から撮ったらどうなるんやろ。かっこいいかなぁ?撮ってみよう」
みたいな感じですかね。

おにゅう峠(写真:別所隆弘)

7 手にとれるような写真を撮りたい

亀口:別所さんの写真って色が独特だと思うんですけど、
それは例えばSNSに合わせて加工とかされてるんですか。

別所:そうですね……その媒体によって変えることはありますね。
特に、商品として納品する場合はできるだけ自分の色を出さないようにしています。
自然に撮れたように装いながら納品する場合も実はあります。
自分の作品にする時は自由にやっているかな。

亀口:加工すると嘘っぽくなってしまうこともあると思うんですが、
別所さんの写真はよりリアリティーが強くなってるような気がするんですよね。
どうしてでしょう?

別所:きっと高画素のカメラを使ってるからだと思います。
高画素のカメラで初めて写真を撮った時、手に取るように写真て撮れるんやなぁって思いました。

亀口:手に取るように。

花火の写真
(写真:別所隆弘)

別所:画面の中の被写体が浮かび上がっている気がしたんですよ。
それで感動してその方向性を突き詰めたいと思ったんです。

亀口:そういえば、能面の彫り師の方は、木にもともとある顔を
浮き上がらせるために掘ると聞いたことがあります。
今、別所さんの話を聞いてそんなことを思いました。
風景そのものが持っている魅力を、より浮き上がらせるために加工すると。

別所:ああ、そんな感じかもしれません。高画素のカメラで撮ると、
ただディスプレイ上にあるだけなのに、光の加減とかが繊細で感動したんです。
ぼやかしてるところとカリッとさせるところがあってそこに手が触れられる感覚があって。
そこが強調されるような写真を作ろうと思って現像したりしてきましたね。
でも最近そういう写真もありふれてたし、次はどんな方向性に行こうかなぁと
考えているところなんですけど。

亀口:次から次にまた新たなアイディアが浮かぶというわけですね

別所:そこが面白いところです。いろんな写真のスタイルが流行しますが、
今はそれらはすぐに真似されて、溢れかえって、ありふれたものになって、
独自のものが作れなくなります。
それなら、自分を変えちゃえばいい。あるいは変えずに、もっと深く追求し続けるのもいい。
どんな可能性でも、写真の世界は自由で開かれていると信じてるんです。

8 1枚の写真が人をつなげる 1枚の写真が人を動かす

和やかな対談

亀口:別所さんのSNSのフォロワーってやっぱり若い人が多いんですか。

別所:そうですね。実は、大学の教員っていうのが一応メインの仕事なんで(笑)。
アメリカ文学の研究者なんですよ。だから、普段は大学で英語を教えてます。
TwitterにしてもInstagramにしても学生のフォロワーはいっぱいいます。

亀口:そうなんですね。学生が「カメラ教えて」とか言ってくるんじゃないですか。

別所:めっちゃ言ってきはりますね(笑)だからこそ学生たちに対して悪い影響を
与えるようなことはしたくないと思っています。

亀口:別所さんに憧れを持っている若いカメラマンも多いでしょうね。

別所:うーん、それはどうかわからないけど、僕もそうでしたよ。
うまい人の真似したいと思ってましたから。
最初に東京カメラ部10選の写真をみたとき、「あ、これは道のりは遠いな」って思っていたんです。
選ばれている写真はもうすごい写真ばかりでしたから。
だから3年くらいかけて、ここを目指そうって思っていたのに、そのすぐ後に10選に選ばれて、
「僕みたいな下手くそが、どうしよう。やばい」って震えてました。
震えながらもワクワクしていましたけど。

亀口:選ばれてから変わりましたか。

優しい表情の別所さん

別所:企業さんとか地方自治体の方から
「写真を使わせてほしい」とか「撮ってほしい」とか話をいただきました。
海外の新聞社からも「奈良の写真を撮ってほしい」というオファーが来たり。
僕はもともとSNSのフォロワーもそんなにいなかったんですよ。しかも真面目にやってなかったし。
1週間にいっぺんだけUPするとかInstagramのタグも0でとにかく写真だけあげる
みたいな事やってたんで、何にも拡散しなくて……。
でも、10選に選ばれたてからは、積極的にSNSを活用する用にもなって、
フォロワー数も気がつけば数万規模に膨らんでいました。

亀口:なんというか、写真って「人と人をつなぐ」っていう面もありますよね。

鶏足寺
(写真:別所隆弘)

別所:はい。写真って、それ一枚で人を動かすじゃないですか。たとえば、鶏足寺とか。
最近、急に有名になりましたよね。それも、やっぱり一枚の写真からだと思うんですよね。
写真のいいところは、写真家が一番いいって思っている写真を0.5秒で見られることだと思うんですよ。
動画だと見る時間を確保してもらうのも一苦労です。無名の作者が傑作を作っても、
なかなかその傑作を見る時間を作ってくれないのが動画の大変さだと思うんですよね。
でも、写真なら、それを見たら、全体像をみんな勝手に想像してくれるんですよ。
勝手に想像して、行動してくれるんですよ。

亀口:おっしゃる通りだと思います。写真にしろ、絵画にしろ、小説にしろ、受け取った側が
行動を起こしてくれるっていうことが最終のゴールですもんね。

9 「滋賀の人は写真が上手い!」その理由とは?

