Interview

なぜ私たちは茂木健一郎さんと京都の街を走ったか?!

【茂木健一郎さんと過ごした60分】

どうして私たちは茂木健一郎さんと走っているのか?

「ついてきてる?大丈夫〜?」

呼びかけもむなしく、どんどん距離が離れていく。

それにしても、茂木さんの走るフォームが想像より美しい気がする。
何かに似て····あ、まるでウサギのような躍動感か!

走る茂木さん

「たいへんだぞ〜!急がないと遅れちゃう!」

『不思議の国のアリス』に登場する白ウサギは、いつも急いでいたけれど。
あれ?もしかして茂木さんって白ウサギみたいなもの?!

芋づる式に出てくる、支離滅裂な雑念とともに、
私たちは京都の街を、走っていた。

それで、なぜ茂木健一郎さんと走ることになったのか。

1 10年前のメールが届いた日

茂木さんインタビュー01
10年ほど前。私は大阪でフリーライターをしていて、
30歳までに東京で仕事したいなぁとぼんやり思っていた。
それで東京へ行って、雑誌の編集者として潜り込んだはいいけれど、
毎日、終電か、終電を逃してタクシーで帰る日々だった。

朝は満員電車に押し込まれ、どこへ行っても人の渦。
階段、ビル、壁、電車、ありとあらゆるところに広告が溢れ、
誰かの思惑がビュンビュン飛び交っていた。

情報の渦の中で息苦しくなるたびに、
「早く帰って茂木さんのブログを読まなければ」と思っていた。
星や月や自然そのものを眺めて、遠くの時間を想像する。
そんな感覚にも似たものが、その文章には詰まっていたからだと思う。

そして30歳、人生の節目の中でよくあるように、これからの生き方を悩んでいた。

茂木さんインタビュー02

東京でこのまま生きていくのか。それとも自分の無力を認めて大阪に戻るのか?
悩みすぎたあげく、なにを思ったのか、これはもう茂木さんしかいないと、
長文の決意表明のメッセージを送ったのだった。

読まれなくてもいい、返事がなくてもいい、
この決意を届ける相手が欲しかった……。
いま考えてみれば迷惑そのもので。
でも、当時は大真面目だからなおさらたちが悪い。

こんなメール、スルーされておしまいか。
そんなことを考えながら送信ボタンを押したような気がする。
「いつか、一緒にお仕事できるといいですね」
予期せず、それからすぐ返信があって、
迷走しやすい自分の日々に、うっすらと軸ができたような気がした。

それから10年後、私は京都で茂木さんと会うことになった。

2 待ち合わせの喫茶店は工事中

イノダコーヒー

10年たった40歳の私は、同じように人生を悩んでいて(悩みすぎ)
気づけば茂木さんに人生2回目のメールを送っていた(送りすぎ…!)。
が、幸運なことに、ちょうど茂木さんが京都で講演会を行うというので、
なんと、そのタイミングに合わせて取材できることに。

ついに「インタビューできる!」と喜んだものの、
ものすごく緊張していた。茂木さんといえば「クオリア(感覚の質感)」を
キーワードに意識を探究していて、かたや私は滋賀のローカルメディアの編集者。

あぁ、こんな私で大丈夫なのかと考えていた目の前に、
大人たちに混ざって働く学生インターン生の眩しい姿があった。

「若い→吸収力→未来」という単純な連想を念仏のように唱えながら
「茂木さんのインタビューに行くんやけど、一緒にいく〜?」と、
ちょっとイキッた顔で3人の学生を誘っていたのだった。

工事中の喫茶店

「その日12時に、イノダコーヒー本店の
庭の方の、席の一番奥のところで待ち合わせとかどうでしょう?」

····えーー!!改修工事中やーん!

取材当日、茂木さんから指定された待ち合わせ場所に
「着いたー!」と思ったらなんと工事中。

どうやら昨日まで通常営業だったものの、
本日から工事が始まったと貼り紙が。

チョコレートカフェ
こうなったらどこでもいい。すぐ近くの店で、
なるべく目立たない場所を探してうろうろするも、
お昼12時の京都は、どこも人でいっぱい!
でも、なんとか空いてる席を見つけることができました。

3 はじまりのおしゃべり

茂木さんを囲む

そんなドタバタをすぎて、無事に合流!赤い服がわたし、亀口。
ほか3名が学生のみなさん。インタビューというより、
みんなで茂木さんを囲む会という雰囲気の中で取材が始まりました。

(それにしても、茂木さんと会えて緊張するかと思ったら、
あまりに自然体すぎて前から知り合いだったっけ?と錯覚するぐらい。
無色のオーラに包まれていて、逆にすごさを感じつつ……)。

しがトコ亀口:今回は、お時間をいただきましてありがとうございます。

茂木:いえいえ。みんな今日は滋賀からなんだ。

しがトコ亀口:そうですそうです。茂木さんは、滋賀にはよく来られますか?

