カルチャー

パリコレにも採用された“アウトサイダー・アート”の発信地 世界に注目される『やまなみ工房』

【やまなみ工房/滋賀県甲賀市】

誰にも強要されず、ただ気持ちが向かうままに紙を塗りつぶす。
はなうたを歌い、時には床に寝そべりながら動かされる手元から
次々とダイナミックな作品が生まれていく。
滋賀県甲賀市にある「やまなみ工房」は、
美術の教育を受けていない、障害のある人達による
“アウトサイダー・アート”の発信地です。
洋服にプリントされ、パリコレにも出展された
数々のアート作品が生み出される現場を訪ねました。

型にはまらず自分を表現するアーティスト達

やまなみ工房では、86名の方が日々作品を制作されています。
担当スタッフの方に案内してもらい、制作の様子を取材しました。

部屋の隅で、小さく丸めた粘土を作品に敷き詰めていくのは鎌江一美さん。

施設長の山下完和(まさと)さんのことが大好きで、
作品のモデルは全部「まさとさん」。

私とまさとさん

作品には、まさとさんとの思い出や「まさとさんとこんなことがしたいな」
という思いが表れています。ちなみに、写真の作品名は
『蔵王エコーラインをドライブしている私とまさとさん』。

海外のアート市場では1体が数十万円で取引される鎌江さんの作品ですが、
本人はそんなことには一切興味がなく、ただまさとさんから
「今日も一美ちゃん頑張ってるね」と言われることが嬉しくて、作品を作り続けています。
(作品にもなった施設長のまさとさんは、記事の後半のインタビューに登場します!)

個室にこもって好きな音楽を聴きながら絵を描くのは岡元俊雄さん。

岡元俊雄さん

墨汁と割り箸だけを使って寝転びながら描くのが、
15年間変わらない岡元さんのスタイルです。

岡元俊雄さん作品

力強く躍動感のある作品は、
洋服のデザインにも採用されました。

そして、粘土でできた人形がずらりと並ぶ一角が。

正己地蔵

山際正己さんが作る「正己地蔵」です。
施設のみんなが給食を食べに行っている間や、
部屋に人が誰もいなくなった空間でしか作らないという作品は
すでに5万体を超えるといわれます。

紙の上だけにとどまらず、建物の壁にまで溢れ出したたくさんのキャラクター達。

鵜飼結一朗さん外壁

鵜飼結一朗さんの作品です。
これまで見てきたものや描いたものをどんどん記憶し、
それらを思いつくまま重ねて描いていくそうです。
まるでどこかを目指し、進んでいるようにも見える集団の中には
トトロがいたり日本昔話の龍がいたり、ポケモンやアンパンマンが混じっていたり。
雨などによる劣化が気になるようで、剥げてしまった部分は
ブラシで削って描き直すほどのこだわりようです。

鵜飼結一朗さん

この日は熱心に図鑑の絵を描き写していました。

流行に敏感で、お気に入りの映画や芸能人をモチーフに
刺繍をするのが好きな清水千秋さん。

「ジョーズ」「ブルゾンちえみ」など、まるで絵に色を塗るように
色鮮やかな糸が緻密に縫い込まれています。

清水千秋さんと香取慎吾

こちらは東京の展覧会に出展した時に、大好きな香取慎吾さんから
「僕のことも縫ってよ」とリクエストされて作ったもの。
いつか再会して本人にプレゼントするのが清水さんの夢です。

施設で最年長の井上優さん。

縦152センチ、横2メートルの紙に驚くほどのスピードでお城が描かれていきます。
使うのは10Bの鉛筆のみ。

鉛筆削り

鉛筆削りは使わず、カッターで丁寧に削るのが井上さん流です。

現在75歳の井上さんが絵を描き始めたのは、70歳になる頃から。
それまでは敷地内にあるカフェで勤務されていました。

井上優さん作品

来週には香港でのライブペインティングに呼ばれていて、
初めての海外がすごく楽しみだそうです。

訓練をする施設から、自分を表現できる場所へ

制作現場を案内していただいた後、
施設長の山下完和さんにお話をうかがいました。

福祉施設のイメージからかけ離れたロックな風貌の山下さん。
やまなみ工房で働くようになったのは、
友人に忘れ物を届けに来たのがきっかけだったそうです。

「今から30年ほど前、友人に届け物を頼まれて訪れた先がやまなみ工房でした。
当時僕は三重県でバーテンダーをしていて、福祉施設がどんな所かもまったく知らない。
ガラガラっと戸を開けると、障害のある人たちが集まってきて歓迎をしてくれました。
当時のことですから、『ジュリーだ!』とか言ってね。
モテていると勘違いした僕は『そんなに歓迎してくれるなら、居てあげてもいいぞ』と
少し上から目線でここに出入りするようになって、いつの間にかスタッフになっていました」

昔の写真

「これが当時から今までの写真ですが、
当時施設がやっていた活動は、1つ1円にも満たない内職でした。
『今日は1個できたね、次は頑張って10個できるようになろうね』
と言いながら僕自身、彼らはかわいそうな人達だから、
訓練して社会に適合できるように助けてあげないと、と思っていました。

でもある時、1人の男性が床に落ちていた紙切れを拾って
とても楽しそうに落書きを始めたんです。
これまで見たことのないような、とても彼らしい笑顔で。
それを見た時、僕が頑張れ頑張れと言いながら彼らにさせていることは、
彼らが本当に求めていることなんだろうか?と考えたんです。
例え落書きであっても、こんなに楽しそうに自分から向かえるものがあるのなら、
もっと他にもやりたいことはあるんじゃないか、と。
シンプルに言えば、彼ら自身がやりたいように生きて、
笑顔で満たされる日常にしないと失礼だと思うようになったんです」

