カルチャー

アートの形は一つじゃない。滋賀らしさがにじみ出た「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトをレポート!

滋賀をみんなの美術館に成果発表会

【滋賀をみんなの美術館に:成果発表会レポート】

琵琶湖を中心に、豊かな自然と歴史文化が広がる滋賀県。
ここには、地域の資源を生かし、独自の表現を生み出すアートプロジェクトが数多く存在しています。
その象徴とも言えるのが、「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクト。

毎年、滋賀で活動する様々な団体が、滋賀ならではの”美の資源”を活用し、
地域での取組を行っています。

今年度も一年間、それぞれの団体が取り組みを実施。
その内容を報告する成果発表会が開催され、
それぞれの持ち味を活かした独創的な活動を発表しました。

日常の風景がアートに変わる瞬間/はまダンスプロジェクト

はまダンス企画

商店街のど真ん中で、突如として踊り出すダンサーたち。これはフラッシュモブでも、映画の撮影でもありません。
大津の風景とコンテンポラリーダンスを融合させ、新たな表現の場を生み出したのが「はまダンス企画」です。

はまダンス企画 千代さん

コンテンポラリーダンスは、クラシックバレエやストリートダンスのような決まった型を持たず、身体の動きを通して感情や空間を表現する自由なダンス。

このプロジェクトでは、地元の商店街や琵琶湖岸、教会などを舞台に、ダンサーたちが即興で踊りながら、地域の歴史や風景を新たな視点で切り取ります。
映像を通じて、普段は見慣れた風景が、ダンサーたちの動きによってまったく違う表情を見せる瞬間が捉えられていました。

この取り組みについて、評価委員の上田洋平さん(滋賀県立大学地域共生センター)は「大津の暮らしや歴史と、個人の身体が混ざり合う表現が生まれているのが素晴らしい」とコメント。

評価委員の上田洋平さん

「『楽しい』という言葉の語源の一つが、『手を伸ばす』ということなんですね。まさに、そういった身体表現の根本的な喜びがここにあるんじゃないでしょうか。」

人間の原始的な表現でもあるダンス。それが地域に根ざすことで、新しい世界が見えてきそうな気がしてきました。

☆参考記事:商店街でいきなり始まるコンテンポラリーダンス!日常をダンス会場に変える新しいプロジェクト:しがトコ

琵琶湖が生み出すアート:BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス

BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス

琵琶湖を舞台に、漁師とアーティストがコラボレーションする「BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス」。参加アーティストたちは、実際に漁に同行し、湖に潜り、地元の人々と交流しながら、新たな表現を生み出していきます。

今年は、アーティストが実際に琵琶湖の水中に潜り、漁師の技術を体験しながら作品制作に取り組む様子が紹介されました。漁の仕組みや湖の環境を知ることで、単なる「風景としての琵琶湖」ではなく、「生きた文化としての琵琶湖」を表現することが目的です。

今年度から「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトの相談支援をされてる竹岡寛文さんは「地域資源を活かしたプロジェクトとして、今後の広がりが楽しみだ」とコメント。

滋賀ならではの琵琶湖を中心にしたプログラムの今後に期待が高まります。

☆参考記事:漁師とアートが異色のコラボ!琵琶湖の魅力を伝える『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』:しがトコ

受け継がれる炎のアート:たいまつフェス2024

たいまつフェス

近江八幡の「ラ コリーナ」で開催される「たいまつフェス」。
各地域ごとに異なる松明(たいまつ)を制作・展示し、地域の伝統を次世代へと継承する取り組みです。

このフェスでは、松明の制作過程も公開され、来場者がワークショップを通じて参加できる仕組みが取り入れられています。展示された松明は、春の祭りで実際に奉納され、燃やされることで役目を果たします。

文化遺産としての松明を次世代へ贈る会 大西さん

評価委員の伊藤まゆみさん(京都精華大学ギャラリー Terra-S)は、「単なるイベントではなく、地域の文化を体験しながら伝える貴重な機会」と評価。
近江八幡に根付く、日本古来のたいまつ文化。それを伝えていくプロジェクトなのかもしれません。

☆参考記事:滋賀の初冬の風物詩!「ラ コリーナ近江八幡」で出会う、たいまつアート!:しがトコ

信長ゆかりの寺で繰り広げるアート:AT ARTS 浄厳院現代美術展

浄厳院現代美術展

450年以上の歴史を持つ「浄厳院」の境内を舞台に、現代美術の展示が行われた「AT ARTS 浄厳院現代美術展」。本堂や楼門、鐘楼など、歴史的な空間を活用し、寺全体がアート作品として機能する試みでした。

この展示では、現代美術の視点を通じて、歴史と現代が交錯する空間が生み出されました。絵画や彫刻、インスタレーション作品が、古い木造建築と対話するかのように配置され、訪れる人々に新たな視点を提供。

また、このプロジェクトの特徴は、地域の子どもたちや住民が積極的に関与していること。地元の小学生がアーティストと共同で作品を制作するワークショップが開かれ、完成した作品が寺の境内に展示されました。訪れた観客の多くは、「歴史の中に現代アートが溶け込んでいるのが新鮮」と驚きの声を上げていました。