茂木:行くことありますよ。われわれの、クラシック好きの中で有名なのは、滋賀といえば、やっぱり『びわ湖ホール』かな。

しがトコ亀口:琵琶湖が目の前の!良いとこですよね、びわ湖ホール。

茂木:あそこは素晴らしいとまわりの皆さん、おっしゃいますよ。

しがトコ亀口:建物の周りには何もないんですけどね。

茂木:うん。それがまたいいよ。よくあそこの周り、走ってますよ。仕事で来たとき。

しがトコ亀口:ランニングで?

茂木:ああ、この体型で一応、走るんです。

しがトコ亀口:ずっとランニングされてるんですか。

茂木:そうです。走れる奇跡のでぶと言われてます。

しがトコ亀口:奇跡のでっっ····(笑)。

茂木:今日もだから京都駅から歩いてきたんですよ。

しがトコ亀口:そうなんですか!

茂木:ごくごく普通です。

しがトコ亀口:ここまでけっこう距離ありますよね?

茂木:Google先生によると40分だったけど、まあ30分ちょっとで。ちょうど待ち合わせ場所に着いたんだけど。

しがトコ亀口:今日から改修工事という(笑)。

茂木:でも外が寒かったから。おそらく庭の席だったら、みんな「ううう、このバカが、なんでこんな寒いときに!」ってなってたんじゃないですか。うん。それで、今日はなんのお話でしたっけ?

しがトコ亀口:っあ、えーとですね、あの、私が10年前に決意表明のメールを茂木さんに送って、返信をいただいて。それがささえにもなってまして……。

茂木:あーー!これって琵琶湖なんだー!

しがトコカレンダー

「ちがいます、ちがいます、それ琵琶湖じゃなくて、水田の水鏡ですよ!」という言葉もむなしく、インタビュー前の雑談でプレゼントした『滋賀を自慢したくなるカレンダー』を持って、カメラ目線の茂木さん。

しがトコ亀口:あっ、えーと、もうちょっとだけ、はなし聞いてもらっても……良いですかね?

茂木:あ、聞くよ聞くよ!ハイ、すいません (笑)。

しがトコ亀口:いま滋賀で暮らすようになって、とても風景がきれいで、遠くを見つめることが増えたんですが……。

カメラ目線の茂木さん

茂木:うんうん
(うなずきながらもカメラ目線で、さっきプレゼントしたばかりの滋賀の名物看板「飛び出し坊や」のイラストが描かれたノートを宣伝してくれる茂木さん)

しがトコ亀口:ちょっ、もうちょっとで話が終わるので……あと少し、じっと待ってもらっていいですか?(笑)。

茂木:あ!ごめんごめん。はい、続けてください。

しがトコ亀口:それで……滋賀はとても風景がきれいで、遠くを見つめることが増えたんですが、SNSでは日常の情報、距離が近い情報がつねにタイムラインに流れてきますよね?

茂木:はい。

しがトコ亀口:気を抜いていると、いつでも情報が入ってくる。だからこそ「遠くを見つめる視点」は、これからもっと大切になってくるんじゃないかと。

茂木:あ!!遠くをみつめる視点なんだ!メールもらってたこと忘れてた!ごめんごめん。

しがトコ亀口:そうなんです「遠くをみつめる視点」についての質問で。自然をみているときと、SNSの近い情報をみているときとで、脳のなかでどうなってるんだろうかと。

4 変わるのびしろは「遠くをみること」

遠くをみる茂木さん

茂木:あの、人類は移住しつづけて、南アメリカの先端までたどり着いたわけで。人間の本能として、遠くに行くってことがあって。いまイーロン・マスクが火星に行こうとしてるじゃないですか。彼がTEDでしゃべっていたのを聞いてたら、そういうことを考えないと、日常が耐えられないと言うんだな。

しがトコ亀口:はい。

茂木:火星に行くってことを考えなきゃ。でも、そういう人がいるから、人類は発展してきたから。アフリカからわざわざ移動していったり、火星に行こうとする。だから、「果てをみつめる」って人間の本能じゃないのかな。

しがトコ亀口:本能ですか!

茂木:そこが、普通の動物と違って、ちょっと脳のタガがはずれちゃってる気がするんですけど。

しがトコ亀口:脳のタガがはずれる?

