Interview

びわ湖の中から見上げる世界。素潜りカメラマンにインタビュー

【びわ湖の中から見上げる世界】

宇宙に漂っているような不思議な写真。
じつはこれびわ湖に潜って見上げた景色でした。

ある日、Instagramで偶然みかけた
宇宙のようなびわ湖の世界。

誰がどうやって撮っているのか?
素朴な疑問を胸に、”潜りカメラマン”こと
伊藤哲也さんにお話を聞いてきました!

無音の世界で見えるもの

びわ湖の魚
まずは伊藤さんのInstagramアカウントから、
びわ湖に潜って見える世界をご紹介します。

藻

水中にゆらゆらと揺れる水草を見上げて。
普段ではみることのできない、すこし不思議な世界です。

泡

吐き出す空気が泡になって消えていく。
水中から見上げる空と泡を、太陽の光が照らします。

浮かぶビニール
クラゲのように漂うのはビニール袋。
潜って目にするのは、当然、生き物だけではありません。

潜って見える景色を追い求めて

浮きながら撮影
「NIKONOS」という古い水中カメラに出会ったことがきっかけで、
水中写真を撮るようになった伊藤さん。
「この写真、びわ湖に浮きながら撮っているんですよ」。

自分も、びわ湖も、水中では常に揺れているから、
ピントを合わせるのがとくに難しいと話します。
フィルムで撮影するため、一度の撮影でシャッターが押せる回数にも限度が。
「だから、シャッターを押すことに責任を持つというか。
びわ湖に2時間ほど潜って、
狙いを定めてシャッターを切る。
押したものは、写真に残すことを大切にしています」。

この写真は、深さ3メートルほどのびわ湖に、
2メートルの藻がたくさん生えている様子。

「石を持って潜っていくんですよ。真上を向いて石をお腹に置いて。
底にベターッと引っ付いて上向きで撮っています」。

潜れば潜るほど、暗くなっていく視界。
そんな水中では、空から降り注ぐ太陽の光が
とても大切な存在になります。
「僕が潜るのは晴れの日だけ。
太陽が真上にある正午と決めているんです」。

「水面がじゃまをする」見えざる浮遊物

浮かぶペットボトル

「水を飲むために買った水の容器を、水に捨てる。
なんだか、ジョークのように思いませんか?」。
そういって苦笑いする伊藤さん。

びわ湖に潜っていると、
どうしても出会ってしまうのがさまざまなゴミ。
景色として眺めているだけではみえない世界ですが、
水中に視点を移してみれば、ルアーやワーム、針に糸……。
釣り具のゴミが驚くほどたくさん。

「やっぱり、水面がじゃましていると思うんです。
外からは中の様子が見えないでしょ?」。

びわ湖の中のゴミ

もともとゴミ拾い活動に対しては消極的だったと言いますが、
実際にびわ湖に潜りはじめてからは、拾わずにはいられなくなったのだとか。
「もう、けっこう中はすごいですよ」。
びわ湖の風景を、外から眺めているだけではわからない。
水面より下にはきれいも、汚いも、同時に存在しています。

何もない水中に”潜入”し、世界を切り拓く

伊藤さん01

こちらが“潜りカメラマン”こと、伊藤哲也さん。
幼少期から水泳を始めて、泳ぐのも潜ることも昔から大好き。
「僕がびわ湖に潜っているのは、滋賀県民だから」と笑います。
滋賀県大津市・膳所(ぜぜ)で生まれ育ち、昔は両親に連れられて
毎年、同市の近江舞子へ泳ぎに行っていたそう。

「奥さんとも結婚する前からずっと。びわ湖で泳ぐなら近江舞子に。
ハタチかそこらの時には、みんな舞子に行くじゃないですか。
水がきれいなんで、その当時からよく潜ってましたよ」。

普段は京都の老舗のスタジオで、家族写真を撮影して15年。
仕事ではスタジオ勤務、プライベートではサーフィンの撮影や、
びわ湖の“潜りカメラマン”としての活動も。

「”潜り”ってウソつきとか色んな悪い意味もあったりするでしょ?
僕はよく友達に潜りモグリって言われてたんで」。
それが面白くて、と笑う伊藤さんですが、
“潜りカメラマン”と銘打ったのには、もうひとつ別の理由もありました。

カメラを持つ伊藤さん

「びわ湖って本当に何もないんですよ。きれいな魚も泳いでないし、珊瑚礁もない。
このカメラ日本製なんですが、スキューバで使ってる人はすごく多いんです」。

じゃあ、なぜ何もないびわ湖に潜ろうと思ったのですか?
そう問いかけると「何もないから」と、禅問答のような答えが。

話す伊藤さん
「僕の中で、潜ることは”潜入”とか”攻める”という意味合いもあって。
撮りたい被写体もない、何もない水中で、どんな写真を撮る?
そんなことを自分に問いながら潜っています」。

例えば沖縄や伊豆ならスキューバーダイビングは人気アクティビティのひとつ。
潜ればそこに色とりどりの魚が泳いでいるし、きっと絶景も待っているはず。
びわ湖は、何もないからこそ自分自身の想像を膨らませないと意味がない。

びわ湖の冊子

「僕ね、びわ湖に潜って撮った写真で、こういうのを作るのが好きで。
真ん中の冊子はボトムフィッシュっていう、びわ湖の底の魚を集めたもので。
その下にあるのは”HAPPY BIWAKO”というタイトルをつけてます。
昔、膳所(ぜぜ)に『ハッピー琵琶湖』っていうスーパーがあったんですよ。
小さい頃に初めておつかいに行ったスーパーなんですけどね」。

滋賀県ってやっぱりハッピーなことが多いですよ。
水中にゴミはあるけどきれいだし。と、
ひとりごとのようにつぶやく伊藤さんに、
潜り続けた先に何がみえるのか?と、
すこし難しい質問を、最後にひとつ。

人間の領域ではない「別世界」と、日常を行き来する

びわ湖の魚

「最終的にどうなりたいって言われると、わからないです。
でも、マラソンしてる人と一緒かな?小さい頃から泳ぐのが好きで、
たまたまそこにびわ湖があって。潜っていないことが続くと
“びわ湖に行きたい!行きたい!”って。もう中毒ですよ(笑)」。

外からは見えない世界だからこそ、水中へドボンと潜って
はじめて見えることばかりだと話す伊藤さん。

「水中は人間の領域じゃないし、潜るとそこは別世界です。
素潜りで動き回れば体力の消耗も激しいし、
水中に長い時間潜っていると感じても、
実際は1分も経っていなかったりします」

でも、潜ったあとは格別にすっきりするのだとか。
自然を相手にしているからこその清々しさ!
「水に潜ったあとに布団に潜るっていう……。
ちょっとしたダジャレをね、水中で考えたりするんですけど」。


びわ湖の中は何もないからこそ、みずからの想像力でどんな風にも撮影できる。
びわ湖の中から見上げた湖面に浮かぶブイさえも、
伊藤さんの手にかかれば、まるで宇宙のようにも見えてしまう。
潜ることは未知と日常を行き来すること。
水中の見えないものを、見える世界に浮上させるように、
水中カメラで撮影したさまざまな”びわ湖の宇宙”は
今日も伊藤さんのInstagramで投稿されています。

>>Instagramアカウントはこちら
https://www.instagram.com/moguri_film/

(取材・文:亀口美穂 写真:山本陽子 取材場所協力:ハンタイム サイクルストア)

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