「歴史あるお寺が、地域の人々にとって表現の場となっているのが素晴らしい」と評価委員の朝倉由希さん(公立小松大学)は高く評価。

子どもたちが積極的に関わることで、アートを通じた地域の文化活動として発展していくことに期待ですね。

☆参考記事:信長が建てたお寺が舞台。日本最大規模の現代アートの祭典『浄厳院現代美術展』:しがトコ

言葉が生み出す青春の風景:電車と青春21文字

青春21文字

電車の中に掲示された、わずか21文字の青春メッセージ。
短い言葉の中に、誰もが経験したことのある青春の情景を映し出し、多くの人の心を打ちました。

「デジタル化が進む時代に、言葉による表現の価値を再認識させてくれるプロジェクト」と絶賛。
文学を通じたアートの広がり、大きな可能性を感じさせられますね。

☆参考記事:「このときめきはキノセイじゃなく、スキノセイ」青春の言葉をのせて運行中!:しがトコ

土から生まれるアート:山中suplex

山中スープレックス

山中の自然環境を活かし、「土」をテーマにしたアート活動を展開する「山中suplex/Yamanaka Suplex」。参加者と共に畑を作ることで、アートと農業を結びつける新たな視点を生み出しました。

上田さんは、「土というテーマが、アートだけでなく『アグリカルチャー(農業)』へと波及しているのが面白い」と評価。
京都から滋賀へとたどり着いたアート集団が、これから何を生み出していくのか楽しみです。

☆参考記事:ゴミ捨て場から世界をひっくり返す!アート集団『山中suplex』が目指すもの:しがトコ

「滋賀をみんなの美術館に」が生み出す未来

令和6年(2024年)度の「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトでは、6団体がその取り組みを発表。
その発表に対する総括として、相談支援の竹岡寛文さんと、評価委員の朝倉由希さん、伊藤まゆみさん、上田洋平さんの4人が、それぞれの視点からこの取り組みの意義や今後の展望について語ってくださいました。

竹岡寛文さん

まず、最初に話してくださったのは、アートディレクターとしても活躍されてる竹岡さん。

「個々のプロジェクトは、どれも地域の特性を活かしながら独自の視点で展開されていました。ただ、それぞれが単体で完結するのではなく、互いにどうつながり、滋賀全体が『美術館』として機能していくのかを考える段階に来ていると思います。継続的に交流できる仕組みを作れれば、さらに面白い展開が生まれるはずです。」

一つひとつのプロジェクトがユニークであるからこそ、全体としての相乗効果をどう生み出すかが、今後のステップにつながるのかもしれません。

朝倉由希さん

続いては、この日はオンライン参加だった朝倉さん。

「美術、演劇、言葉、伝統文化…これほど多様なジャンルが一堂に会する場はなかなかありません。普通ならカテゴライズされてしまう活動が、同じ『美術館』という枠組みの中で共存し、互いに影響し合っているのが、このプロジェクトの大きな魅力です。こうした多様性を維持しながら、プロジェクトが持続していくための仕組みづくりが大切ですね。」

滋賀をみんなの美術館に、というこのプロジェクトの本質をつくようなコメント。まさに、いわゆる美術だけではない、様々なアート表現の混在したプロジェクトが面白さに繋がってるのかもしれません。

伊藤まゆみさん

京都精華大学で活躍されている伊藤まゆみさんからは、こんなコメントが。

「このプロジェクトに関わった人たちが、発表を終えたら解散するのではなく、何らかの形で関係を続けられる仕組みがあれば素敵だなと思います。例えば、数年後に同じメンバーが集まり、それぞれの活動の変化や進化を振り返る場があれば、長期的な視点での成長が見えるかもしれません。地域文化を育むには、時間をかけることが必要です。」

最後に、10年以上にわたり、本プロジェクトに関わってくださっている上田洋平さんからに総括いただきました。

「今回の発表を見ていて、まるで滋賀の土地そのものがひとつのスープになっているようだと感じます。山、里、湖…それぞれが持つ要素が混ざり合い、そこにアートというスパイスが加わることで、独自の味わいが生まれる。こうしたプロジェクトが続いていくことで、滋賀の文化がどんな味になっていくのか、これからが楽しみですね。」

滋賀という地域のあり方が、そこにあるのかもしれません。

滋賀をみんなの美術館に。
そのコンセプトのもとで動き続けるプロジェクト。
これからの滋賀の、新しいスタンダードにもなり得るプロジェクトとして、これからも注目していきたいですね。

集合写真

令和6年度「滋賀をみんなの美術館に」プロジェクトの取り組み

信長が建てたお寺が舞台。日本最大規模の現代アートの祭典『浄厳院現代美術展』

「このときめきはキノセイじゃなく、スキノセイ」青春の言葉をのせて運行中!

商店街でいきなり始まるコンテンポラリーダンス!日常をダンス会場に変える新しいプロジェクト

漁師とアートが異色のコラボ!琵琶湖の魅力を伝える『BIWAKOアーティスト・イン・レジデンス』

滋賀の初冬の風物詩!「ラ コリーナ近江八幡」で出会う、たいまつアート!

ゴミ捨て場から世界をひっくり返す!アート集団『山中suplex』が目指すもの

これまでの「滋賀をみんなの美術館に」成果発表会

『おつかまりください 混んでいるから僕の腕に』今年も心がキュンとする、青春21文字のメッセージ

滋賀から発信!個々の表現の”つながり”が新たな価値を生み出すアートプロジェクト

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