茂木:そうだなー。たとえば、僕、地方に良く行くんです。まあ、滋賀もそうですけど。滋賀は地方って言っていいのかな(笑)ま、地方に行くと「こっから出たい!」て人が意外と多いんだよね。若い学生としゃべっていると。

カメラマン:私もまさにそうでした!(と、撮影しながら飛び入り参加のカメラマン)

茂木:どこ?

カメラマン:滋賀県甲賀出身で。

茂木:出たかったの?

カメラマン:もう出たくて。それで、東京の大学に行って。親が体が悪くなったので滋賀に帰ってきたんです。

茂木:あら、お帰りなさい。

カメラマン:ただいまです(笑)。

茂木:えーと、なんだっけ。要するに、前頭葉の想像する回路のことで。「こんなことがあったらいいな」とか「こうなったらいいな」とか、想像することで新しい展開を……(ここで、注文していたランチが運ばれてくる)

料理を撮る茂木さん

「わー!カレーの上にかかってるのがスパーイシーカカオ?おいしそ〜」ときゃっきゃっしながらスマホで撮る茂木さんです。

茂木:えーなんだっけ……。

しがトコ亀口:前頭葉のお話でした。

茂木:前頭葉の、未来を予測する回路が、結局いまと違う未来というのを予想するんですよ。

しがトコ亀口:いまと違う未来を?

茂木:例えば“The End of History Illusion.”てのがあって。『歴史の終わり幻想』というんだけど。世界が終わるという意味じゃなくて。自分のこれからの人生は、あまり変わらないと感じることを『歴史の終わり幻想』っていうんですよ。

しがトコ亀口:人生は変わらないと感じる?

茂木:実際には、変わるわけ。例えば子どもの頃から考えると、学生の今の自分はすごく変わったと思うでしょ?でも、学生から後はある程度できあがってるから、その自分が社会に出て、働くと思うかもしれない。でも、実際にはできあがっていないし、すごく変わる。

しがトコ亀口:学生の頃には、ある程度できあがった自分だと思ってました。

茂木:人間は変わらないと思ってても、じつはよく考えると変わってて。その変わるのびしろが「どれぐらい遠くをみているか」なんです。

しがトコ亀口:変わるのびしろが、遠くをみること。

茂木:でも、それは人によって、違うんですけどね。

しがトコ亀口:人によって?

茂木:やっぱり「変われる」と思ってる人のほうが、のびしろが大きいし、すこやかに、幸せに生きられる。人間は、変わらないと幸せになれないというのも誤解で。「幸せ」はゴールじゃないんです。それ以上努力しなくても良いというわけでもない。じつは「幸せ」は、子どもにとって「変わる」ための条件なんです。

しがトコ亀口:「幸せ」は、変わるための条件?

茂木:そう。「幸せ」はつまり「安全基地」に居るということ。親が見守ってくれている「安全基地という幸せ」を感じて、チャレンジができる。子どもは「チャレンジ」してないと幸せじゃない。大人もじつは同じなんでんすよ。

しがトコ亀口:幸せだからチャレンジもできるし変わっていける!ポジティブなスパイラルですね。

話しかける茂木さん

茂木:だから、ちょっといま日本が心配なのは····(学生を見ながら)きみは大丈夫?若者の保守化と言われてることがあって。ゲームのルールがきまってて、それにあわせなくちゃいけないと思ってる人が多いんですね。

中国とかシンガポールの学生たちとしゃべってると「どんどん変わっていくんですよ〜、ハハ!」みたいな雰囲気だけど、大丈夫きみたちは?

しがトコ亀口:どうなんだろう?のりちゃんは、何か思うところある?

5 人は、悩むことで若くなる?!

相談する学生

大学生(のりちゃん):うーん。私はその時に感じたことを言語化するのが苦手で。感想を聞かれてもすぐ答えられなくて。後になってから「あの時はこういう感情で、こういう学びがあったんだな」って。

茂木:それは脳の中では、速さと深さは反比例するから。深いところで感じたものを掘り起こそうとしてるんじゃない?逆に、例えばテレビのバラエティー番組で、あんまり見てないんだけど、回すのうまい芸人っているでしょ?