白鬚神社
(写真:別所隆弘)

亀口:滋賀県で他にも10選に選ばれている人が結構いるんですよね。

別所:いますよ。今、日本で1番東京カメラ部の10選に選ばれている人が多いのが滋賀なんです。

亀口:やっぱり、そうなんですね。

別所:滋賀の人は写真がうまいってよく言われます。
その理由はアクセスですね。例えば、大津は交通の要衝で京都にも
大阪にもすぐ出られて都市的な写真も撮れるじゃないですか。


(写真:別所隆弘)

そのくせ、北側に行ったら余呉、高島、長浜があって自然も撮れる。ちょっと山にでも
登ろうものなら、誰も入ったことないような大自然もある。おにゅう峠みたいなね。
いわば、手付かずの自然も残ってるわけですよ。東に行ったら三重、四日市があって
工業地帯も撮れるし、被写体が選び放題なんですよ!

笑うふたり

亀口:そういわれてみれば、そうですね。しかも1時間くらいで行けるところばかりですよね。

別所:そう。それに、滋賀県内にも魅力が多いんですよね。夏の花火は、関西でも1番美しい
琵琶湖花火があるでしょう?秋にはメタセコイヤとか鶏足寺があるし、環境に恵まれてます。
だから、滋賀県はもっと写真を推すべきです。

亀口:滋賀って、たとえば湖西のほうでは、季節によっては
ヨーロッパを思わせるような風景も見られたり、かと思えば
「南国のハワイに似てる!」と移り住んでくる方もいたり。
滋賀県の真ん中に琵琶湖があって、その周りを山に囲まれていて、
特徴的な地形だから、東西南北によって気候や風景もほんとに
豊かで、いろんな表情をみせてくれる。
滋賀は、本当に被写体として魅力的な場所ですよね。

10 2018年は原点回帰の年

真剣な眼差し

亀口:ちなみに2018年はどんな年にしていきたいですか。

別所:原点に帰りたいですね。最初は比叡山の山頂からカメラライフがスタートしたんですが、
今ではどんどん撮る対象が広がり、欲張ってガンガン撮ってきたんですよね。
でも、今年はできるだけ滋賀と琵琶湖周りにこだわって撮っていきたいと思っています。


(写真:別所隆弘)

琵琶湖は琵琶湖単体で撮ることが非常に難しい被写体なんですよ。平たいですから。
写真は立体感がないと写真しづらいんです。
だから、何かを被写体の中心にした上で琵琶湖を撮ることになる。
漁業するための杭とか、船とか、琵琶湖の中でも絵になるようなワンポイントを
入れながらいろんなところを撮っていきたいと思っています。

亀口:じつはしがトコでやりたいことのひとつに
「琵琶湖と言えば絶景だよね」って言われるような世界観を作りたいというのがあるんです。
お店を紹介するにしても、琵琶湖が見える風景を生かしているとか、雄大なロケーションであるとか。
例えば国内の絶景を考えた時に静岡と言えば『富士山』、
北海道と言えば富良野の『ラベンター畑』とか、みんながイメージする絵があるわけです。
でも、琵琶湖の場合、それが弱いような気がしていました。
時間や季節、エリアによってまったく違う琵琶湖の表情と、繊細な色彩の世界。
滋賀の真ん中に巨大なアート作品があるような美しさがありますよね。

笑顔の別所さん
別所:そういえば、近江八幡にシャーレ水が浜っていうカフェがあるでしょう。
昔、あそこで太陽が琵琶湖に落ちていくのをコーヒーを飲みながら見ていました。
「あー、写真がうまく撮れたら、最高に綺麗やろうなぁ」とか思ってたんですよね。
カメラ始めるずっと前です。そう思う位に琵琶湖って綺麗なんですよね。
なぜ滋賀で育った自分がそれを知らなかったんだろうって思います。

亀口:なぜ知らなかったんでしょうね?

別所:それは真ん中に琵琶湖があることで、滋賀が分断されてるからだと思います。
北の人は北に、南の人は南に、東西南北で分かれているような気がします。
そして、みんな大体京都に行ってしまうので、文化圏が京都になってしまう。
それは悔しいことですよね。だから、滋賀人が滋賀を再発見していく流れを
つくれたらいいんじゃないかなと思います。

亀口:それは欠点でもあり長所でもあるように思えますね。滋賀は、それぞれに違うところがいい。

別所:方言と言うか、話し方からして違いますよね。何もかも違います。
それはおもしろいところです。冬なんか、大津は快晴やのに、長浜まで行ったら大雪とか(笑)

亀口:あるある(笑)

対談最後

別所:それから、若い人で写真取るのが好きな人達の応援もしたいんです。
すごくうまいのに、拡散する力がないような若い写真家のために、RTやシェアを使って、
いろんな人に見て頂けるような、そういうこともしていきたいと思ってます。
つまり、裏方というか、写真をいろんな人に見てもらえるような場所を作っていくほうの
人間になりたいんです。
僕ももう40歳なんで30歳とか20歳とか次の世代が活躍するときの素地を作っていきたいんです。
いろんなところに出させてもらったし、いろんな写真も撮らせて頂きましたし。
今までは外向きの写真を撮っていたけど、これからはもっと内向きの写真を撮っていきたいんです。

亀口:それって別所さん自体がメディアになるってことですよね。
しがトコも一緒に何かやらせていただけたら、おもしろいものができそうな気がします。

別所:そうですね。ぜひよろしくお願いいたします。

亀口:こちらこそ!

ただいま東京の渋谷ヒカリエにて2018年5月5日(土)まで「東京カメラ部2018写真展 in Hikarie」を開催中。別所隆弘さんの写真が展示されています!5月3日~5日は別所さんも在廊していますので、直接会ってお話できるチャンスです。ご興味のあるかたは、この機会にぜひ足を運んでみてくださいね。

【東京カメラ部2018写真展 in Hikarie】
開催期間:2018/4/26(木)~2018/5/5(土)
時間:午前11時~午後8時
会場:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ
   9階「ヒカリエホールB」、8階「8/CUBE」
入場:無料、予約不要

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