8000個を超える即席麺

「例えばやまなみ工房には、即席麺の袋を1日中ずっと手に持って見つめている人がいます。
銘柄はいつも“サッポロ一番しょうゆ味”」

毎日、日が変わると新しいものを持ってやまなみに来る。
彼女はこれを20年以上ずっと続けています。
落ち着いている日は中のラーメンも原型をとどめているけれど、
イライラした日は中身が粉々になっています。
サッポロ一番は彼女にとって、安心を与え、怒りの矛先にもなる
とても意味のあるものなのでしょう。
それなら僕たちは、それが続けられる環境を作ります。

古くなったラーメンは自宅で破棄されていたそうですが、
今はこちらで日付を書いて保管しています。

彼らがそれぞれの方法で表現する自分らしさ。
その結果できたものがたまたま『アート』と呼ばれて展覧会に出ていますが、
彼ら自身はアーティストを自称することもないし、
作品を作るつもりで机に向かっているわけでもないでしょう。
よく『この作品はどんな意味があるのですか?』と聞かれることがありますが、
そもそも意味すら必要ないのかな、と思います。
彼らが望むことをして楽しい1日を過ごせること。それが一番です」

何をもって“障害”と呼ぶのか

「現在、やまなみ工房には年間約3000人もの人が訪れています。
30年前は障害者施設に遊びに来る人なんていませんでした。
それがこうして彼らの生きざまを発信するうちに
作品が『DISTORTION3』というブランドで洋服になり、
地蔵とリビドー』という映画になり、
今ではカップルがデートに選んでやって来ます。不思議ですよね。

写真集

この写真集の表紙になっているのは、さっき寝転んで絵を描いていた彼です。
ここに来る子ども達に見せて「誰だと思う?」と聞くと「モデルさん!」と返ってくる。
「モデルさんじゃなくてアーティストなんだよ」「何をしているの?」
「絵描きさんだよ」「どんな絵を描くの?」「こんな絵だよ」
そんなやり取りをして彼の絵を見せると、子ども達は目を丸くして
「こんなお兄さんになりたい!」と言います。
「でも実はこのお兄さん、足し算が苦手でね」と言っても
「そんなのどうでもいいよ!」と。

施設長山下さんアップ

僕にも彼らにも、一人ずつそれぞれの人格があって、
その中で苦手なことがあるのはみんな同じです。
僕は計算ができる、彼らにはできない。
僕は嘘をつく、彼らは嘘をつかない。
何をもって“障害”と呼んでいるんだろうと思いますね」

新たなつながりを求めて。有名ミュージシャンのライブも開催中!

やまなみ工房外観

福祉施設という壁を取り払って、もっとたくさんの人に来てほしい。
そんな思いから2017年にオープンしたのが、
ライヴハウス「Ban Boo Bon(バン ブー ボン)」です。

オファー先の基準は、スタッフや利用者、家族が選んだ「誰かの会いたい人」。
これまでにも、押尾コータロー、向井秀徳、佐藤竹善などあらゆるジャンルの
アーティストによるライブが開催されました。
もちろん一般からの参加も可能で、スケジュールやチケット情報は
随時こちらで更新されています。

また、2019年秋には敷地内に新しく「アートセンターやまなみ」が完成予定。
1階はやまなみ工房のアーティストによるアートライブを見ながら食事やお酒が楽しめるカフェ、
2〜3階はアーティスト達のアトリエ、4階は様々なイベントやワークショップが行われる
フリースペースになるそうで、やまなみ工房のこれからがますます楽しみです。

好きなものは胸を張って好きと言い、嫌いなものにはそっぽを向く。
何にも似ていない彼ら自身のように自由で、
力強い生命力を感じさせてくれる作品は、どれも最高にかっこいい。

お互いが見えなくなるまで見送られながら帰路につく頃には、
世界が少し違って見える気がしました。
この場所を知って、生み出されたものを見て、
彼らの生きざまに圧倒されてみてはいかがでしょうか。

(文:林由佳里 /写真:辻村耕司 /企画 編集:しがトコ編集部 亀口美穂)

『やまなみ工房』を地図でみる

新名神甲南ICより5分

やまなみ工房

→大きい地図で見る

「やまなみ工房」のデータ

住所
〒520-3321  滋賀県甲賀市甲南町葛木872番地(ハートヘルスパーク甲南内) 
→地図
電話番号
0748-86-0334
入場料
無料(作業風景の見学は見学料・資料代として1人500円)
開館時間
10:00~17:00(見学は10:30~15:00)
休館日
土日祝祭日(その他夏期休暇、年末年始休暇あり。月1回土曜日の開館あり。日程はやまなみ工房にご確認ください)
公式サイト
http://a-yamanami.jp
フェイスブックページ
https://www.facebook.com/atelieryamanami/

編集後記

集合写真
取材の最後に、スタッフのみなさんに集まっていただき、
施設内に併設されたギャラリーで撮影した一枚。
みなさんが着ている洋服のプリントは、利用者さんの作品で、
フランスのパリコレクションにも採用されました。
せっかくなので「カッコよく撮りましょうか!」という編集部からの注文で、
みなさん”よそゆき顔”で、クールな雰囲気を演じてくれていますが、
じつは、本来はクールじゃなくて、ありのまま。
笑顔いっぱいの、人間味溢れるスタッフのみなさんなのです。

施設を利用する一人ひとりの生き様と向きあい、
生命力に溢れる個性を”ちょうど良いあんばい”で丁寧にサポートする。
そんな姿勢を貫くスタッフのみなさんは、
温かくありながらも、ちょっとやそっとじゃ動じない。骨太なカッコよさがありました。

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