しがトコ亀口:番組の進行がうまい芸人さんいますね。

茂木:テレビ界の人は、そういう芸人さんに「助かります!腕があるから」と言うんだけど、ちょっと炎上してもいい?この記事。

しがトコ亀口:どうぞ続けてください(笑)。

茂木:あの人たちは浅いところで回してるからすぐしゃべれるんですよ。テレビって、その場ですぐ何か言えなくちゃいけないから。

しがトコ亀口:スピード感がすごいんでしょうね。

茂木:俺の友人で、白洲信哉ってのがいて。一緒にフジテレビのバラエティーに出たことがあって、俺が「白洲さん、いかがでしょう」って話をふったら、普通はなんか答えるじゃん。白洲信哉はカメラが回ってる間、ずっとこうやってて(笑)。

考える茂木さん

しがトコ亀口:「うぅ〜ん」って、考え中なんですね(笑)。

茂木:そうそう。何も答えない。結局、それからテレビには呼ばれなくなったんだよね。だから、あんまり気にする必要ないよ。ただ、時間がかかっても、最後には言語化ができるのは、すごいなと思いますけど、覚えてんだよね、その感覚をね。

大学生(のりちゃん):感覚は、はい。

茂木:それ、僕の研究テーマであるクオリアと関係してて。クオリアは覚えてるんだけど、言葉にはできないものだから。うん、いいと思いますよ。

大学生(のりちゃん):このままでも良いって聞いてなんか安心しました。ありがとうございます!

茂木:いやいや〜。え?!こんな感じでみんな順番に行く?

しがトコ亀口:今日は3人も連れてきちゃいましたからね。もう、学生のお悩み相談会でいきましょ!

茂木:うん。もう、どんどん、どうぞ(笑)。

相談する学生02

大学生(なっちゃん):私は、いつも自分に自信がなくて。みんなはどうやって日々を選択して行動しているのかな?って。

茂木:日々の選択?例えば今日のご飯は何食べるとか、そういうこと?

大学生(なっちゃん):就職とか進路とか。例えば人との関係性とか、コミュニケーションの取り方を一つを取っても自信がないというか。もう自分がブレブレで……。

茂木:まあ、でも脳の研究の中では『デフォルト・モード・ネットワーク』というのがあって。脳が特に何もしてないとき、アイドリングしてるときに、さまよい歩く回路があるんだけど。これは若いときには活動するけど、年取るとだんだん活動しなくなってくる。

笑う

茂木:あれ、なんでそんなにうなずいてんの?!

しがトコ亀口:もうね、私ぐらいになると子育てやなんやで、自分のことなんて考える時間もなくて。アイドリングしっぱなしですよ(笑)。

茂木:それでうなずいてたの?!まあ、学生時代に思い迷うっていう、要は白昼夢みたいな状態は、青春の証だな!逆に言うと、年を取ってもそういう時間帯が持てる人は、脳が若いから。これは覚えといたほうがいいよ。

しがトコ亀口:え、そうなんですね!良い年をして、なに悩んでるんだろうって、思わなくてもいいんですね!思い悩むのは脳が若い証拠と聞くと、なんか元気でる(笑)。

大学生(なっちゃん):私はもう悩みすぎて……。自分がこれからの人生、どこに行くのか。

茂木:あのね、オスカー・ワイルドっていうアイルランドの作家がいるんだけど。彼は銀行員は銀行員になって幸せだし、法律家は法律家になって幸せだし、何かなりたいものや、職業がある人はそれで幸せなんだけど、“自分自身になりたい”人は、どこに行ったらいいか分からないから困るんだ。そんなことを言ってて。

大学生(なっちゃん):自分自身になりたい人……?

茂木:うん。例えば「私は医者になりたいです」とか職業が付く人はわかりやすくていいじゃん。でも、自己実現というか「自分になる」ことは、すごい難しいってことを、オスカー・ワイルドが言ってるんです。そこに真実があるんじゃないかな。

大学生(なっちゃん):自分になる……もう余計にわからなくなりますよね(笑)。

茂木:立派なことだけどね、何したらいいか分からないから困るんだよね。だから、なんか、働いたらいいんじゃない?

大学生(なっちゃん):バイトですか?

茂木:うん。どうやってお金を稼ぐか。僕、ずっと学生時代から意外とバイトはしてて、高校から家庭教師やらされたからね。予備校の模試の採点のバイトもしてましたよ。

しがトコ亀口:まずは、地に足をつけることですね。

茂木:そうそう、やっぱり「遠くを見つめる」と言っても、地に足がついてないと。どこからお金がきて、何が必要で、どうやって仕事が回っているか。現場感覚を身につけることが大事なんじゃないかな。

しがトコ亀口:現場感覚、なるほど。

茂木:ハフィントン・ポストが、あれだけ急激に伸びたのは、やり方があったんだろうし、例えばNetflixだって。あれはレコメン機能が鍵で。男女のジェンダーとか年齢を一切考慮しない統計解析だから。日本だと、女性のこの年代はこのドラマが好きで、みたいな解析だけど。それが実は意味がないことを発見したのがNetflixだから。なんか、現場のそういう話が面白いよね。

しがトコ亀口:現場というか、プロの仕事というか。

茂木:そう。その現場感覚が素人とプロの違いになっていく。例えば、素人としゃべってると「なんで茂木さんの本って脳っていうタイトルが多いんですか」って。「いや、あのね、タイトルは自分で付けないんだよ」って。編集者や営業が付けるから。それを知らないのと知ってるので、世の中の見方が変わってくるじゃない、そういうことかな。

しがトコ亀口:なるほど。ありがとうとうございます。(学生をみて)ショーくんはどう?

6 人生は、演じない

話す学生03

大学生(ショーくん):いま思うのは、一生懸命になるのってすごく難しいなぁと。

茂木:そうなの?

大学生(ショーくん):ちょっと引いた視線で見てしまうというか。

茂木:子どもの頃は熱中してた?それとも、ずっとそういう人だったの?

大学生(ショーくん):いや、熱中してたと思います。ひたすらずっと公園で野球してるような子だったので。いまも熱中してるつもりなんですけど、熱中してないっていうか。

茂木:人の目、気にしたりする?

大学生(ショーくん):します、めっちゃしますね。

茂木:そこらへんじゃないかな。でも、役者にとっては大事なんだけどね、いつも客観視できるのは。それをメタ認知っていうけど。

大学生(ショーくん):はい。

茂木:でも、人生は、人生って、別に演劇じゃないから。

大学生(ショーくん):はい。

茂木:俺がしらけるのは、その人の”フリ”をしてるだけの役者の人。本当にそういう人がいるなら、その人の生き方を演じるよりも、本当のほうがよくない?

大学生(ショーくん):演じるよりも……はい、そうですね。

茂木:演じるよりも、君がそういう人になればいいじゃん。だから、他人の目を気にしないこと。だいたい熱中してる人ってみっともないからね。

大学生(ショーくん):みっともない!ああ、そうかもしれないです。

茂木:いろんな人が熱中に勝てるものはないって言ってるよ。アスリートからビジネスパーソンから。でも、熱中したいんでしょ。そういう問いをしてるってことは、熱中したい自分がいるんだよ。

大学生(ショーくん):そう、熱中したいんです。

茂木:なに?メモ書いてるの?なんかホント読めないな〜。まあいいや、ごめん。俺が読めなくても、君が読めればいいんだ。

よりそう茂木さん

たたみかけるように勢いよく話したところで、ふとショーくんのメモを覗き込む茂木さん。その表情が、菩薩の微笑みなのか?!と二度見してしまう瞬間。

茂木:自分のやってることが、ほんとに意味がある、価値があると思ったら自然に熱中できると思うんだよ。

大学生(ショーくん):仕事は、すごい楽しいとは思ってて。     

茂木:どんな仕事なの?

大学生(ショーくん):人材とか採用系の支援とか、合同説明会を開いたりするのがメインの事業なんですけど。

茂木:例えば人を採るって、ほんとはその人の個性をどうつかむかというすごい難しい問題で。それをハーバードの入試担当は徹底的にやってるから、ハーバードの採用基準、合否基準は全く誰も分かんない。アメリカ人でも。

大学生(ショーくん):そうなんですか。

茂木:日本は偏差値の高さを自慢してるやつがいるけど、偏差値は関係ないよ。

大学生(ショーくん):偏差値じゃない?!

茂木:ハーバードはSランク大学で、ペーパーテストの点数が低い人でも入れる。それはAOの、アドミッションズ・オフィスの人がほんとに必死になって、その人の個性を見極めようとしてるからで。

しがトコ亀口:演じていない、その人の「本当」のところを見るんですね。

茂木:その結果が、1年間2,000人の合格者になるわけだけど、みんな点数がばらばらだから。満点でも全然入れない。でも、Sランクでも入れるわけ。

大学生(ショーくん):なるほど。

茂木:でも、人事採用ってほんとはそういうことだよね。企業の側と学生の側でマッチング取るって、ものすごく難しいことじゃない?そんなふうに突き詰めていくと楽しいんじゃないかな。雰囲気やノリでやるんじゃなくてね。

7 本当の自分自身を発信する

考える茂木さん

しがトコ亀口:茂木さんの学生の頃はどんな風だったんですか?

茂木:めっちゃ悩んでましたよ。だって箱庭療法という河合隼雄さんのやってた学生相談所に行って、下山先生、いま東大の教授になってるけど、その人のデータになってたもん。

しがトコ亀口:データになってた?

茂木:毎回、箱庭つくってた。あるときは、俺が山ん中にいて、猿で、村人が祭りで遊んでて。「これはどういう気持ちなんですか」と。「いや、俺は祭りを見てるんだけど、祭りの輪には入れなくて。でも、無関係に山ん中でひとりで暮らすよりは、やっぱりあそこに入りたいと思ってるのが僕です」みたいなことを言ってたよ。

しがトコ亀口:大学時代も、ちょっと輪に入れずにいたような感じだったんですか。

茂木:いや、今でもだから似たとこあんじゃない。基本的になんか、その、社会の真ん中とは違うとこにいるって感じ。

しがトコ亀口:真ん中ではないですね、はい、分かります。

茂木:バラエティーが好きという人って、ほんとに好きで見てるらしいんだけど、俺、地上波テレビのバラエティーって1秒も耐えらなくて、意味が分かんなくて。「面白いっすよね」って言われても……

インタビューの様子

茂木:あ、君ももしそっちのほうだったらごめんね。

大学生(ショーくん):地上波テレビのバラエティー、見てますね(笑)。

茂木:ごめんごめん(笑)でもね〜、俺、全然面白くなくて。それはもう思春期から変わってないというか。自分の好きなものは、映画でもメジャーな映画ではなくて。で、そういうのが好きな細々とした仲間がいて、ちょっと肩寄せ合いながらいるみたいな感じだから、それが猿と村人に表れてるのかもしれない。

インタビューの様子から

茂木:生きるの大変だったね、あの頃。今もそんなに楽じゃないかもしれないけど。

しがトコ亀口:祭りの輪の中にいて、みんなと一緒に踊っていれば、大変ではなかったかもしれない?

茂木:うん。でも、みんなと一緒じゃなくても別にいいじゃん。俺がもし君たちの年代だったら、エントリーシートとかその時点で、もう拒否感が強過ぎて何もできないと思う。ビデオで自己アピールって気持ち悪くて。リクルートスーツとか絶対無理だし。

しがトコ亀口:さっきの箱庭のお話では「山の中でひとり暮らすより、祭りの輪に入りたいと思っている」と。祭りの輪が世の中?

茂木:そうですね。その世の中との唯一のつながりとして、僕、朝起きたらブログ書いてツイートしてっていうのが習慣なんですよ。

しがトコ亀口:YouTubeもされてますもんね。

茂木:はい、はい。底辺YouTuberね。

しがトコ亀口:あ、あれは全部ご自身で撮ってるんですか?

茂木:もちろん、全部自分でやるよ。もともとYouTubeの創業者が、創業して1年目ぐらいに日本に来てて、鈴木良雄さんという方の紹介で新宿で会ったんですよ。ちょうどGoogleが2,000億でYouTubeを買い取ったころかな?その頃のYouTubeはまだ大きくなくて「Googleの中で肩身が狭いんですよ〜」とか言ってて。そう!それでYouTubeのスローガンって知ってる?

しがトコ亀口:えーと、なんでしたっけ。

茂木:え、知らない?Broadcast Yourself。「自分自身をブロードキャストしよう」。その精神にすごく感激して。俺、かなり初期にYouTubeは登録してるはずなんだよね、クリエーターとして。

しがトコ亀口:そうでした!「あなた自身を発信しよう」ですか。

茂木:そうそう。当時はまだあまり浸透してなくて、著作権のぱくりの動画も多かったわけじゃないですか。でも最近は、Broadcast Yourselfの動画が増えてきてて。

しがトコ亀口:芸人さんや芸能界からもユーチューバーになる人が増えてきました。

茂木:この前、堀江と(編集部注:堀江貴文さん)NewsPicksの『HORIE ONE』という番組やってて。

しがトコ亀口:時事ネタを堀江さんの視点で解説してるんですよね。

茂木:堀江のあの手抜き動画……て言ったら、すげえ怒ってて「手抜きやないっすよ!」って。大体YouTubeで、いろいろ編集してるやつは、話す内容がないからごまかしてるだけだって、堀江が。

しがトコ亀口:たしかに動画は3分ぐらいなんですけど、すごい情報量ですもんね。

インタビューの様子05

茂木:堀江のね?

しがトコ亀口:はい、堀江さんの……。あ、いや、茂木さんの動画も、もちろんなんですが(なんかおかしなこと言ったかな今……)

茂木:だからBroadcast Yourselfという、当時YouTubeが創業したときの精神がいま花開いて、堀江みたいな感じになってて。おそらく去年の2019年あたりが分かれ目だった気がします。地上波テレビのトラディショナルなメディアと、YouTube的なものと。

しがトコ亀口:分かれ目が、はい。

茂木:YouTubeのほうが地上波テレビよりも、経済的にもいい時代になってきてて。僕も、テレビの仕事はいまもやってるけど、やっぱりYouTubeのほうが自分で編集できるし、自分の好きなことをしゃべれるから楽しいよね。

しがトコ亀口:本当の自分自身を発信できるってことですね。

茂木:うん。それで今日、新幹線に乗ってるときにYouTubeに動画をあげたんだけど。キュービズムって知ってる?

しがトコ亀口:たしか、幾何学模様で描いたピカソの絵画が……。

茂木:そう、キュービズムという絵画の運動。そこから派生して、量子力学というものを、ベイズ統計で展開するQBismっていうやり方があるんだけど、量子力学っていう。量子力学はご存じですか?

しがトコ亀口:粒子の世界のこと?ぐらいしか知りませんね(きっぱり)。

茂木:まぁ、QBismは英語のウィキペディアはあるけど、日本語のウィキペディアはないからね。それについて、新幹線に乗るときに3分ぐらいしゃべって、ぱっと上げて、すごく気持ちいい。これ、絶対地上波テレビでは無理っていうか、NHKだと、茂木さん、キュービズムって分かんないすよね、量子力学って、そもそも視聴者は分かんないからって。

しがトコ亀口:なるほど、視聴者に分かるように、分かりやすく。

茂木:っていうふうになっちゃうから、テレビだと。どんどん薄味になっちゃうんだけど、YouTubeは自分の好きなことをしゃべれるから、素晴らしいなと思って。

しがトコ亀口:まさにBroadcast Yourselfなんですね。自分自身を発信できる。

8 いまこそ「本当」を

茂木:だから時代はそういう方向に行ってる。だから、いまは楽しい時代になりましたよね。

しがトコ亀口:あの私は”自慢したくなる滋賀”をコンセプトに「しがトコ」というメディアをやって、もう8年目なんですが。当初は、地元の人こそ「滋賀なんて何にもないから」みたいな反応だったんですが、このメディアを通じて、滋賀の魅力に気づいたという声もいただくことが増えてきまして。

茂木:うん、いいじゃない。読み手の意識が変わるのってだいたい1~2年のタイムラグがあるんだよ。あんまり都会か地方かってことも関係ないしね。

しがトコ亀口:都会か地方、そうですよね。

茂木:うん、あんまりっていうか、全く関係ないでしょ。

しがトコ亀口:このインタビューの最初の話にも出た「遠くを見つめる視点」を掘り下げて、ローカルならではの情報を発信していけたらと。

茂木:うん、がんばって!

インタビューの様子06

しがトコ亀口:もうちょっと一言、応援的なコメントをいただけたらな〜って、いま思っているんですが(笑)。

茂木:「ローカルメディアこそがいまの日本を元気にするのではないでしょうか」。

しがトコ亀口:なんか、いま、棒読みでしたよね?!

茂木:そんなことないよ。「ボクモキタイシテイマス」。

しがトコ亀口:あー、絶対いま、棒読みでしたよ!

茂木:まあ、でも本当に「遠くを見つめる視点」というのは、脳にとって、現代人にとっては一番必要ですよ。脳はオープンエンドで、終わりがないから。

しがトコ亀口:「脳はオープンエンドで、終わりがない」。なんだか勇気が出る言葉です!茂木さん本当に今日は1時間にわたりお時間をいただきありがとうございました!

2010年8月23日、茂木さんはこんなツイートをしていた。考えてみれば、ちょうど私が10年ぐらい前に、決意表明のメールを送ったとき。脳はオープンエンドで終わりがない。その可能性を変わらずに発信し続けている茂木さんだった。

9 最後までおしゃべりは続く

と、言いながらも、まだ終わりじゃないんです。終わりにするつもりできれいにまとめようと思ったんですが····もうちょっとだけ続きます。

茂木:あ!写真はもう撮らなくて大丈夫?

しがトコ亀口:まだ時間いいんですか?このあと京都新聞の文化ホールで講演されますよね?ここから15分ぐらいですよね。

茂木:じゃあ、会場に向かいながら。

しがトコ亀口:場所わかります?

茂木:大丈夫、Google先生に案内してもらうから。

京都を歩く

茂木:滋賀は中心っていうのはどこなの?大津なの?意外と中心がわかりにくいよね。ばーっと広がってるかんじはあるよね。

しがトコ亀口:やっぱり琵琶湖が真ん中にあるので。ぐるーっとまわっていかないとダメなので、なかなか不便なところはありますねえ。

茂木:琵琶湖が泣くぜ「えーじゃまなんだ〜」って(笑)。

しがトコ亀口:琵琶湖、泣きますかね。

茂木:(街の看板をみながら)ああ!探偵さんドットコムだって!

しがトコ亀口:どこどこ、え?ちっちゃい看板なのによく気がつきますね……。茂木さんいま13時12分ですよ。

茂木:あ、12分。だいじょうぶだいじょうぶ。

しがトコ亀口:30分から講演が始まりますけど、本当に大丈夫ですか?!(間に合うのか、もう気が気じゃない)

茂木:だいじょうぶだよ。

(あと15分後には講演会なのに?!ちょっと走ったほうがいいんじゃ……)

茂木:そこに「犬の糞尿禁止」ってかいてるけど、犬には読めないよね。

しがトコ亀口:ええ、犬はね。あ、あそこで信号、わたらないといけないですよね。

茂木:うん、さっき、おれが道を失敗しちゃったから。信号わたるのワンステップ多くなっちゃった。あ、青だ!走るよー!

しがトコ亀口:やっぱり急いでるんじゃないですかぁあー!

走る茂木さん

走れ、走れ!「大変だ、遅刻する〜!」そう言っていつも急いでたのは『不思議の国のアリス』に出てくる白ウサギだったっけ。

走る茂木さん02

なんだ、あの軽々としたフォームは。そういえばずっと走り続けてきたって、言ってたな。
急げ、急げ!アリスは白ウサギを追いかけて、不思議の国へたどり着いたのだ。

走る茂木さん03

もうすぐ、信号をわたりきって、その先には講演会場がまっている。大人になってから、みんなで街中を全力疾走するなんて、これ、どういうシチュエーションなんだろう。白ウサギの茂木さんにとっては、いつものことだろうけれど。あ、白ウサギじゃなかったか。

茂木:だいじょうぶですかー?みなさん!

しがトコ亀口:もうね、息がね。

茂木:普段あんまり運動してないの?!

しがトコ亀口:そうなですよ。滋賀県民は車ばっかりで。大阪に住んでるときは、歩くのが早すぎて前の人のかかとを、よく踏んでましたが。

茂木:ついでに、蹴り入れたりして?(笑)。

しがトコ亀口:はっ····ははは。

茂木:わー、あれ京都新聞だ。おれはじめてなんだー。

しがトコ亀口:きっと、担当者の方は心配して待ってますよ。

茂木:あ、あそこにいるのがそうじゃない。絶対そうだよ。タクシーでくることを想定してるからね。あそこで待ってるんだよ。

(茂木さんを待ち構えて、大きく手をふる担当者さん)

茂木:おーい、取材だったんだよ。大丈夫だって。30分からでしょ??

しがトコ亀口:すいません〜。ぎりぎりで。はじめまして、滋賀県でローカルメディアをやっておりまして。

茂木:このひと、佐賀県の人だから。

担当者さん:はい、佐賀の。

茂木:もう時間がないし、一緒に控え室に。

しがトコ亀口:私たちも?!講演直前にすみません!

(エレベーターに乗り込みながら)

茂木:はし、ごめんね。

担当者さん:大丈夫ですよ。

茂木:不安だった??

担当者さん:まったく不安じゃなかったです(きっぱり)。

茂木:待ち合わせの喫茶店が、改修してて入れなくてさあ。

担当者さん:へー。

茂木:だから、その近くのショコラ屋さんで。

担当者さん:お茶してたんですか?

しがトコ亀口:いやいや!取材ですから〜。

(控え室のテーブルに並ぶお菓子をみて)

茂木:あ、このチョコじゃないの??

しがトコ亀口:ベルアメール……あ!そうですそうです!

茂木:ここにいたんですよ。さっきまで!

カメラマン:時間もないんで、写真いちまい撮ったら帰りますんで。

茂木:はい。

しがトコ亀口:じゃあ、学生も一緒にいいですか?

茂木:「がんばれよ」ってかんじでね。

しがトコ亀口:あ!せっかくなんで、私も、じゃあ一緒に!

茂木:「学生さんですか?

最後にみんなで

「茂木さん!もう講演会の時間です。そろそろ!」

会場の担当者さんが慌てて呼びにきて、私たちも最後の挨拶もそぞろにバタバタと控え室を後にした。
それから電車に乗って、自分たちの暮らす滋賀へと帰った。
改札を抜け、見慣れた風景の中を。地に足をつけて。

待ち合わせ場所が工事中だったことも、京都の街を走ったことも。
まるで不思議の国の出来事みたいに感じた日だった。
白ウサギはきっと茂木さんみたいな人なのかもしれないという
おかしな妄想が膨らんでしまう。

走れ走れ、急がないと遅れてしまう。

不思議の国へ導く登場人物は、いつも走りながら横切っていく。

(取材・文 亀口美穂 写真:若林美智子)

記事公開日:2020年3月12日/最終更新日:2023年6月12日

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